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2018FIFAワールドカップアジア2次予選、日本代表対シリア代表のレビューとハリルホジッチ戦術、そして日本サッカーの病について

さて皆さん、お久しぶりでございます。更新が半年近く止まってましたが、久々に日本代表のレビューでもやってみようかと思います。対象の試合は、直近のアフガニスタン戦とシリア代表戦になります。この2試合なのですが、ハリルが色々と戦術のテストをしてくれたおかげで、うちのブログでも書くことが出来た訳です。本当に有り難い話です。うちみたいなブログは監督が戦術いじってくれないと書くことなくて困るのです。



今回のエントリなんですが、シリア戦のレビューとかいいつつ、アフガニスタン戦の話もします。内容的には、いつかやろうと思っていた話なんですが、「サイドにWG貼るタイプのサッカー」と「サイドにWGが貼らないサッカー」の戦術の違い、選手の動き方の違いなんかを扱います。


実は、日本サッカーの場合、「WGを使ったサッカー」をやるチームがそんなに無く、WGを使ったサッカーの代表格である433系はあんまり人気がありません。そのため、ワイドに張ったWGを使うサッカーってのが過小評価されてると思う事もあるわけです。レーブのドイツが使っていた4231のシステムはSBとWGがサイドに張り付いてるタイプだったんですけどね。まあ433になってからシステムが変わりましたが。



という訳で、本日はまずシリア戦の日本代表のシステムと戦術の話をしてから、アフガニスタンでハリルホジッチが試していたシステムの話をします。二つのフォメを比較すると、色々と面白い事がわかります。



シリア戦における日本代表の戦術とシステムの話、ハリルホジッチジャパンの戦術のおさらい。


まずは、先日のシリア戦の日本代表のシステムの話から入りましょう。随分長い事、日本代表のレビューしてなかったので、簡単にハリルホジッチの戦術のおさらいから入ります。


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フォメはこうでした。4231で、ワントップと2列目はいつもの。ボランチは長谷部と山口蛍、4バックは長友、モリゲ、マヤ、ゴートクの並びです。相手のシリアは4141を採用してました。香川にアンカーを貼り付けたかったんでしょう。


フォメはザック時代と一緒ですが、ハリルホジッチは、ボランチの二人の片方にゲームメーカーでなくて、働き蜂タイプを入れてるところに特徴があります。また、原口を時々ボランチで使ってますが、ボランチに前への攻撃参加が得意な選手を起用している所にも特徴があります。



こういった人選は、通常、サイドにWGを張らせるタイプの4231で使われます。ハリルホジッチの戦術面での狙いとしては、


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こうなりますが、このシステムの肝はSBとWGをサイドに張り出させる事で、相手のブロックのSBとCBの間、SHとボランチの間にギャップを作る事が狙いになります。その上で、このギャップをトップ下、ボランチ、CFが使っていくことになります。具体的には


1、ボランチのSBとCBの間に走り込み
2、トップ下がSHとボランチの間でボールを貰って前を向いて配球する
3,SBとCBの間に流れて来たCFのポストプレーからの展開



といった形を狙いとして持っていました。相手が中央を固めてくるなら、サイドチェンジからサイドに張り付いてるSBとWGのコンビネーションで崩していく、といった形となります。ハリルホジッチの4231の戦術での狙いとしては、こんな所になります。特にボランチの攻撃参加が多いチームに仕上がってます。ザック時代よりボランチが前に走り込むのを本当によく見るようになりました。




上記の三つのやり方を使った攻撃シーンをシリア戦のキャプで説明しますが、



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前半27、これはボランチの走り込みを使った攻撃で、サイドチェンジからSBとCBの間にボランチがフリーランかけるって攻撃。これはハリルホジッチがよくやってる攻撃です。山口と長谷部は前への攻撃参加は得意な方ですから、これは正しい使い方。このシーンだと走り込んだ長谷部はフリーになってますから、あそこにパスが出せればビッグチャンスになります。



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前30、これはCFがSBとCBの間に走りこんだケース。この動きで相手のアンカー引っ張って、宇佐美が中にカットインするコース作ってます。岡崎はこういう動きもサボらずやってくれます。



これらのプレーは、以前にブログで扱ってますので、


pal-9999.hatenablog.com


興味のある方はどうぞ。WGのカットインを使ったコンビネーションプレーです。SBとCBの間に走り込む選手に相手チームのボランチがついてくるならカットイン、ついてこないならそのままパスをつけてサイドを抉ってクロスという形に持ち込むのが多いですね。


お次は


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これはCFのポストプレーからトップ下のギャップ受け、前半41。ここは本田がサイドに張ってる状態なんですけど、あそこにいてくれるとSBとCBの間のスペースをボランチとトップ下が使いやすいんです。SBがどうしてもWGにひっぱられますからね。


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これはワントップのポストプレーから展開です。後31からの奴ですね。ここは本当に絵に描いたようなポストプレーからのコンビネーションが決まってます。SBにはたいた後、WGがサイドに開く動きでSBとCBの間にスペース作って、そこのスペース使ってCFがポストプレーをしてトップ下がラストパス。本当にお手本みたいなコンビネーションが決まってます。




