「サッカーにおいてデータは役に立つのか?」問題
(1/17追記。すいません、計算間違いがあったので、書き直しを行ってます。それに伴って、数値も書き直しています。大変申し訳ありません。)
というわけで、本日の更新でございます。今回は、ちょいと、データをいじってみようと思いまして、いくつかのサイトから、サッカーのデータと引っ張ってきて、色々と調べました。
データ元ですが、
からです。残念な事に、詳細なデータは、2008年のものと2009年のものになりますので、そのあたりはご容赦を。
サッカーとデータ革命
なんですが、最初に、記事のご紹介から。
http://データ革命が、欧州サッカーを「マネーボール化」する(その1) – from 『WIRED』VOL.2
データ革命が、欧州サッカーを「マネーボール化」する(その2) – from 『WIRED』VOL.2
データ革命が、欧州サッカーを「マネーボール化」する(その3) – from 『WIRED』VOL.2
といった記事を読んだ時から、考えていたネタなんですけどね。
マネーボールは映画化もされたんで、ご存じの人も多いでしょう。弱小球団だったアスレチックスGM、ビリー・ビーンの物語です。彼が統計を駆使して、それまでの野球常識を覆すみたいな話なんですが。
2003年、大西洋の向こう側で、サッカーのデータ革命を大きく後押しする動きがあった。マイケル・ルイスが独創的なベースボールノンフィクション『マネー・ボール』を発表し、イングランドのサッカー関係者も蒙を啓かれたのだ。『マネー・ボール』は、オークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーンが、どのように新しいデータを用いて野球選手を評価したかを描いている。データの力を借りて、貧乏球団のアスレチックスは、一時期ではあるがヘビー級の金持ち球団と互角にパンチを交わしていた。ただしそれも金持ちたちがデータ専門家を雇いはじめるまでのこと。ボストン・レッドソックスのオーナー、ジョン・ヘンリーはコモディティ取引で財を成した人物だが、『マネー・ボール』手法を採用してワールドシリーズを2度征した。
ワイアードからの引用ですが、こんな話です。マネーボールが出版されて以降、打率でなく出塁率のほうが重要になったのは有名な話です。ただ、打者の正確な能力を調べるんだったら、XR27のほうが、遙かに有用なんですけどね。
さて、ですが、昨今、サッカーについても、色んな指標が出始めました。
どういう風に計算されてるかは知りませんが、こういうのもあって、時々チェックしてます。こいつは、サッカーの全てのポジションの選手を同時に比較できる指標なんで面白いんです。
さて、なんですが、サッカーにおいても、データは重要か?結論からいうと、マネーボールでもそうでしたが、守備、特にDFに関しては、手に入るデータから評価するのは、非常に難しい。野球においても、投手と守備については、データによる分析が難しい分野で、決定的なデータがなかなかありません。
一方で、野球と同じで、攻撃側については、これ、意外と評価が簡単なんです。野球はXR27を使えば、年間の総得点をほぼ正確に割り出せるため、選手の出入りによる得点の増減が簡単に予測できます。
そして、サッカーにおいても、実は、得点数に関しては、割と簡単に「知の聖杯」が見つかったりします。
点数を競う球技の場合、得失点差は、大概、強く勝敗と相関性を持ちます。当たり前ですけど、強いチームは、相手より点が多いから勝つわけで、勝ち星が多いチームは、普通に得失点差が良くなります。
ただし、偏差が小さい事も重要です。つまり、コンスタントに点を取り、コンスタントに失点しないチームであることが大事です。10試合やって、毎試合4点とって、1失点に抑えているチームは、得失点差が+30で全勝です。ただ、最初5試合で8点とり1失点ずつして、残り5試合は0点で1失点するチームは、得失点差が+30でも、5勝しか出来ない。後者は偏差が大きいチームで、そーいうチームは得失点差ほど勝てません。今季のJ1でいえば、セレッソがそーいうチーム状態でした。ちょっと極端な例ですが、偏差が小さいことは非常に重要です。
サッカーにおける失点と強い相関性をもつデータについて
さて、こっからが、本題です。
サッカーにおいて、先にも述べましたが、失点数については予測が難しい分野です。少なくとも、手に入るデータからはそうでした。先のワイアードからの引用になりますが、
