サッカーのマッチレポートなどを中心に。その他サッカーのうんちく系ブログ。

欧州サッカーのビジネス化、それに伴う格差の拡大の話

CLで勝つ方法は何か?


他のCL出場チームからエース引き抜く。終わり。


と書いてしまうと身も蓋もない訳ですが、この話はこれに尽きます。実際、メガクラブはこれをやる事で欧州での競争で優位に立ってます。長い目でみると、これが出来ないチームはCLで勝てなくなります。



突然ですけど、こんな話をしようと思います。きっかけは、



もはや日本人はプレミアでプレーできない!?


この記事を読んだのと、先日セリエAの話をしたので、その続き的な内容になります。セリエAとプレミアのビッグクラブは昨今、ヨーロッパでぱっとしないンですが、何でかというと、最近のヨーロッパのサッカー事情と関連があります。今回の話も、サッカーの戦術の話ではありません。金金金のお話になります。


このニュース読んで思ったのは、プレミアはもう東アジアからの放映権料無しにはやっていけれないようなレベルになってるんですが、東アジアのプレーヤーがほとんどプレーできないような規則作っていいのかなあ、又イングランド人選手の給料が高くなるなあ、という感じです。




欧州サッカーの基礎知識、ボスマン判決

さて、欧州サッカーのお金の話をする前に抑えておかないといけないのがボスマン判決になります。詳しい内容は、wikipediaにあるので、そっちを読んでください。


ボスマン判決



これですね。



で、なんですけど欧州サッカーの基礎知識として、ボスマン判決を知っておく必要があるのは、ボスマン判決前は契約が満了しても選手はクラブの意志に反して移籍をすることが出来ませんでした。また、EU内の各国サッカーリーグにはほぼ全て外国人枠が存在し、クラブが使うことができる外国人は4~5人までに限られていました。しかし、ボスマン判決後、


1,サッカー選手は契約が満了したらフリーで移籍する事ができるように。
2、EU国籍の選手であれば無制限にピッチに立たせる事が可能に。


になったんです。


これによって、事実上、欧州サッカーでは、「EU圏内のスター選手を金で買い集めてチームを強化可能」、「CLでライバルになる国外チームのエースを引き抜いて弱体化させることが出来る」世界に突入したんです。


ボスマン判決の影響を即受けたのは、ファン・ハールが率いてた「マイティ・アヤックス」の崩壊です。1994-95シーズン、CL決勝でACミランを下し優勝した若きアヤックスのメンバーは、ボスマン判決後、次々とビッグクラブに引き抜かれ、アヤックスは以後、ヨーロッパの舞台で競争力を失いました。



欧州サッカーの基礎知識、サッカービジネスのトレンド


次に欧州サッカーのビジネス上のトレンドを説明する上で三つのキーポイントを上げます。


1、スタジアムの近代化と演出の強化
2、有料衛生放送の出現とTV放映権料の高騰
3、サッカービジネスのグローバル化


この三つですが、1に関しては、プレミアが先鞭をつけました。フーリガン対策と二つの大きなサッカースタジアムでの悲劇が契機となったんですが、スタジアムが近代化され、試合における演出が強化されています。わかりやすいのは、CLですが、試合前に荘厳な「チャンピオンズ・リーグ・アンセム」が奏でられ、CLのバナーでスタジアムが飾り付けられるといった特別な演出が施されています。あれはCLのブランド化戦略の一つなんですが、こういったスタジアムの特別なブランド・プロモーションは欧州サッカーのトレンドであり、スタジアムを一つの巨大な複合アミューズメントパークとして扱うようになってきてるんです。



2に関しては、冷戦が終わると同時に、多くの軍事衛星が民間に払い下げられました。この結果として、有料衛星放送局が誕生することになるんですが、その時、視聴者を集めるためのキラーコンテンツとなったのがサッカーでした。イギリスのBskyBは、プレミアリーグの試合を独占することで、短期間で黒字化することに成功しました。これが契機となって、キラーコンテンツであるサッカーの放映権料は高騰していく事になります。ただし、この副作用として、TV局の論理がサッカーの世界に強く入り込むようになります。昨今の試合数の増加、日程や時刻へのTV局の干渉は、ある意味でビジネス上、必然の結果でした。