これらの攻撃なんですが、シリアがアレな守備やってるんで通った部分もありますが、ワイドのアタッカーを使って相手を横に広げて攻撃するってコンセプトがきちんと出来てるシーンなんで紹介しました。


ハリルホジッチなんですが、就任当初は速攻速攻言ってましたが、「アジアは日本のホームじゃ極端なドン引きしてくる+アジアは1点リードされても前にでてこない」という現実を目にした結果、最近はあんまし速攻速攻言わなくなった感じです。アジア予選における日本代表というのは「いかにドン引きアジアから点を取るか」という戦いになりますので、しょうがないと思います。これが現実です。先に2点リードしない限り、アジアは前にでてきません。


なので、ハリルさんも引いた相手から点取るために色々とやってる訳です。あの監督、きちんと考えてチーム作ってます。


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得点シーンは、1点目オウンゴール、2点目はシリアのクリアミスから香川の個人技、3点目はカウンター、4点目は相手のクリアミスから、五点目は長友のオーバーラップからクロス、でしたね。



全体として日本代表は攻撃面では良い試合したと思うのですが、問題もありました。やっぱり本田が中に入りすぎる問題がこの試合でも起きていて、


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前18のシーンですが、ここね、本田はワイドに開いて欲しいシーンなんです。この後、本田はワイドに開いてるんですけど、ワンテンポ遅かったです。そのため、SBとCBの間にスペースが無いから、CFやボランチが使いたいスペースを本田が潰しちゃってるんです。


WGがああいうポジショニングを取ると、CFのポストプレー、トップ下のギャップ受け、ボランチの前への走り込み、全部出来なくなります。



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これは前35のシーンですけど、ここもそうなんですが、本田が中に入りすぎてます。本田はこの時、バックステップでサイドに開いていけば、SBがついてきますから、SBとCBの間で香川が使うスペースが出来ます。あそこに香川が動くとアンカーがついてくるでしょうけど、そしたら、バイタルが無人になりますから、そしたら本田にボールつけて、本田がドリブルでカットインすれば良いんです。




こういうプレーですけどね。このシーンの場合、あそこで本田がボール貰った場合、マークがついてる状態でフリックで香川にボールを出すか、マークついた状態からターンするっていう難易度の高いプレーを選択するしかなくなります。わざわざそんな難易度の高いプレーしなくても、サイドに開いて、香川にSBとCBの間のスペース使わせるか、あるいは香川にアンカーがついてくるならバイタルが空きますから、それからサイドでボール受けてカットインしたほうがずーっと攻撃はスムーズに行くんです。



この問題なんですけど、実は、岡田ジャパン時代に俊輔が右サイドやってた頃、ザックジャパン時代に香川が左サイドやってた頃にもよく引き起こされてました。日本代表名物サイドアタッカーがサイドに張っていられない問題。日本のサイドアタッカーって、やたらと中に入りたがる傾向があり、何だかなあ・・・・と思う事が多いです。それやっちゃうと逆足のウィング使う意味ないでしょうと。逆足のWG使うメリットはまさにここで、カットインドリブルを使った攻撃したいから逆足のWGを使うわけです。


この形を取れば、それほど人数かけなくてもフィニッシュまで持ち込めるので攻守のバランスを崩さなくて良いんです。ここがもう一つのメリットです。



この問題はハリルホジッチが就任して以来、ずーっと続いており、「どうするのかなー」と思っていたのですが、ハリルホジッチがアフガニスタン戦で戦術いじっていて「おお、そっち系の戦術の引き出しも持ってるのね!」と、ちょっと感心したので、それについて触れておきます。ハリル先生がアフガニスタン戦で戦術いじってくれてたんで、今回のエントリ書く気になったんですけどもね。



アフガニスタン戦の日本代表の戦術のお話

次はアフガニスタン戦の話になります。試合の順序は変わってしまいますが日本代表の攻撃時の問題と絡めると、この試合の戦術テストの意味がわかりやすくなるので、それについて説明しときます。




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試合なんですが、この試合の日本代表はスタメンとフォメいじってまして、4312となってました。日本代表で2トップみたのは久しぶりです。しかし原口はボランチで使われたりインサイドハーフで使われたりと便利屋の如き扱われ方です。



この試合で、ハリルホジッチは、結構毛色の違う戦術を試してます。図でやると



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こーなります。両SBの位置が超高い。4312はもともとサイドの高い位置にアタッカーがいないシステムなんでサイドはほぼ全部SBのプレーエリアになるんですけど、アフガニスタン戦の両SBの位置取りはとんでもなく高かったです。どれくらい高かったかというと、



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これは、アフガニスタン戦の前17分のシーンですが、両SBが相手アタッキングサードでプレーしてるんですね。正直呆れましたが、ただ、この日の日本代表は、常にサイドの高い位置にアタッカーがいる状態でした。


