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グアルディオラのバイエルンのお話

さて、皆さん、こんにちは。先日、CL決勝ラウンド一回戦が行われまして、バイエルンアーセナルの試合がありました。内容的には、途中でアーセナルのGKのスチェスニーが赤紙+PKで退場食らってしまい、そこからは一方的な展開になって、バイエルンが2-0で勝ってます。アウェーで2-0なんで、ほぼバイエルンの勝ち抜けは決定ですね、こりゃ。


でもって、なんでペップバイヤンの話を急にする気になったかというと、



戦術大国イタリアが脅威の分析「ペップ・バイエルンはたった1つの練習しかしていない」



こいつのせいです。



これは、先日発売された「欧州サッカー批評」の記事でして、


欧州サッカー批評(9) (双葉社スーパームック)

欧州サッカー批評(9) (双葉社スーパームック)



この中にバイヤンの分析が入ってたからです。内容的にはグアルディオラバイエルンの夏キャンプの内容をイタリアサッカー協会のスタッフがスカウティングして、内容をレポートにした奴を下敷きにした記事です。バイヤンの夏合宿は、非公開の練習もあったんですけど、山に登って上から偵察してたそうです。


でもって。


あのですね。バルサとかグアルディオラバイエルンの練習メニューって、内容を知ると、結構ガッカリしちゃう事もあるんです。


これ、「監督ザッケローニの本質」って本の巻末にザックのインタビュー載ってますが、ザックは343をチームでやる前に、ゼーマンの433、クライフの343の練習を見学しに行ってます。その部分を引用しますけど、

「ホテルを経営していて夏が一番忙しかったから、他のクラブのプレシーズンキャンプを見に行って勉強することもできなかった。初めて他のチームの練習を見に行ったのは、ボローニャをクビになった年だから、93年のことだ。一週間ゼーマン(当時フォッジャ)の練習を見に行った。3トップの攻撃のメカニズムに興味があったんだ。ただ、中盤が薄くなる4-3-3というシステムはあまりピンと来なかった。その時点ですでに、3トップで戦うために後ろを3バックにするというアイデアが頭の中にあったからね。それで、クラフの3-4-3を見る為にバルセロナまで行って、安いホテルに泊まってね。彼の3-4-3は中盤が菱形で、トップ下にバケーロ、底にグアルディオラを置いていた。3試合みたけど全部負けだったよ。練習の内容もあまり好きではなかったな。」


って述懐してます。



まあ、これについては、イタリア人監督だし、そんなモンだろうなって思うわけです。アンチェロッティなんかは、「手持ちの練習メニューは多ければ多いほどいい」なんて言ってますし、イタリアサッカー自体、早い段階からスポーツ科学の適用が進んでいた陸上競技のメソッドをサッカーに採り入れて、サッカー選手のアスリート化を進めていた場所でもありますしね。



バルサの事を知らない人は驚かれるかもしれませんが、バルサの練習メソッドは、ホントにシンプルです。バルセロナの事を扱った本は山ほどありますけど、その練習メソッドについては、本にできるような事がありません。何でかというと、ホントにただ一つのことしかしないからです。


最初に紹介した記事から引用しますが、

 実際、私が協会の名を受けて赴いたトレント(伊北部)での合宿でも、行われていたトレーニングは事実上“1つだけ”だったのですから。


 バルサや現在のバイエルンを知っている方々ならばともかく、そうではない一般のファンであれば半ば信じ難い話なのでしょうが、そのトレーニングは驚くほど“シンプル”です。


 誤解を恐れず言えば、それこそ見ている側が拍子抜けするほどの“軽さ”です。具体的なメニューと言えば最初から最後まで“ロンドス”だけなのですから。ただ、後述する通り、その実態はといえば決して軽くはないのですが。




戦術大国イタリアが脅威の分析「ペップ・バイエルンはたった1つの練習しかしていない」 より

これですね。欧州サッカー批評にもっと詳細なトレーニングメニューも載ってますが、グアルディオラの練習メソッドのメインメニューは、



1、フォーミングアップ 5分弱
2、ロンドス(4対2) 15分
3、ロンドス(4対2+3フリーマン) 20分
4、ロンドス(7対7+3フリーマン) 20分



以上、60分で終了です。ホントにこれだけ。ずーっとロンドス(鳥かご)やってるんです。夏キャンプの初日から、ずっとこれ。7/5~7/11までのトレーニングメニュー(非公開部分含む)のメニューの詳細レポートも欧州サッカー批評に載ってますが、それをチェックすると、大体、7割はロンドスです。残りの3割がミニゲーム、戦術練習、シュート練習、セットプレーの練習になります。シュート練習とセットプレーの練習に1週間で割く時間なんて、合計で40分くらいです。



