サッカーのマッチレポートなどを中心に。その他サッカーのうんちく系ブログ。

書評『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」 明かされなかったロッカールームの証言』

さて皆様、こんにちは。本日は、先日やると言ったモウリーニョ本の書評でもやりたいと思います。どういう本かってーと、


モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」 明かされなかったロッカールームの証言

モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」 明かされなかったロッカールームの証言



こっちでございます。


で、なんですけど、この本、訳者が前書きで述べていますが、スペインでも評価が二分になってる本です。評価は両極端になってる本です。実際に読んでみて、「モウリーニョファンが読んだら激怒しそうな内容だなあ」ってのが正直な所です。なんで、モウファンは読まない方がいいですね、この本は。


この本の面白い所は、一般的なメディアで伝えられるモウリーニョ像、選手像と証言を元に構成したソレが全く異なっているって所です。理由は、本書にもありますが、モウリーニョがレアル時代、メディアを利用してイメージ操作、情報リークなんかをしていたからで、メディアに踊る内容ってのは、モウリーニョサイドが周到に用意した加工済みのものだったからだそーです。


ま、それはそれとして、この本の目次貼っときますが、

プロローグ
第1章 号泣 潰えたファーガソンの後継者という夢
第2章 噴火 モウリーニョが会長に愛された理由
第3章 市場 影のボス、代理人メンデスとの二人三脚
第4章 喧嘩 やられたらやり返せ! 場外乱闘の日常
第5章 屈辱 5-0で迷走した戦術、歪んだ人間関係
第6章 恐怖 広がる不信、分裂する選手。最初の反乱
第7章 “負ける準備をしておけ" 対バルセロナ。信じがたい命令の真意
第8章 反逆 目潰し事件と審判批判。カシージャス決起
第9章 勝利 リーガ優勝。罵倒で力を引き出す人心掌握術
第10章 悲嘆 Rマドリー脱出計画開始。ロナウドとの決別
第11章 非現実 「友好的な別れ」の嘘。会長の密約と裏切り
第12章 ブルー 13-14シーズンにくすぶる戦後処理
巻末付録
モウリーニョ年表 2010年~2013年

こうなってます。僕が、この本に興味を惹かれたのは、「第1章 号泣 潰えたファーガソンの後継者という夢」って所です。今シーズンのプレミアリーグチェルシー戦で、マンUのサポーターが、モウリーニョに対して「お前はこの仕事が欲しかったんだろ♪」なんて歌ってたそうです。また、それ以前にも、「モウリーニョファーガソンの後継者になれなくて泣いた」なんて話がメディアから出たりして、「どうなってるんだ?」と思ってた訳です。


何でモウリーニョが泣いたのか、その情報がどこから出たのかってのが不思議だったんですが、この本の第一章読んで、「ああ、ココが情報源だったのね」という感じでした。情報元は、モウリーニョの所属する代理人ホルヘ・メンデスの会社、ジェスティフテの社員のモンで、アレックス・ファーガソンが後継者にデビット・モイーズを選んだという情報が世界に伝わるや否や、モウリーニョは社員達に電話をかけまくり、その時、社員が激しい嗚咽を聞いたって所です。



まあ、僕が最初に知りたかったのは、コレだけだった訳ですけど、読み進めてみると、モウリーニョとレアルの選手の確執の流れが簡単に把握できる本でして、「ああ、あれはそういう流れだったのね」と色々と当時のレアルの事を思い出しながら読める本でした。




レアル時代のモウリーニョと、彼の上司のメンデスの話

ちょっと、この話をしときましょう。モウリーニョと、彼の代理人、ホルヘ・メンデスと、彼の会社ジェスティフテ社絡みの話からになります。


メンデスの契約選手ファビオ・コエントランRマドリード移籍を機にメンデスの特集を組んだスペインのスポーツ紙『スポルト』によると、彼がこれまでにモウリーニョのチームに移籍させた選手の移籍金総額はなんと2億ユーロ(約232億円)を優に超えるという。


ちなみに、Rマドリードではモウリーニョ就任後すぐにR.カルヴァーリョディ・マリアが加わった。


参考までに、英紙『ガーディアン』は2008-09シーズンのプレミアリーグでは移籍金総額の11.13%が代理人の懐に入っていたと報じている。
この数字をメンデスに当てはめると、モウリーニョチェルシーに移籍した2004年からの7年間、モウリーニョに関係する移籍だけで約26億円を稼いだことになるのだ。


代理人として有望な選手を見つけ出して契約するのは当然だが、選手のピークは短い。それよりも有能な監督の信頼を得ることが、代理人として成功への第一歩なのかもしれない。