両SB上げるサッカーってのは、日本代表で見るのは久しぶりです。ザックはこれを絶対やりませんでしたからね。イタリア人監督は「SBはつるべの動きをするものだ」というセオリーに忠実なので両SB上げるサッカーはまずやりません。ハリルホジッチはつるべの動きにはそれほどこだわりはないようです。





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このシーンでもそうなんですけど、とにかく酒井ゴリの位置が高い。シリア戦だと、あの位置にはアタッカーがいない事がよくありました。



で、この高い位置に張り出したアタッカーが常に入るって事は何が起きるかっていうと、


日本代表 [ハリルホジッチ] マッチレポート | 2016年3月24日 日本 vs アフガニスタン | Football LAB ~サッカーをデータで楽しむ~



こっちのサイトで数字に出てますが、クロス47本って数字に繋がる訳です。この日はサイドチェンジがボンボン入ってましたが、あの位置にアタッカーがいないと、ボランチやCBは試合を大きく動かせません。普段の日本代表だと、あの位置にアタッカーが居ないため、サイドチェンジができないって問題が結構起きるんですけど、アフガニスタン戦みたいに両SB上げたり、あるいはインサイドハーフがサイドに張り出したりするなら、そういった問題は起きないわけです。


アフガニスタン戦なんですけど、後半もそうだったんですが、


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常に両サイドの高い位置にアタッカーがいるんです。後半12分の攻撃とかは普通に見事な攻撃で


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清武の得点ですね。これはキレーな攻撃でした。



これ系の「中央3名のアタッカー+両サイドの高い位置に常にアタッカー」がいるシステムってのは、日本だとミシャ式3421サッカーが有名ですが、欧州だとドルトムントがやってます。ドルトムントの場合、433ベースから変形して両WGが中に絞って両SBが上がるってシステムですけどもね。実はドイツ代表なんかも最近はこっち系です。



でもって、このシステムの場合、WGを使わないので「サイドアタッカーがサイドに張っていられない病」という日本代表の特異な病が発症しないんです。日本代表がこのシステムを使う最大のメリットは個人的にはコレです。ハリルホジッチがこのシステムをテストした時に思ったのは、「あらハリルさん、意外と本田の病気を気にしてるのね」という事でした。こっち系のシステム使うんであれば、本田の中に入りたがる病は、さほど問題にはなりません。そもそもサイドで使う事はありませんから。




最後に日本代表の不治の病について


最後に日本代表の不治の病について言及しておきます。日本代表を随分長い事見てますが、このチーム、誰が監督やっても治らない病気ってのがあります。今回のエントリでは、「サイドアタッカーがサイドに張っていられない病」の話をメインにやってきましたが、もう二つほどありまして、



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これは前半27分に日本が数的不利カウンターを受けたシーンのキャプで、



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これはシリア戦40分に数的不利カウンター食らった時のキャプです。どちらのケースでも原因は一緒です。DFとボランチが軽率にスライディングし、それがかわされたせいで数的不利、数的同数カウンターを食らうことになりました。特に前半40分のマヤのスライディングは画面の前で草生やしました。



守備においてはスライディングというのは最後の手段です。ただし、日本代表においては最後の手段を最初にぶっぱなす傾向があります。



日本のサッカー教本でも、ドイツのサッカー教本でも、オランダのサッカー教本でも、イタリアのサッカー教本でも、「スライディングは最後の手段」という点で一致してます。ただ、最後の手段をどの段階でぶっぱなすかは、国によって差異があるようです。



スライディング病」と僕は呼んでいますが、日本代表ってチームではDFが滑ってはいけない場面で滑ってかわされてカウンター食らうってのがホントに多いです。




そして最後が、皆さんお馴染みかとは思いますが、「カミカゼアタック病」です。


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実に麗しい4対5が出来てます。


根本的に前に人数かけ過ぎでして、シリア相手に4対5作られるとか草です草。アジア相手に前に人数かけすぎて、数的同数、数的不利カウンター食らうのは日本代表のお家芸です。





サイドアタッカーがサイドに張っていられない病」、「スライディング病」、「カミカゼアタック病」は日本サッカーの風土病みたいなモンでして、治らない病です。誰が代表の監督やっても発症してますので、僕はもう治らない病だと割切って見てます。よく日本の守備はディレイ中心とか言われますが、攻守の切り替えの時、SBやCB、ボランチがいきなり相手のアタッカーにスライディングするのを何度も何度も何度も見てきました。僕は「日本の守備はディレイとか言う人は、切り替えの時にいきなり滑るDFが沢山いるの見てないんだろうか?」と不思議に思うことが多いです。




これね、皆様も割切って感染観戦なさることオススメいたします。文句言っても治りません。治った試しがありません。もはや日本サッカー文化の一部となっており、不治の病です。



ぶっちゃけた話、後ろ二つは見てるだけなら、スリルがあって非常に面白いですから、エンタメとしては間違ってません。前のに関してはWG使わないシステム使えば問題は起きません。



今日はこのあたりで。ではでは。