夏キャンプなんて、普通は走り込みと戦術練習やるモンですけど、グアルディオラの場合、初日からひたすらロンドスやらせるんですね。



で、このやり方、バルサの奴と同じで、バルサの場合、トップチームからカンテラ(育成)まで全部一緒なんです。チャビのインタビューにありますけど、


──それが「チャビ」というプレーヤーの原点ということだね?


【チャビ】まあね。そして、それがバルサの原点でもある。サッカーについて言えば、マシアでは1日目からあることの重要性を教えられるんだ。何だと思う? ボールポゼッションだよ。ボールを相手に渡さないためにどうすればいいのか。基本は3つある。まず相手選手とボールの間に自分の体を入れること。次に、ボールを自分の置きたい場所にコントロールすること。そして、パスを出す時は最もいいポジションにいる選手を選択すること。この3つを1年間、とことん反復するんだ。2年目、また同じことを繰り返す。3年目、やっぱり同じことをやる。するとどうなるか? 何も考えずにボールを回せるようになるわけだ。パス回しはすべてがオートマチックに行われなくちゃいけない。こうやって、100パーセントの連動性が作られるんだよ。


──なるほど。バルサの“ティキ・タカ”サッカー(時計仕掛けのサッカー)はそうやって出来ているんだね。


【チャビ】そう。“ティキ・タカ”におけるキーワードは「責任」だ。ボールをキープするという責任からは誰も逃れられない。足元にあるボールは死ぬ気で敵から守る。自分の子供を守るようにね。なぜかと言うと、俺たちがやろうとしているサッカーじゃ、相手にボールを奪われる瞬間が最も危険だからなんだ。例えば、バルサミニゲームではゴールを置かない。だからシュートは要求されない。得点じゃなくて、どっちのチームがより長くキープ出来るかを競うわけ。俺たちがどれだけボールポゼッションを大事にしているか、これで想像が付くだろ?


──そのポゼッション戦術は完全にバルサ独自のものと言っていいんだろうね。


【チャビ】何とも言えないな。俺に言えることは一つ。バルサはこの方法をかつての監督、ヨハン・クライフの時代から続けてきたってこと。そして、今のところうまく機能しているってことだね。その証拠に、スペインでは子供たちの多くが自然とバルサのファンになる。みんなマシアに入ってサッカーを学びたいと思う。だから、バルサのセレクションには何百人もの子供が集まるんだぜ。カタルーニャ地方だけじゃない。スペインの他の地域、それからヨーロッパの他の国でも、才能に恵まれた子供はみんなバルサを目指す。ここなら自分の能力が磨かれるって信じているんだろうね。



俺たちのジェネレーションはもっとでかいことをやれる」 チャビ(バルセロナ/スペイン代表)(2/2)


こんな具合です。バルサカンテラは、さぞ特別なトレーニングしてるんじゃないかとか思う人がいるかもしれませんけど、してないんです。延々とロンドスばっかしてるんです。最先端の陸上競技のトレーニングメソッドを使ったアスリート向けトレーニングとかジムトレとかやって無いんです。育成年代からひたすらロンドス。チャビの言うとおり、育成年代からひたすらロンドスやってます。



ザックがクライフの練習みて、あんまり好きになれなかった理由が、これでわかると思います。クライフ自身「セットプレーの練習をする暇があったらパスの練習をしろ 」なんて言ってのけた人物ですが、ホントに練習でロンドスばっかやってる訳で、イタリア人監督の好みに合ってるとは思いません。この辺りは、クライフの右腕だったカルロス・レシャックも言ってますが、「イタリア式だとボールはほとんど邪魔者。 しかし、バルサでは、ボールは血であり、命の源」って喩えがわかりやすいかな。イタリア式とは相容れないような考え方ですからね。最近はイタリアも変わってきてるみたいですけどね。戦術練習やフィジカルトレーニングに結構な時間を割くイタリアとは、その辺り、全然違います。



