日本代表対ベトナム代表のレビュー。主に343について。
皆様こんにちは。といっても、これ書いてるの夜なんですが。本日はベトナム戦における日本代表の343のお話をしようと思います。ただ、その前にちょっと寄り道して、先のエントリで、複数の方が指摘してた事について、簡単にお答えしようと思います。
433対343問題。「リベロを中盤にあげてWBを下がらせればいいんじゃないの?」
こっちのエントリで、343が433と対峙したときに起こる問題を話しました。
こっちの図で示しましたが、343は、433と対峙すると問題を抱えます。マッチアップ的に、中盤の底のボランチ、アンカーと呼ばれますが、こいつを見る奴がいないんです。この問題を解決する方法として、複数の方が、「リベロを中盤にあげてWBを下がらせればいいんじゃないの?」という指摘をされていました。
しかし、その考え方そのものが、343でなく433が流行する理由なんです。
まずですが、中盤での数的不利を解消するために、リベロを中盤にあげたとしましょう。
この場合、問題になるのは最終ラインのところが2バックになってしまい、サイドへのロングボール攻撃に弱くなるって所です。2バックでは幅をカバーしきれないのはサッカーの世界では経験的にわかっていることで、これでは守りきれません。そのため、ロングボール対策の為、WBが下がらざるをえなくなります。するとどうなるか?
はい、こうなります。図をみてください。リベロが中盤に上がり、WBが下がり目のポジションを取ったら、それは343でなく433そのものです。
元々、ザックの343は、サイドにボールを出されると、5バックでなく4バックで守ります。そのため、サイド攻撃を食らうと、433で守ります。しかし、中央にボールが有るときでも、中盤での数的不利を嫌って、リベロが中盤にあがり、WBが下がり目のポジションを取るようになると、サイドでも中央でも433で守る状態になります。
ようするに、どこにボールがあっても、433で守る状態になっちゃうわけですよ。そうなったら、複雑な事やらんで最初から守備は433でやったほうがいいって事になる。それが、結局、3バックでなく、4バックが主流になる理由なんです。1トップ、3トップが主流なのが今のサッカーで、442やってるチームでも、ポゼッションしてるときは、2トップが縦割りで、1トップ1シャドーが多いですしね。
433でも、ザックがやってるサイドに3人集めて数的有利って戦術は出来ます。ボランチを一枚、最終ラインに降ろして、両CBを開かせ、両SBを押し上げる方法ですね。バルサがよくやるし、ブラジル出身の監督が好むやり方です。ブンデスでもトップメラーのレバークーゼンとか、クロップのドルトムントがやってました。守備時には4231だけど、攻撃時には361に変形するスタイルですね。セレッソも、その系統だったりしますが。
守備時には433で守り、攻撃時には343に変形するって選択をするほうが、個人的にはモダンだと思うんですが、ザックは多分3バックが好きなんでしょうね。なんか3バックにやたらとこだわるので。
最近は、442で守って、攻撃時には4411になったり、361に変形するチームとか結構あるので、そのあたりが流行なのかなと思ってます。
あと、最終ラインをFWの数に合わせて、調整するのはビエルサやオシムの得意技でした。
ビエルサ「4バックに1ボランチ、攻守のバランスを取るMF1人にトップ下1人、2ウィング、そして1トップ。これが我々の基本形となる。もし対戦相手が2トップで攻めてくるのなら、DFの1人を中盤に上げる。」
ま、お答えとしては、こんな所です。要は、リベロを中盤にあげてWBを下がらせるってアイデアは、そのまま、343でなく433にモデルチェンジする発想そのものなんです。みんな、同じこと考えるから、343でなく433が流行してるんです結局。
ザックの343の戦術について
結構、細かい話になるので、興味の無い人にはホントにアレな戦術の話ですが。
えーと、最初に、まず、ザックの343の人選の話から。これは、ガスペリーニの343とそう変わらないところがあるのですが、ザックの343もガスペリーニの343もCHは崩しとフィニッシュの局面には参加することを求められていません。求められるのはビルドアップとフィルター機能です。
役割的には、おおざっぱにいってこんな感じです。図でやりますが、
こんな感じです。
遠藤がいるかいないかは、実は343では、さほど問題でなかったりします。ボランチにかかるビルドアップの負担は、4231ほど高くありません。一方で、ビルドアップの負担が高いのは、ワイドに開くCBで、ここが実は肝になります。左右に開くCBのフィードは、このシステムのキーになります。