だが大きな突破口は96年、統計会社オプタ・インデックスがイングランド・プレミアリーグの「マッチデータ」を収集しはじめたときに訪れた。とサッカーとデータを取り上げた書籍の先駆け『Die Fu〓ball-Matrix』の著者クリストフ・ビールマンは説明してくれる。このときはじめて、クラブは各選手が1試合で何km走ったか、何度タックルしたか、何度パスしたかが分かるようになった。さらに複数のデータ会社がこの市場に参入した。監督たちは数字を読みはじめた。2001年8月、マンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督は突然、ディフェンダーのヤープ・スタムをイタリア・セリアAのラツィオに売却した。みな仰天した。多くの者がスタムの愚かしい自伝出版に対し、ファーガソンは罰を与えたのだと考えた。実際は、ファーガソンははっきりとは言わなかったが、スタムはある意味マッチデータのせいで放出されたのだ。ファーガソンはデータを見て、スタムのタックル数が減っていることに気づいた。29歳のスタムは衰えつつあると見て、手放したのである。
ファーガソンもしぶしぶ認めたが、スタムの放出は間違いだった。マッチデータ登場に眩惑されたサッカー関係者の例にもれず、ファーガソンも見るべき数字を誤ったのだ。スタムは衰えてなどいなかった。その後イタリアでさらに数年にわたって活躍してみせた。だが、それでもこの一件は、サッカー史を画するエポックだった。はじめて、統計数字に従って移籍がおこなわれたのだ。
フォードは走行距離のデータに意味を見いだそうとしていた時期のことを思い返す。「総走行距離と勝利の間に相関関係を見つけることができるだろうか? 答えはまちがいなくノーだ」
タックル数も同じく当てにならない。イタリアの偉大なディフェンダー、パオロ・マルディーニという大問題がある。「マルディーニは2試合に1回しかタックルしませんでした」。フォードは暗い声で説明する。マルディーニはポジショニングが絶妙なので、タックルする必要などないのだ。ファーガソンがスタムを放出したときと同じく、タックル数でディフェンダーを評価することには問題がある。
これ、タックル数が、守備において、あんまし当てにならない数字であることを示すエピソードなんですが、これ、J1においても同じです。つうか、守備力の評価はデータでは難しい。
2009年のJ1における相関係数は以下のようになります。
失点と被シュート数の相関係数 | 0.5757616257 |
失点数と空中戦 | 0.2368177866 |
失点とブロック | -0.0088427469 |
失点とクリア | 0.0325719598 |
失点とタックル | 0.463675568 |
ちなみに2009年J2における失点と被シュート数の相関係数は0.5435342393でした。
まず、J1において、タックル数と失点には、かなり相関性があるんですが、当たり前の如く、因果関係は別物で。ファギーがスタムを放出したのは、タックル数と失点には、相関性が一応あるんで、その当たりを加味したんじゃないかと思いますけど、マルディーニがそうであるように「良い守備者」かどうかをタックル数で評価するわけにもいきません。
ちなみに、この年のタックル数の上位者は
このようになってます。日本代表クラスの選手も多くいますがね。
ただ、失点の予測を難しくしてるのは、被シュート数と失点数の相関性です。J1でもj2でも0.5くらいしか出ない。これだと、かなり難しい。そんなわけで、2009年のデータいじった所で、失点数の予測は無理だな、と匙投げました。
サッカーにおける得点と強い相関をもつデータについて
さて、守備の評価が難しいのに比べると、こっちは簡単です。というのも、得点と強く相関するデータがゴロゴロあるからです。
2008 J1における相関係数
得点とスルーパス成功本数 | 0.7442280002 |
得点とドリブル成功数 | 0.6653568376 |
得点とクロス成功本数 | 0.4889853508 |
得点とck | 0.76402709 |
得点とシュート | 0.6977084844 |
スルーパス成功本数とシュート | 0.755280641 |
スルーパス成功本数とドリブル成功数 | 0.7690665418 |
ドリブル成功数とシュート | 0.7269520054 |
2008 J2における相関係数
得点とスルーパス成功本数 | 0.7395984873 |
得点とドリブル成功数 | 0.0656472374 |
得点とクロス成功本数 | 0.2196631212 |
スルーパス成功本数とドリブル成功数 | 0.0324864617 |
得点とシュート数 | 0.7969506766 |
シュートとスルーパス成功本数 | 0.8250513866 |