そういう訳ですんで、ペップのバイヤンについては、練習メニューは、ほとんどロンドスだって事です。「そんな馬鹿な」って思う人もいるかもしれませんが、事実なんでしょうがありません。


ペップバイヤン、攻撃面の特徴

さて、こっからは割とマニアックな内容になりますが、ペップバイヤンの攻撃面の特徴になります。



ペップバイヤンのシュートまでのトレーニングパターンとして、上記の記事で紹介されているのは三つです。


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この三つですね。普通のワンツーと違ってるのは、裏に走るタイミングがツーで走るんじゃなくて、スリー、もしくはフォーのタイミングだって所です。普通のワンツーだと、相手DFはツーのタイミングで裏に抜けてくる選手についていくように訓練されているので、中々抜けられません。ですから、こうやってスリー、フォーのタイミングで裏に抜ける練習してるんですね。


これ、バルサやバイヤンの特徴でして、ワンツーを多用します。ただ、相手もそれがわかってるし、普通のワンツーだと読まれるから、スリー、フォーのタイミングで裏に走るって形を基本形として持っています。こういったコンビネーションプレーの多用が、バルサ、バイヤンの特徴になります。スリー、フォーのタイミングでラストパス出してきます。




ついでなんで、今回のアーセナル戦で、「ふむ・・・」と思ったプレーが幾つかあったので、試合のキャプ使ってやっときましょうか。



1、バックパスからの二列目、サイドの裏への飛び出し


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これ、ミュラーの得点シーンの流れです。バックパスをワンとすると、ツーのタイミングで動き出した選手はマークがついてます。これはDFがこのタイミングで裏に抜けてくる選手にはついていくって訓練されてるからで、ここで仕掛けると、大概マークに捕まります。なんで、スリーのタイミングで裏に抜ける選手に合わせてきます。バックパスから斜めに飛び出してくる動きまでが組織化されているので、対戦チームは注意が必要になります。


もひとつ、やっときますが


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こーきます。ツーのタイミングで飛び出すと、DFに捕まることが多いので、そっちは囮に使うことが多いんです。



2、スクリーンとワンツーの組み合わせ

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これは、ロッベンがPK取った時の流れです。ロッベンがカットインからクロースに当ててワンツーするだけなら、CBが止めることができたかもしれませんが、CFのマンジュキッチがCBにスクリーンかけていたので、ロッベンにフリーで抜け出されました。裏へのパスをいれる時、ワンツーでなく、スリーの動き(スクリーン)の後にいれてるのが特徴です。



3、クロースのミドルの時の流れ

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こっちはクロースのミドルの時のバイヤンの攻撃の流れです。最初、ロッベンがカットインからクロースに当てた時、「あ、ワンツーからスクリーン!」と思ったのですが、アーセナルの方も流石に2度はやられませんでした。ただ、サイドに開いてから、外を回られ、カットインされて、そこからダイアゴナルでボランチ引っ張られて、最後はクロースにズドン。ここもキレーに決まりました。まあ、10人じゃ、どうやったってバイヤンに勝てる訳ないので、しょうがないんですけどね。しかし、ここゲッツェが地味に良い仕事してるんですよね。必要な時に必要な場所にいるだけなんですけど。



こないだの試合、アーセナルが10人になってからは、ペップバイヤンのパス練習と攻撃戦術練習みたくなってましたが、まあ、あれはあれで、色々と見る事ができたので、それなりに学ぶことも多かったです。



最後になりますが、グアルディオラのバイヤンとか、バルサってチームは、基本的にスーパードリブラーの突破とコンビネーション以外に攻撃手段をもってないって位、尖ったチームです。ただ、コンビネーションの方は、普通のチームのワンツーと違い、スリー、フォーのタイミングでいれてくる為、DFが対応しずらいってのがあります。バルサとかバイヤンの試合見る時は、そういった所に注目してみると、色々と面白いと思います。


例としては、


1 サイドに開く→中に戻す→斜めに走り込んでDFを引きつけてギャップ作る→ギャップに走り込む選手にラストパス
2 サイドに開く→中に戻す→斜めに走る→スクリーンかける→ラストパス


みたいな事やってます。



今日はそのあたりで。ではでは。