モウリーニョの信頼を得て荒稼ぎ! 敏腕代理人、ホルヘ・メンデス

メンデスは、モウリーニョの代理人であり、それと同時に、彼のチームに自分の会社が契約している選手を送り込んでくるのでも有名です。モウリーニョが2010年にレアルと契約した時には、ジェスティフテ社は、レアルに4人の選手を持っていました。つまり、すでにレアルに在籍していたペペ、ロナウド、それに加えて2010年にカルバーリョ、ディマリアが入ってきます。


このメンデス絡みの選手達は、やがて、レアルのロッカールームの火種になることになります。特に大きな火だねになったのが、2011年に3000万ユーロでレアルに加入することになったコエントランでした。


ちなみにですが、アブラヒモビッチは、モウリーニョチェルシーに呼び戻す際、メンデスを警戒してか、「選手獲得の権限はクラブのみに属する」という文章を契約書に盛り込んでます。レアルでの騒動を知っていたら、これは当然の事だったんでしょう。



モウリーニョは、いつ、どこで何を誤ったのか?


さて、メインディッシュになるんですが、モウリーニョがレアルの選手達と衝突してたのは、サッカーファンであれば、メディアを通じて知ってると思います。モウリーニョ時代末期には、メディアで散々、カシージャスモウリーニョの衝突の話が出ていましたからね。

 モウリーニョ監督が“白い巨人”の中で孤立した最大の要因は選手との不和だ。ポルトチェルシーインテル・ミラノでは、クラブ首脳や報道陣との摩擦があっても、選手とは良好な関係を築き好成績につなげてきた。しかしレアルでは何度も選手との不和が浮上。決定的だったのは生え抜きでチームの象徴でもある主将のカシージャスとの対立だった。


 3日の会見でも「問題が起こるのは、1人が他の選手より上に立っていると思っていることだ」と名前こそ挙げなかったがカシージャスを痛烈に批判。その態度は主将に絶大な信頼を寄せるイレブンの反発を招いた。指揮官と同じポルトガル出身で“モウリーニョ派”とされていたDFペペでさえもバリャドリード戦後に「監督はイケル(カシージャス)にもう少し敬意を表すべき。選手とファンはイケルと一緒にいる」と批判した。


なぜモウリーニョは“失敗”したのか…背景に象徴との確執

こんなまとめ記事も、スポニチから出るという異例な事態でしたが。



モウリーニョが、レアルの選手と対立する事になった発端ともいえるのが、実は、メンデス絡みだったりします。これは、上記の本から引用しますが、


(2010年)一月、二月、三月と緊迫した日々が続き、ロッカールーム内からは贔屓だとか独裁的だとかチームの分裂だとかの内部情報が漏れ続けた。メンデスとの関係の濃さによって扱いが違うと言われた。他の代理人が、監督の決断にメンデスが影響しているとクラブに訴えた時、彼らの答えは同じだった。モウリーニョがメディアや審判と対立するのは想定内だったが、”あっち”は予定外だった、と。”あっち”とは、少なくとも表面的には自身が所属するメンデスのグループの利益になるようなモウリーニョの行動の総称だった。



モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」 明かされなかったロッカールームの証言  P117より

こいつですね。


実はですね、これねえ。モウリーニョがゼネラル・ディレクター(GD)のホルヘ・バルダーノを追い落とした時に、こんな記事がナンバーで書かれているんですよ。




“レアルNo.2”バルダーノの追放完了! クラブを完全支配したモウリーニョ。



こっから引用しますが、


 例えば、バルダーノがペレス会長と共にレアルに復帰した2009年夏、ロッベンスナイデルは、ペジェグリーニ監督と本人たちが残留を希望したにもかかわらず、強行的に放出された。


 その際、スナイデルは「レアル上層部にはマフィアがいる」と捨て台詞を吐いた。ペジェグリーニファンデ・ラモスらの前任であるシュスターも、このようなコメントを残している。


「監督が必要とし、本人も残りたいと言っている選手を追い出す現場で、監督が仕事をできるわけがない。レアルのフロントで決定権を持つ人物は、自分の利益を優先する補強をしようとしている」

コレですね。元々、レアルでは「バルダーノが選手の獲得・放出にかかわる際には、Inmarkグループの利益が優先されているのではないか」ってのがささやかれていた訳です。それからクライフのコレ。


 このようにクラブ幹部が関係する会社が、クラブの事業に携わることに警鐘を鳴らしているのが、ヨハン・クライフだ。クライフはこう語っている。


大なり小なり、注目を集めようとすれば、クラブの名前を使ったり、イベントに選手を連れ出すことになる。すると、どの選手がどの幹部と仲良くしているかでグループが分かれるようになり、その結果、ロッカールームに派閥が生まれる。サッカービジネスがロッカールームに悪影響を及ぼす一例だ