スルーパス成功本数とドリブル成功数 | 0.0324864617 |
シュートとドリブル成功数 | 0.2039392119 |
2009 j1における相関係数
得点とスルーパス成功本数 | 0.564837767 |
得点とドリブル成功数 | 0.5951660291 |
得点とクロス成功数 | 0.421407573 |
得点とシュート | 0.8891324727 |
シュートとスルーパス成功本数 | 0.6222291995 |
ドリブル成功数とスルーパス成功本数 | 0.6501595085 |
2009 j1における相関係数( 除く浦和)
得点とスルーパス成功本数 | 0.7548653793 |
得点とクロス成功本数 | 0.5068665736 |
得点とドリブル成功数 | 0.6267376691 |
得点とCK | 0.6025086882 |
シュートと得点 | 0.9000265077 |
ドリブル成功数とスルーパス成功本数 | 0.6404896513 |
シュートとドリブル成功数 | 0.7346370722 |
2009 j2における相関係数
得点とスルーパス成功本数 | 0.6212118472 | |
得点とドリブル成功数 | 0.4823864001 | |
得点とクロス | 0.3441679648 | |
得点とCK | 0.5816992085 | |
得点とシュート | 0.7779191985 | |
シュートとドリブル成功数 | 0.4823864001 | |
シュートとスルーパス成功本数 | 0.6212118472 | |
ドリブル成功数とスルーパス成功本数 | 0.7411400582 |
こうなります。2009年のデータで、浦和をのぞいたデータを掲載した意味は、後に述べます。
得点におけるスルーパスの重要性について
まず、シュート数とスルーパス成功本数は、得点数と強い相関を持っています。スルーパスの成功本数は2008J1,J2及び、2009 j1(除く浦和)で0.7以上の強い相関が出ています。2009のJ2では、0.6以上のかなりの相関が出ています。
で、なんですが、2009年のデータから、浦和を除いたものを載せた理由ですが、この年の浦和が異様でして、スルーパス成功本数はリーグ一位の323本なんですが、得点数は43点でリーグ11位です。これ、実は相当珍しい数値です。この話は最後にまわしますが、スルーパスを323本成功させたチームの場合(より正確に言えば、相手DFの裏でボールを持つことに323回成功したチームの場合)、年間34試合で66点前後とれる可能性があるからです。+−10くらいの誤差はでますが、それでも最悪56点くらい取れたはずで。どこでなにを間違ったんでしょうね〜。
さて、当たり前の話をしますが、相関関係と因果関係は別物です。例えば、このケースにおいてシュート数と得点数の間に強い相関性があるので、「何でも良いからシュート打て」というのは間違いです。だって、シュート数だけ稼げばいいなら、ロングシュートでもなんでもいいから打てばいいことになる。しかし、ゴールから40メートル離れたトコからシュート打っても、大した意味はありません。なんで疑似相関です。シュートを打つのは攻撃における最大の目標の一つですが、ゴールから34メートル以上離れた所からでもシュートするのは馬鹿げているだけです。34M以上の距離から放たれたシュートで入るのは年間通してリーグ全体の10本程度です。あと、今年、浦和は神戸からポポとってますが、ポポってとにかくシュートが多い選手です。今年、100本打ってます。浦和さんは、シュート数が今年少なかったので、シュート数多いFWが欲しかったのかもしれません。シュート数と得点の間の相関性は強く出ますが、繰り返しますが、相関関係と因果関係は別物です。
しかし、スルーパスの成功本数と得点に相関性が出るのは、サッカーでは、スルーパスの性質を考えれば、ごく自然な事なんです。はてなキーワードのスルーパスの項目から、まんま引用しますが、スルーパスとは『最終ラインより手前の位置の選手から、相手ディフェンスの最終ラインの背後の誰もいないスペースに、味方選手がオフサイドの反則に抵触しないように相手ディフェンスの最終ラインより手前から走り込んでパスを受けることを期待して送られる「パス」。』であります。
ここで、アンチェロッティにご登場頂きましょう。「アンチェロッティの戦術ノート」からの引用になります。P51から。
ボールポゼッションをいくら続けても、シュートを打たない限り得点が生まれないことはすでに見た。攻撃の最終目標がシュートを打つ事にあるとすれば、攻撃の戦術における最重要テーマも、「如何にシュートの局面を創り出すか」以外ではありえない。