両サイドで、こういう形を作るのが理想です。サイドで数的優位を作れているので、CBが相手のSHを一人、前に釣り出せば、WBがフリーになります。このフリーのWBを如何に、SBの裏に送り込むかが、キーポイント。
ただし、相手も、それをやられたくないので、フツーは、FWがサイドに開いたCBにチェックに来ます。
こんな感じですね。実際は、一人は中央に残り、片方がチェックにくるんですが。
ここも図でやります。ちょっと見にくいのですいませんが。
図に書き入れて、ごちゃごちゃしちゃったんですが、まず最初に大事なのは、ボランチとCBのボール回しで、相手のFWの位置を動かす事です。どちらかのサイドにFWを引き寄せてから、逆サイドのCBにボールを渡します。この作業を上手くやらないと、CBがすぐにFWに寄せられてしまい、サイドでの数的優位を作れなくなります。
サイドに開いたCBがボールを持ったら、ドリブルを入れて、ハーフウェーラインまでポジションを上げ、SHを釣りだします。その動きに連動して、ウィングが、斜めに下がってくる動きを行います。この動きに釣られて、相手のSBが最終ラインから出てきたら、WBは、ウィングの動きに合わせて、SBの空けたポジションに走り込み、CBからの縦パスを引き出し、裏へと抜け出します。これが基本形となります。
ただ、これは基本の話で、相手のSBが食いついてこなかったら、一度、ウィングにボールを当てます。以下のようなボール回しで、裏にボールを入れます。図でやりますが
こんな感じです。ウィングの下がって来る動きに、相手のSBがついてこない場合は、一回、ウィングにボールを入れます。で、そうすると、相手のSBは、ウィングのチェックに出てきます。ウィングは、相手のSBのチェックが遅いなら、そこでターンしてもいいし、チェックが早いなら、一回ボランチに戻して、ボランチから、WBに縦パスを入れます。
これは、CBに当たりにボランチが出てきたケースです。ボランチがサイドに出てきたら、相手の中盤中央のDFで残っているのは一枚だけになります。この場合は、中央を狙います。ウィングは、このケースでは中央、トップ下のポジションに入るべきです。そして、CBは一度、ボランチにボールを入れ、ウィングとCF、ボランチで中央に起点を作ります。
ベトナム戦分析の前に、ザックの343を使おうとする際に常に問題となる事
最初に、これをはっきりさせようと思うんですが、ザックの343を日本でやろうとする場合、二つ、大きな問題があります。箇条書きすると、
1,日本にはワールドクラスのセンターフォワードがいない。
2,レフティでフィードの良いCBは滅多にいない。
になります。
一つは、センターフォワード。世界と戦えるレベルのセンターフォワードは日本にはいません。ビアホフやドログバやイブラみたいなスーパーなCFは日本にはいません。そのため、CFのポストプレーには、あまり期待できませんし、組み立てにCFを絡めるのは難しくなります。
つまり、日本で、ザックの343をやる場合、組み立てで、CFの助けをえることが出来ません。そのため、ウィングとCBにかかるビルドアップの負担は極端に大きくなります。ビルドアップの能力の非常に高いCB、2ライン間でマークを外して前をむく事が上手いウィングが、どうしても必要になります。問題は、そんな選手がいるかどうかです。センターフォワードにワールドクラスの選手がいない為、ウィングとCBの負担が極端にでかくなるわけです。
そして、もう一つ。これは、日本のみならず、世界のどこで343をやるのでも問題になることなんですが、左サイドに流れるCBの人材難です。通常、左サイドから縦パスを入れる際は、レフティの選手が使われます。左サイドでは、レフティの選手のほうが、縦パスを入れやすいんです。DFから遠いほうの足でボール持てますからね。ところが、レフティでフィードの良いCBなんて、世界的にみてもレアなわけです。
ザックがミランにいた頃は、両方の足で蹴れるマルディーニがいたから良かったものの、日本にゃ、両方の足で蹴れて、左サイドからビルドアップできるCBなんて、ちょっと見あたりません。遠藤が偉大なのは、右利きなのに、左サイドからのビルドアップを苦もなく出来るところで、あれが出来るから、遠藤が凄いわけですよ。それと、日本代表の左サイドが機能してるのは、遠藤が左サイドに流れて、長友や駒野を前に送り込み、そこからゲームメイクしてくれるからなんです。遠藤無しに、日本代表の左サイドは機能しません。実は、日本代表の4231は遠藤がいなくなったら、日本代表は、組織的に攻撃する術を完全に失います。日本代表は、現在、左サイドからしか、組織的に攻撃できてないので。そして、あの位置からビルドアップできるボランチって、今、極端に日本で不足してるんです・・・・結局、ベトナム戦の後半、完全に組織レスのサッカーになってたのは、あそこからビルドアップ出来る奴が誰もいなくなった事が原因でもあるので。