 かつてモウリーニョチェルシーで、マンチェスターUのファーガソンアーセナルベンゲルのように、長い時間をかけてユースも含むクラブの強化をしようとした。しかし、その権限が与えられず、彼はチェルシーを去った。


 レアルでも同じことを望んだ彼にとって、ビジネスを優先する可能性のある人物を会長に次ぐポストに置いておくわけにはいかない。だからこそ、モウリーニョバルダーノと自分のどちらを取るのか、ペレスに「二択」を迫った。

皮肉な話ですけど、モウリーニョはレアルのユースを含めて強化をしたか?というと、今になってはビミョ~な所です。その代わりに、メンデス絡みの選手を大量にレアルに連れてきた事で、ロッカールームに派閥が生まれ、それがレアルマドリーを蝕んでいくことになります。「メンデスとの関係の濃さによって扱いが違う」っていう選手からの苦情がそれを現してしますが、こいつは最初から最後まで、モウリーニョのレアルにおいて、ロッカールームが団結できなかった原因になります。



最初のモウリーニョへの反乱、ラシン戦での秘密集会


で、この話になります。2011年、3月のアウェー、ラシン戦の話です。このエピソードを紹介するのは、実は、僕がこの試合をリアルタイムで見ていたからです。「?????」という試合でした。理由は、レアルが、前半、とんでもなく良い内容のサッカーしていたからです。それも、エースのクリロナがいなかったにも関わらず。

「人望のない監督がサブの選手を長く試合に出すと、そういう選手が良い働きをするんだ」 ペップ・グアルディオラ


これは、前回紹介したグアルディオラ本からの引用ですけど、まんまコレ。



実は、本書でも、このラシン戦は大きく取り上げられています。それで印象に残ってます。本書によれば、ラシン戦の前日、ホテルにおいて、メンデスに近いペペ、ディマリア、カルバーリョを除いたメンバーで秘密集会が行われました。その際に、こんなやりとりがあったようです。

「明日やるべきことははっきりしている。最初から全力でいくこと。でなければ『強欲(ロナウドのチーム内での渾名)』抜きでは勝てないとモウリーニョは言うだろうから」とある選手が言った。

「『強欲』抜きでいい試合をして勝ったら、”パパ”は何て言うんだろう?」


この時期、すでにチーム内では、自分への忠誠心と代理人との関係によって選手を分類し、審判と日程に対する文句を口裏合わせて強要してくるモウリーニョへの反発が高まっていました。集会では「ベッドを用意する(わざと負けて解任に追い込むの隠語)」も提案されたようですが、レアルではそれは不可能だと、キャプテン達はそれを却下します。


本書によると、カンのいいモウリーニョは、この試合で、選手からの信頼を失いかけている事を察したそうです。




「負ける準備をしておけ」

これ、本書の第七章になるんですが、本書で、一番面白い所です。帯にもなってますが、あの負けず嫌いのモウリーニョが、なんで「負ける準備をしておけ」なんて命令をしたのか?



ちょっとこの発言の前後をまとめます。まず、モウリーニョのレアルは最初のクラシコバルサに5-0でフルボッコにされました。その後、コパ・デル・レイの決勝では1-0でレアルが勝利。


問題が起きたのは、2011年、4/27のCL準決勝ファーストレグです。この試合は覚えている方も多いかと思いますが、ペペがダニ・アウヴェスに危険なタックルを行ったと判定されて、一発レッドで退場。その後、メッシが二発決めてベルナベウでバルサが勝利してます。


この時の判定が問題でして、判定を巡り、試合後、レアル・マドリーの選手とバルサの選手の間で乱闘が発生してます。これも報道されましたね。



この後の流れが問題なんですが、これは全部、本書から引用すると長すぎるので、要点だけまとめます。


っていう凄い流れになりました。


この時期、すでにモウリーニョは、チーム内に不満分子が生まれている事を察しており、メンデスが代理人をつとめる選手と、それ以外の選手の間に贔屓的な待遇を巡って摩擦があることは承知していたようです。「我々にロナウドのクビを差し出した。新しい友達を作りたがっている!」ってのは、スペイン人選手の信頼を回復するためにロナウドをロッカールームで侮辱したって事です。メンデスの選手の中で、一番の稼ぎ頭であるロナウドを侮辱することで、贔屓はしてないというアレを示したかったんでしょうが、すでにレアルマドリーの選手達は、そういったお芝居にはだまされなくなっていました。



はっきりいって、これは逆効果でした。ロナウドモウリーニョに対する反抗心を芽生えさせただけでなく、これが「お芝居」だと、レアルの選手達に見抜かれていたからです。


最初の反乱、そして3000万ユーロの男、コエントラン


本書を読む限り、モウリーニョの最大の失敗となったのが、コエントランでした。コエントランを2012年に3000万ユーロで買ったということは、メンデスにその10%程度が転がりこんでいることになります。