最もシュートを打ちやすい状況は、ボールの真っ正面で目の前に敵が誰もいないというそれだろう。しかしもちろん、実際のゲームの中でそのような状況が生まれることは皆無といっていい。現実問題としては、無理なくシュートを打てるだけの距離(近さ)と角度がある場所で、GKと一対一になる、というのが望み得る最良の状況だろう。
では、ピッチ上でプレーするチームがそれを実現するために必要な事は何か。それは「敵のDFラインの背後にボールを送り込む」ことだ。攻撃が敵DFラインの裏のスペースでボールを持ったときには、かなりの確率でシュートを打てる状況になっているはずだからだ。
(強調筆者)
ようするに、スルーパスが通った状況ってのは、「敵のDFラインの背後にボールが送り込むことに成功した状況」なんですね。こうなれば、高確率でシュートを打てるので、シュート本数とスルーパスの成功本数に相関性がでるのは当たり前なんです。得点もしかりです。「敵のDFラインの背後にボールが送り込むことに成功した状況」であれば、点をいれやすいのは当たり前。この「裏のスペース」の攻防はサッカーの戦術において、きわめて重要になります。
というわけで、スルーパスの成功本数は、チームの得点と密接に繋がってきます。2008年と2009年のデータだと、スルーパスが成功してるのに全然得点できないと2009浦和という例外はあるのですが、他のチームは軒並み、スルーパスが通れば点が取れるし、通せないようだと点が取れないチームです。
この為、スルーパスを通せる選手というのは、当たり前ですが、とても良い選手です。スルーパスの成功本数のランキングを見れば、それがすぐわかります。
キャプですけど、早々たる面々が並んでますよね。A代表クラスの選手と優良外人ばかりです。J2でも、ほとんどがクラブのエースクラスです。
で、すぐに分かることもあります。つまり、J1ではケンゴ、ジュニーニョ、J2では香川とアジエル、リャンヨンギがスルーパスにおいてズバ抜けた成績を残しているってことです。ああ、すいません、僕はベルマーレサポですよ。ええすいませんね。でも、アジエルの自慢をさせてもらいます。湘南の太陽アジエル。彼は、湘南のエースでした。王様です。彼がいないとベルマーレは点とれないんです。J1昇格時に怪我してシーズン棒に振った時は、それだけで絶望したし、退団した時には涙にくれました。ベルマーレはアジエルがいないと駄目なんです。点とれないんですよ。全盛期アジエルなんて、自分で点とれて、ドリブル出来て、スルーパスで相手の守備を切り裂いてと、本当に凄かった。ベルマーレに在籍し続けてくれたことが奇跡ってプレーヤーです。そりゃ、最近は加齢と怪我で、衰えてきてたのは事実ですけどね。でも、それでも並外れた選手なんです。なんで退団させちゃったの・・・・にくい!貧乏がにくい!!
繰り返しますが、攻撃において、戦術的に目標となるのは「敵DFラインの背後にボールを送り込む」ことです。そして、それはスルーパスの成功数という形でデータに残ります。スルーパスが出せる選手は、当たり前だけど良い選手だし、スルーパスが沢山通せる選手は、ぜっっっっっったああああああああああああああいに出しちゃ行けません。スーパーなチャンスメーカーであり、彼らがいるから点が取れる。違いが作れる選手なんです。浦和はポンテをだすべきじゃなかったと思うんですよね。もっとも、マルシオと柏木でなんとかなると思ったのしれないけど、見事に使いこなせず。どうなってるのあそこ。
あと、ケンゴと遠藤のスルーパスの本数であったり、成功率は当たり前ですけど目を引きます。しかし、それよりも、大事な事ですが、ジュニーニョのスルーパスの本数!!彼は、ストライカーでありながら、チャンスメーカーでもあるんです。安定してシーズン50本のスルーパスを通せる選手で、これはケンゴや遠藤クラスの数字です。だから、ジュニーニョって、アシストの数も毎年のように多いです。ジュニの話は、また後でしますが、川崎の得点は、ケンゴ&ジュニーニョボーナスというべきものが乗っていて、大概、この二人が違いを創り出し、あとは他の選手が決めるだけってのがよくあります。ぶっちゃけ、フロンターレが平均的なJリーグのチームより毎年、点が取れているのは、この二人のおかげです。