実は、今回、左サイドの底、ここで大きな問題が起きてました。
ベトナム戦の343、機能した右サイドと機能しなかった左サイドの明暗
さて、恒例の写真による分析にうつりますが、今回、右と左で、明暗の分かれた343でした。右は機能していました。問題は左です。ぶっちゃけ、開始、5分で、「ああ、こりゃ、左は機能しないな」というプレーがありました・・・・
一連の流れをまとめましたが、どんな感じでしょうか。最初に、343でのビルドアップのやり方をくどくどと書いたのは、ここで誰が良くないのか、はっきりさせたかったからです。
槇野、長友、香川のポジショニングは、ほぼ理想的。香川は、CBとSBの間でフロートするポジショニングをしており、SBが香川について、最終ラインから出てしまっています。そして、ボランチとSHが、上がった槇野を見ている。結果として、中央の守備が緩くなっており、長友は、SHが槇野を見ているので、SBが空けているポジションに動き出している。要は、理想的な状況が生まれているんです。ここで、日本は、
1、槇野がベトナムのボランチを引きつけてから長谷部にパス出してボランチ二枚を釣りだし香川を中央に進出させて中央突破
2、SBの裏に走る長友にスルーパスを入れて、サイドを抉ってクロス
って崩しに入る前段階まで来てるんです。ところが、槇野はどちらもせず、後ろに戻してしまう。明らかに、ビルドアップで問題を抱えてます。あそこで、CBから縦パスが入らないようだと、左サイドは機能不全に陥ります。
これは、前半10分の場面ですけど、頭かかえてしまったシーンです。槇野、全然、周囲が見えてない。シンプルに長友に出していいシーンで、長友に縦パスが入らない。で、香川に当ててしまう。香川は二人に寄せられてるので、槇野に一回戻すんですけど、その際、ボランチが槇野の所まで出てくる。ここで、逆に、もう一回チャンスが生まれてるんです。ボランチが槇野に当たりに出てきたことで、相手の中央のDFが薄くなってます。あそこで、長谷部に当てれば、もう一枚のボランチが出てきますから、CBとボランチの間にスペースが出来ます。そこに香川か藤本が入ってパスをもらえば、一気に崩しにいけます。ところが、槇野は、ここで、何故か、SBの裏にロングパスを出してしまう。これだと、もう、左サイドはどうしようもない。二度も崩しのチャンスをフイにしてしまっている。
で、他にも
こんなのとか
こんなのもありましたとさ・・・・とにかく、槇野、これだと、次にザックに呼んでもらえないと思います。危機感もったほうがいい。所属チームでも全然試合に出れてないし。今回、日本代表の左サイドは全然機能してなくて、その原因は、香川が不調そのものだった事と、槇野がビルドアップをまるで出来てなかった事です。というか、レフティでフィードできるCBを探してくるか、遠藤をCBで使うくらいしか、方法ないと思いますよ、マジでコレ。
さて、一方で、感心したのが右サイドです。特に感心したのがイノーハ。まるで、遠藤みたいでした。絶好調。
これにはホントに感心しました。これは、単純に伊野波が凄い。一人でボールもってもちあがって、相手のSHとボランチを引きつけて、その裏にいる香川に縦パスいれたんですからね。今回の伊野波は、ビルドアップに関しては、遠藤ばりのパスを何本も通していて、感心しました。
で、これも感心したシーンです。伊野波のフィード絶好調。
ついでにもう一つ。343らしい右サイドの動きです。
これですね。伊野波、フジモン、駒野の動きは秀逸で、上手に連動してます。で、やはり褒めるべきは伊野波のフィード。相手に全然読まれていないので、フジモンにバシバシ通る。
今回、343の右と左で明暗が分かれたのは、ここで、槇野のフィードが、カットされたり、見当違いのパスだったりと散々だったのに比べ、伊野波は、非常によくビルドアップ出来てたんです。感心するほどでした。
ビルドアップの難しさ
で、なんですが、ここまで槇野のビルドアップと、伊野波のビルドアップを比較してきました。槇野をかなりdisちゃいましたが、元々、あれは難しいポジションなんです。
ザックがミランで343やってた時は、左CBにはマルディーニがいました。右利きでしたが、実質両利きといって良い選手で、16才で左SBにコンバートされてから、毎日、左足の練習してきたって選手です。そういう選手がいたから、問題をかかえずにすんだ。
ただ、普通のチームにとっては、これが大問題になるんです。レフティでフィードができるCBなんて、滅多に見つかるもんじゃない。
そもそも、フィードのいいCB自体、貴重なのに、レフティとなったら、普通のクラブじゃ、まずみつからないし、所有できない。そういう選手がいるチームはホントラッキーなんです。代表レベルでも、組み立てできるレフティのCBなんてレア中のレアですしね。