コエントランは、本書でも問題になっているのですが、特に問題なのが、左SBのマルセロより、誰の目からみても下のレベルの選手なのにも関わらず、モウリーニョに使われ続けた事がレアルの選手達の反感を買いました。さらに、彼のせいで負けた試合が多数ある事も怒りを買いました。


そして最初の反乱が起こります。2012シーズン、レバンテ戦において、ケディラが退場処分になった時に、モウリーニョケディラを会見で批判した時です。モウリーニョは、それまで、「自分がチームの盾になってメディアから選手を守る」と言ってきた訳なんですけど、名指しでケディラを批判した事で、S・ラモスは、モウリーニョに説明を要求。しかし、次のラシン戦でラモスは先発から外されます。


そして、ラシン戦後、最初の反乱が勃発。カシージャス、ラモス、アルベロアイグアインは、モウリーニョに対して、

  • メンデスと繋がっている選手への贔屓的待遇をやめる事
  • 公でケディラにしたような批判はやめる事
  • 選手と監督で口裏を合わせて審判を批判することはやめる事
  • 逆転するために戦うな、という要求は今後絶対しない事


モウリーニョに要求します。ここはモウリーニョが折れ、バーベキューやって仲直りって形になったんですが、その後も、モウリーニョは必要だと感じた時には、審判を批判するように選手に頼み、それが聞き入られないと知ると、今後はジダンにそれを頼みます。ジダンはそれを拒否し、ジダンモウリーニョの関係は破綻しました。ジダンモウリーニョの元から去ることになります。



2012年、レアルはリーガで優勝を果たすわけですが、すでにロッカールームの団結とモウリーニョへの信頼は完全に失われていました。CLではバイエルンに負け、ここでのコエントランの起用がまたもロッカールームで問題にされ、選手がモウリーニョに食ってかかるという事態に発展してます。


最後に、モウリーニョはどこで間違ったのか?


これ以上書くと、本書の書評じゃなくなるので、このあたりにしときますが、レアルの選手がモウリーニョの何が気に入らなかったかといえば、これは、本書のP312にある、セルヒオ・ラモスの言葉にまとめられます。


(2013年)2月2日、リーガ第22節グラナダ戦に敗れたこと(1-0)は、この平穏な時期の唯一の汚点だった。「勝ち点100のレアルマドリーが帰ってきた!」と快さいし、物事が好転し始めたと考えていた怪鳥のアドバイザーたちにとっては災難だった。



フロレンティーノは試合後グラナダでS・ラモスに合った。会長が敗戦の理由を尋ねると、いつもの率直さで彼は答えた。2012年にリーガ優勝できたのは幸運だった、と。ロッカールームでは、モウリーニョの自信がある時は”彼の仲間”を助け、他の者を阻害する様子を見てきた、とも言った。さらに、最もチームにダメージを与えたのは選手達にプロ意識が欠けていると何度も告発した事で、ああいう男のために全力を尽くすのは自然の摂理に反する、と締めくくった。側近達の話によると会長はS・ラモスの言葉をひどく嫌ったという。

これは、モウリーニョのリークの後の発言です。有名な「3匹の黒い羊」事件ですね。


モウリーニョにしろ、フロレンティーノにしろ、2013シーズンのある時期、レアルの選手がモウリーニョを解任するために、わざと負けているってのを確信していたようです。



結局の所、本書を読んだ限り、クライフは正しいって事です。つまり、最初の、

「大なり小なり、注目を集めようとすれば、クラブの名前を使ったり、イベントに選手を連れ出すことになる。すると、どの選手がどの幹部と仲良くしているかでグループが分かれるようになり、その結果、ロッカールームに派閥が生まれる。サッカービジネスがロッカールームに悪影響を及ぼす一例だ」


の代理人と監督バージョンが、レアルで起こったという話です。



本書読んで思ったのは、現場の監督に選手獲得の権限は渡せないって所です。


こいつはロッカールームに派閥を生み、それはひいてはロッカールームの内紛の原因になるからです。時々、プロの監督が、選手獲得の人事に混ぜてもらえなくて、ブーたれるのを見かける事がありますが、フロントが選手獲得の人事に、必要以上に現場を巻き込まないのは、それなりに合理性があるんだなあ、と思った次第です。


繰り返しになりますが、この本、かなり黒い内容で、モウリーニョファンにはお勧めできる本じゃありません。レアルの選手側視点で書かれた本なんで、そういう本だと割切って読むのがいいかと思います。



今日はこのあたりで。それでは。