あと、2009年のJ2の話もしましょう。この年のセレッソの攻撃力は異常でした。シーズン100得点とか笑えないマジで。ちなみに、この年のJ2における平均チーム得点は64点です。で、その原動力になったのが、香川と乾のコンビであることに間違いはなく、彼らだけで47点取ってます。しかも、彼ら二人で228本のスルーパスを通してます。セレッソの2008年におけるスルーパスの成功本数は460本で、リーグ一位でしたが、ほぼ乾と香川で平均以上を稼ぎ出したと言っていいです。ちなみにリーグ平均は276本でした。こいつらチート。どっちも海外行ってしまいましたが、シュート数、ドリブル成功回数、スルーパス成功本数といった、得点と相関性が高いデータで、彼ら二人はズバ抜けた数値を残しており、まぁ、順当に海外だねという感じです。乾は2010年、J1でシュートは打つものの、得点取れずに苦しんでましたが、良い選手であることにかわりはありませんでした。こういっちゃなんですが、乾と香川とマルチネスがそれだけでスルーパスを270本程度期待できるんで、J2中位以上のチームなら、どこでもJ2昇格できるんじゃないかと思った位で。
得点とドリブルの相関性
さてJ1においては、ドリブル成功数が得点数とかなりの相関をもっていて、無視できません。J2だと、そうでもないのですが。シュートとドリブルの成功数には、J1では0.7以上の強い相関があり、これ、絶対に無視できない数値です。
ただし、これにも、相関関係と因果関係は別という事がいえます。ドリブル成功すれば点が入るなら、とにかく全員にドリブルさせればいい。でも、相手が陣形をがっちり組んでる所にドリブルで突っ込んでも得点なんて入るわけがありません。
勿論、ドリブルが、そのまま「敵のDFラインの背後にボールが送り込むことに成功した状況」に結びつく事もあります。つまり、ウィングが、相手のSBを突破した状況や、トップ下が2ライン間などでボールを持って前を向き、ドリブルで相手のCBを突破した状況です。このケースでは、ドリブル突破によって、「敵のDFラインの背後にボールが送り込むことに成功した状況」になるので、ドリブルは極めて有効になります。
ドリブルってのは扱いが難しいです。指導者によっては嫌う人もいますが、しかし、これ、レベルが高くなると、絶対に必要になるスキルです。ちょっとドルトムントを例に出しましょう。
これは以前に使ったキャプですが、もう一度。ここで注目して欲しいのは、二枚目以降の香川の動きです。これはフライブルグ戦の奴ですが、香川がサイドでボールを受けた時のシーンからです。この時、SBが香川のチェックに出てくるんですけど、こういう時にはSBとCBの間にスペースが生じます。そのため、ここでは相手のボランチが一枚、SBとCBの間のスペースを埋めています。ですが、ここで香川は、一度ドリブルを中央に入れます。この動きで、相手のボランチを前に引っ張り出して、SBとCBの間にスペースを作ってるわけです。そして、その後に、香川はギュンドアンにパスを入れ、自分はそのスペースに入って裏に飛び出しました。ギュンドアンは、そこで香川にワンタッチでスルーパスをいれ、香川がそのパスを受けて、レバンドフスキーにアシストを決めたシーンです。このシーンで、香川の中央へのドリブルは、極めて重要な役目を果たしています。これを入れていなければ、相手のボランチに捕まっていたでしょう。
そして、もう一つ。これも前に解説したキャプですが、ここでは、二つのドリブルが重要な役目を果たしています。最初のピシチェックのドリブルがなければ、香川はフリーでボールを受けれなかったし、ゲッツェのドリブルが無ければ、香川は間違い無く、SBとCBの間のスペースに飛び込んだ時に相手のボランチに捕まってました。ゲッツェが中央へとドリブルを開始したので、香川についてくはずのボランチは、ゲッツェに当たりに出ざるをえなくなり、ゲッツェはボランチを引きつけてからパス。そして香川があそこでフリーでボール受けれた訳です。香川についていけばゲッツェに中央に切り込まれる。ゲッツェに当たりに出れば香川がフリーになる。究極の選択をあそこで迫られたわけです。
J1ではスルーパスの成功本数とドリブルの成功数に強い相関があるんですけど、こういうシーンみてもらえば、なんでかわかると思います。J2でも2009年には、強い相関が見られるようになってきてます。強いチームってのは、ドリブルを上手に利用します。J2でも、最近は、上手なドリブルの利用ができるようになってきたのかなと。相手DFを一人抜ければ、そりゃFWが楽になるのは当然ですけど、ドリブルはいつ、どこでどう使うかも大事です。ここで、WSDの347号のチアゴとシャビのインタビューに面白い逸話があるんで、それを紹介しときます。
チアゴ 「でも例えば、シャビは司令塔としてのイメージがすごく強い選手だけど、実はペナルティエリア付近からのドリブルを仕掛けた時の成功率が、ものすごく高いってことなんかは、意外と知られていないんじゃない?」
WSD 「たしかに。それは知らなかったな。」