それから、これは、練習でどうにかなる問題じゃないんですよ。出来る選手と出来ない選手、これが明白で、「出来る選手」ってのが探してくるしかない。
そういや、日本代表のU22、マレーシア戦で、セレッソのレフティのボランチの扇原が良い動きしてたんで、ちょっと紹介しときます。
まずはこれ。この場面。注目して欲しいのは、右ウィングの清武が、SHとボランチの間に降りてきてるトコです。この動きは、U22でも、A代表でも、ザックの343でも、ウィングの基本の動きです。ここで、CBからボールを受けて、ボランチに落とすか、そのままターンするってのが、A代表のウィングに求められる動きなんです。もし、SBが清武のマークで最終ラインから出てきたら、SBの酒井がそこに走り込んでボールを引き出します。
ただ、この動き自体はポピュラーな動きです。有名なのはゼーマンの433ですが、バルサも同じ事はよくやります。なんで、マレーシアDF陣に読まれてます。マレーシアDF陣は、右にスライドして、その動きに対応したポジショニングしてます。
ただ、ここで、相手の裏をかいたのが扇原のFW二人の間に降りてボールを受ける動きでした。これで、相手のDFは意表を突かれたんですね。右から来ると思ったら、中央でいきなりボランチがボールを受けて前を向いたので。
ここから、扇原が、トップ下に縦パスを入れて、清武がその落としを受けて、そのまま中央にドリブル。相手のDFを中央に集めておいて、サイドに開いたトップ下の東にパス。これを東が決めて、日本が先制したシーンです。
で、特に感心したのがこっちですね。動き的には、セレッソのマルチネスから学んだ奴でしょうが、右CBがボールを持ったとき、ボランチの扇原は、逆サイドにバックステップで、どんどん向かっていきます。ボールと逆サイドに動く。ボランチの基本的な動きの一つですが、この判断が凄く良かった。
この判断がはやかったせいで、相手のFWが右サイドに引き寄せられていた為、右CB→左CB→扇原とボールが繋がった時に、FWのプレスを外すことができました。で、マレーシアのブロックの中から、一人、ボランチが当たりに出ちゃったんですね。
そして、ボランチが一枚、当たりにでちゃった事で、出来たスペースに浦和の原口が降りてきます。扇原は、その動きを逃さず、原口に縦パスを入れる。原口の動きに、SBが釣られているので、SBが空けたスペースには左SBのゴートクが上がる。原口は、ターンすると、そのままドリブルして中央にカットイン。そのままシュートを打つ、と。いい攻撃でした。
扇原の紹介をしたのは、この前の試合では全然駄目でしたが、こういう事ができる貴重なレフティだからです。上背もあって、CBもやってる子です。そんなわけで、順調に成長すれば、ひょっとしたらA代表から声かかるかもしれません。343の左CBとしてね。まあ、今のトコ、守備力に欠けるとこがあるので、呼ばれないでしょうが、若いし、伸びしろがあるんで、ちょっと注目してる子です。
で、まとめに入りますが
今回、はじめて、343での香川の左ウィングがみれたんですけど、あれみて、「ああ、ザックはよっぽど343がやりたいんだなあ」と思いました。
っていうのも、343での香川の使い方と、4231で香川がほとんど一緒だからでしてね。ああいう動き方を教え込んどけば、343でも香川をスムーズに左ウィングで使えるんで。それに、香川は、CFのポストプレーがなくても、2ライン間で前を向くプレーが上手いので、CFにドログバがいなくても、ああいうタイプをウィングにおいとけば、日本代表の343でも崩しのプロセスに移行できる。
ザックのサッカーを一年見てきましたが、ザックって、ウィングを使ったサッカーが好きだって感じです。というか、攻撃の引き出しが、ウィングを使って崩すサッカーなんです。343で名を馳せた人なんだから当たり前なんですけどね。
SBとCBの間でフロートしたポジションをウィングに取らせ、SBを最終ラインから引き出す。
ウィングが斜めに降りてくる動きと連動して裏を狙うサイドアタッカー。
サイドでの数的優位からボランチをサイドに釣り出して、ウィングを中央に絞らせる等々。
最近、原口と清武が代表に呼ばれた理由も、これでようやくわかりました。どっちも、上記のような動きが得意な選手ですからね。U22のキャプでも、原口と清武はそーゆー動きしてるですしね。ドリブルが出来て、2ライン間でボールを引き出して、前を向ける選手です。二人ともね。そこを見て、「あ、こいつ使える!」と思ったんでしょう。まあ、A代表に入りたいなら、ああいう動きができるようになるか、フィードができる左CB目指すのが、今一番てっとりばやいんじゃないかと。
ザックは4231でなく、433やったほうが幸せになれるんじゃないかと、そんな事を思いました。