チアゴ 「シャビは自分に定着しつつあるその司令塔のイメージを、逆に利用することがあるんだ。ほとんどの相手は、彼がエリア付近でボールを持ったとき、真っ先にパスコースを潰しにかかる。一撃必殺のスルーパスを警戒してね。そこでシャビは、その裏をかいてドリブルを仕掛けるというわけなんだ。成功率が高いのは、それが苦し紛れのプレーではなく、事前に用意しておいた選択肢のひとつだから。ディフェンダーを欺くためには、つねに一つ先の展開を予想する必要があって、そのためには、自分がその試合のその時間帯までにどういうプレーをみせてきたか、それに対して相手はどういう対応をしてきたかをじっくり頭に叩きこんでおく必要がある。シャビはそうしたことがつねに完璧に出来ているからプレーの判断を誤ることが、他の選手に比べて極端に少ないんだ。」
シャビ 「って、コーチから教わったんだろ(笑)」
チアゴ 「ハッハッハッ、バレたか(笑)」
シャビ 「まぁ、そうするかなかったというか、俺のように高さもパワーもスピードもなく、豪快なミドルシュートが撃てるわけでもない選手がバルサで生き残るためには、そういうところで違いを創り出すしかなかったんだ。それにコーチからもレベルが上がるにつれて、選手としての差が出るのは、そういう部分だって事を聞いていたからね。どんなに強くて早い選手でも、相手が待ち構えている所にただ突っ込んでいくだけでは、ボールを失ってしまう。レオ(メッシ)が世界一の選手である理由は、だれよりも速く、巧みにボールを操れるだけではない。相手が準備している所に突っ込むと見せかけて、その逆を突いたり、逆を突くとみせかけて、敢えて狭い所に入り込んでいったりと、そうやって相手よりも先んじた頭の使い方をしているからさ。だから、だれにも予測できないし意外性のあるプレーができるんだ。」
こんな話です。興味深いのではないかと。
で、ですが、Jにおけるドリブル成功数の高い選手ですが、こうなります。
結局ですが、ここでも、際だってるのはJ1ではジュニーニョ、J2だと香川と乾、関口が目を引きますよね。A代表によばれるだけのアタッカーという感じです。ちなみに、関口なんですが、ドリブルのみならず、スルーパスの本数も多く、J2では特別な選手の一人でした。仙台において、リャンヨンギのスルーパスと関口のドリブルとスルーパスは、最大の武器であって、彼ら二人が仙台において違いを創り出すアタッカーです。難点は、二人とも、あまりシュートは打たないって事です。
サッカーの得点における知の聖杯とJリーグ最高のアタッカー
さて、ここまで、色々と話をしてきたんですが、失点における知の聖杯に関しては、たいしたことはわかりません。ただ、得点における知の聖杯は、ひどく単純です。まず、サッカーで最も評価されるゴール数とアシスト数。これは誰もが評価するし、そのまま得点に結びついてるわけだから、どうでもいいとして。
ここまで見たとおり、J1、j2ともに得点と高い相関を見せているのが、スルーパス成功本数になります。これらが、サッカーの得点における知の聖杯です。チームの年間のスルーパス成功本数なんかを予測すれば、どのくらい点を入れられるかってのが、ある程度、予測できるからです。あくまで、ある程度ですよ。完全に正確な数値をだすことはできやせん。
さて、では、こういった要素を加味した場合、2008年シーズン、2009年シーズンで最高のJリーグのアタッカーとは誰か?これは、もうおわかりでしょう。J1ではジュニーニョ、J2では香川です。どちらも、その全ての数値で、圧倒的な数値を出しています。
2009
ジュニーニョ
ゴール 17
アシスト 10
シュート数 117
スルーパス 49/97 成功率50.5%
ドリブル 127/191 成功率66.5%
2008
ジュニーニョ
ゴール 12
アシスト 11
シュート数 125
スルーパス 61/104 成功率58.7%
ドリブル 129/221 成功率58.4%
2008
香川
ゴール 16
アシスト 10
シュート数 90
スルーパス 86/130 成功率66.2%
ドリブル 98/163 成功率60.1%
2009
香川
ゴール 27
アシスト 13
シュート数 122
スルーパス 127/206 成功率61.7%
ドリブル 124/232 成功率53.4%
この二人については、スタで見ても、すぐに「他の選手と違う」ってのが分かる選手なんですが、別にスタにいかずとも、データだけでも良いくらい他の選手と違う。違い過ぎる。ゴールとアシストだけでも十分くらいなのに、それに+して、得点と相関性の高い三つのデータで、異常な数値をはじき出してます。1シーズン34試合で、100本シュートをうち、50〜90本のスルーパスを通し、100回のドリブルを成功させる選手ってのは、この二人以外にいません。ちなみに乾はJ2で香川に近づける唯一の選手でした。ゴール、アシスト、シュート単体、スルーパス単体、ドリブル単体で、彼ら二人よりも優れているって選手は何人かいます。しかし、この5つを高い次元で持ち合わせている選手は、この二人しかいません。
ここまで圧倒的だと、香川かジュニーニョがチームにいるってことは、FWを一人余分に持っているって位の違いがでます。J2セレッソとj1フロンターレは、得点数に香川ボーナス、ジュニーニョボーナスともいうべきものが載ってるわけです。彼らはチームで点とるだけでなく、明白なまでにチームの他のメンバーの得点力も上げている。こういうプレーヤーと一緒にプレーできる選手は幸運としかいいようがありません。文字通り、特別な選手なんです。
J1における得点数の予測方法
さーて、今回、最後のお題はこれでございます。サッカーにおいて、シーズン前にゴール数の予測なんて出来たらいいなあ、なんて思った事が多い人は多いんではないでしょうか。
実は、その為の簡単な方法を計算しましたんで、掲載します。
スルーパス成功数=(3.14*ゴール数)+55
ゴール数=(0.176*スルーパス成功数)+9.22
です。え、そんな単純なの?とか思う人もいるかと思いますが、ええ、こんな単純なんです。この式の意味する所を、サッカー的にいえば、「相手のDFラインの裏にボールをいれる事に成功した場合、高確率でチャンスに結びつく」という当たり前の事です。DFラインの裏を取ることは本当に大事です。何度もいいますが、これが大事。
単純すぎね?と思う人もいるかもしれません。でも、これ、きちんと計算をした上の話なんです。(最初にアップした時には計算間違いしてましたけど)計算式の話をしますが、使ったデータは、2008年のJ1のものです。2008年のJ1では、スルーパスの成功本数と得点の間に0.74という強い相関が見られました。他の年度でも、強い相関がでたんで、出た時にはビンゴッ!って叫びました。実に美味しいデータです。なんせ、スルーパスの成功数とは、つまり、「敵のDFラインの背後にボールを送り込む」なんですからね。こいつは、攻撃における最大の目標といってもよい位です。相手DFラインの裏でボールを受ける事に成功すれば、高い確率でチャンスになるのは当たり前なわけで。ただ、残念だったのは、同じく、「敵のDFラインの背後にボールを送り込む」に相当する、ドリブルによる最終ライン突破のデータがないってことです。これを加えれば、もっと正確な数値をだせたと思うんですが。あとはCKですね、これも、得点とかなりの相関があるし、セットプレーからの得点は実に多いので、なんか上手い事やれたらいいんですが。ちなみに、FKと得点の間に強い相関は見あたりませんでした。
そんなわけで、2008年度のJ1のデータを使い、回帰分析を行いました。
で、出来たのが、このグラフで御座います。出来た計算式は以下のようなものでした。簡単な最小二乗法で出した奴ですがね。
ゴール数=(0.176*スルーパス成功数)+9.22
もちろん、2009の浦和はかなり例外的な存在でしたが。
ただ、これ、自分でやってみて、便利かなあと思ったのが、以前から、どのくらいの影響があるんだろう?って思っていた事に、一定の尺度を与えてくれたんですよね。つまり、ケンゴと遠藤って、チームの得点力をどのくらいあげてるんだろうって。
遠藤とケンゴは、大体、怪我なく大きな病気も無ければ、年間通して、50〜60本のスルーパスを成功させてます。およそ6本のスルーパス成功は、一得点にほぼ匹敵するので、この二人は、チームの得点力をおよそ8〜10点上げる貢献をしていることになります。ボランチでこの数字は相当大きな数字です。彼らは、年間4〜10点、10アシスト前後は稼ぐ選手達でFKの名手ですから、チームに与える影響はさらに大きくなります。ぶっちゃけ、ケンゴと遠藤がチームに在籍する効果は、チームの得点を+12〜16くらい上乗せしているのではないかと。で、2008年、遠藤は全然、スルーパスを成功させてないんですけど、2008年のガンバの総得点は34試合で43点という低調な数字でした。これ、丸ごと、遠藤のスルーパス分が消えたといってもいい数字です。2008年のガンバのスルーパス成功数は235本です。ちなみに、2009年は282本成功させ、そのうち48本が遠藤のものです。ガンバは、2009年、34試合で63点取ってます。スルーパス成功本数から予測される得点数は、それぞれ、2008が50点、2009が58点です。
あの年、遠藤は病気もあって、調子良くなかった時期多かったけど、まさかね・・・・
また、ジュニーニョであったり、香川のケースですが、
2009
ジュニーニョ
ゴール 17
アシスト 10
シュート数 117
スルーパス 49/97 成功率50.5%
ドリブル 127/191 成功率66.5%
2008
ジュニーニョ
ゴール 12
アシスト 11
シュート数 125
スルーパス 61/104 成功率58.7%
ドリブル 129/221 成功率58.4%
2008
香川
ゴール 16
アシスト 10
シュート数 90
スルーパス 86/130 成功率66.2%
ドリブル 98/163 成功率60.1%
2009
香川
ゴール 27
アシスト 13
シュート数 122
スルーパス 127/206 成功率61.7%
ドリブル 124/232 成功率53.4%
となっているわけですよ。ジュニは得点もアシストもそうですが、スルーパス、クロス数も多い選手なんで、ちょっと洒落になりません。さらにスルーパスを年間50〜60本通してるわけだから、それはおよぞ9〜10点分に相当するし(これにアシストも含まれているわけですけど)、ドリブル突破で裏にボールを運んでる回数も相当のはずです。ジュニーニョがいるってのは、チームに相当な影響を与えていて、フロンターレが、J1に上がって以来、常に得点数で上位だったのは当然かと。ジュニーニョ洒落にならない。まぁ、鹿島がフリーになったジュニーニョを即取りに行ったのは当然かなと。あと、川崎サポの人達は銅像どうするんでしょう。他のチームいっちゃいましたけど、ジュニの功績を考えれば、立ててもいいと思うけどな。
また、圧巻なのは香川のほうも同じで、ゴール数とアシスト数はいわずものがな。しかし、それ以上に2009の香川って、127本のスルーパスを成功させている。これ、22点分に相当する数値です。アシスト13個を抜いても、それに加えて9点には絡んでいる計算になる。2009のJ2では、スルーパスと得点の相関性が0.6くらいなんですが、それにしたってこれは・・・・。で、それに加えて、ドリブルも124回成功させている。この内、いくつが、相手の最終ラインを突破してるのかが集計できないのですが、これも相当なもんでしょう。やはり異常です。普通にこいつもセレッソで銅像モンです。
ちなみに、2009年の浦和がいかに異常であったかという話なんですが、これも図にするとわかりやすいんですけど
こいつです。凄いはずれっぷりです。恐いね。フィンケは何を間違ったんでしょうか。FWがみんなで造反でもしたんでしょうかね。あんだけスルーパス成功させてたら、どう考えても点をもっと取れそうなものですけども。もう2年前の話なんで、よく覚えてないや。あと、この年は大分も、かなりスルーパス成功本数と得点の間に開きがあります。
良い選手とは何か
さて、ですが、ここまで色々と述べてきたわけですが、ここからは良い選手、つまり、攻撃で違いを作り出せる選手についてです。攻撃で、違いを作り出すとは、「相手のDFラインの裏にボールを持ち込める選手」です。これが一番、決定的に、得点に関わってくる。
そのために有効な手段とは、サッカーでは、スルーパス、ドリブルによる最終ライン突破、コンビネーションプレーになります。
攻撃で違いを作り出す選手とは、結局、スピードがあってドリブル突破が得意なサイドアタッカー、ドリブルからスルーパスが通せるトップ下、中盤から一撃必殺のパスを通せるパサー、そして連携したコンビネーションが出来る組織です。あとは、きちんと裏にだされたボールをゴールに押し込めるFWですね。はい。結局、どれも、当たり前の話しかでないわけです。
あとは、数字に強い人が色々といじってみてくださいという話
そろそろ眠くなってきたんで〆に入ります。当たり前ですけど、今回の話は、野球におけるXR27ほど精度の高い得点予想ツールじゃありません。とくにセットプレーとドリブルによる最終ラインの突破、コンビネーションプレーを加味できてない所が痛い。
そんなわけで、だれか数字に強い人が、頑張って、もっといい計算方法でも考えてみてください。それと、失点数に関しては、データの集計方法をより詳細にしてみないとどうにもならないです。そもそも被シュート数に強い相関が出なかったのが本当に参った。そもそも、相手が苦し紛れのミドルシュートしか打てないような状況を作ってるチームの場合、被シュート数多いのに、失点少ないとか当然のように出るわけだし。
ちなみに、得点と相関性の強いデータは、シュート数、スルーパス成功本数、ドリブル成功数(2008、2009J1のみ)となります。相関性がかなりあるのは、クロスの成功本数、CKとなります。ついでに、スルーパスとドリブル成功数の間にも強い相関があります。
なわけで、あとは数字に強くてエライ人、よろしく。僕は、このエントリ書いて力尽きました。