最後に、3のサッカービジネスのグローバル化なんですが、


開幕時から実に17倍の8000億円超に プレミアリーグの放映権料はどこまで高騰するのか


こちらの記事にありますが、プレミアリーグの放映権料は8314億円で、その内訳をみると、海外放映権料がおよそ3573億円。うち44%がアジアからのものとなっており、東アジア地域からの放映権料は今や、プレミアリーグにとって欠かせないモノになっているんです。


それから忘れちゃいけないのはプレミアの胸スポです。



プレミアリーグのユニフォーム胸スポンサー企業


こっちをみればわかると思うんですが、胸スポのうち半分くらいは海外の企業なんです。アジアの企業が胸スポについてるチームも多いんですね。



これがサッカービジネスのグローバル化であり、海外市場からの放映権料、コマーシャル収入、特に東アジアからのそれは、もはや欠かせないレベルのモノとなっているのが現状です。



こういった要素を欧州サッカーにおいていち早く取り入れる事に成功したのがプレミアリーグだったりします。セリエAはTV放映権料でがっぽり稼ぐことには成功したのですが、他の面で遅れを取りました。ブンデス、スペインは彼らの後を、追うことになります。


1990~2000年におけるイタリアの栄光と没落

さて、まずはこの話から。セリエAは、1990年~1997年までUEFAカントリーランキングで一位でした。そして何より、CLが始まった1992年から1997年まで、6年連続でCLファイナルにイタリアのクラブは進んでいます。


この1992~1997年の時期というのは文字通り、セリエAが世界最強のリーグであった時期です。古き良きセリエAの時代です。


しかし、1990年代半ばから、セリエAでは放映権高騰もあり、各チームのオーナーが放映権高騰を見込んだ補強を繰り返すようになった訳ですが、そこにやってきたのが「サッカーバブルの崩壊」です。これによって、セリエAのビッグ3を除くクラブは壊滅的な打撃を受けることになりました。


そして、セリエAUEFAランキングで一位から滑り落ちる事になるのが1999年なんですが、この年からセリエAは放映権をリーグ一括管理からチーム個別契約という方式に変更してます。この方式、今のリーガ形式ですが、ビッグクラブはよくても中小にとってはきつい仕組みです。この後、セリエAのクラブは欧州で以前ほど勝てなくなっていきます。(もっとも、一括管理にすぐ戻しちゃうんですけどね)


セリエAの没落を示す最大の指標は、クラブ・リーグの売上が伸び悩む一方で、UEFAカントリーランキングが低下していった事です。特に、2000年代後半にはセリエAの競争力の低下は顕著になります。2000年代後半の5シーズンで、EL、CLのベスト8に入ったイタリアのクラブがわずか7しか存在しませんでした。


このようにセリエが停滞する一方で、暗闇から抜け出して世界トップのリーグに駆け上がってきたのがプレミア・リーグです。



プレミアリーグの誕生とビッグ4の栄光

さて、次がプレミアリーグのお話になります。セリエAが2000年代に入って停滞する一方、2000年代に入ってから急成長を遂げたのがプレミアリーグになります。



プレミアリーグの歴史については、wikipediaにまとまってるので


プレミアリーグ


こちらをどうぞ。イングランドサッカーの暗黒期は1980年代でして、スタジアムの老朽化、フーリガン問題にイングランドは悩まされていました。今のセリエみたいな状況ですが、この時期、イングランドサッカーはアメリカのNFLを模範としたエンタテイメント性が高く、収益性の高いシステムへの移行を模索しはじめます。経緯は省きますが、その結果として誕生したのがプレミアリーグであり、スポンサー・TV放映権を一括してリーグで扱うシステムを取り入れます。プレミアリーグのやり方はその後、多くのリーグで取り入れられていくことになります。


で、なんですけど、プレミアリーグが誕生したのが1992年になるんですが、これ以降、プレミアリーグは売上高を劇的に伸ばし続けます。


Deloitte Football Money League



こちらで、Deloitte Football Money Leagueを紹介しときますが、ここのSummary table: Some teams appearing in Top 10を見て欲しいのですけど、2011シーズンまでにイタリアのビッグ3は、プレミアのビッグ4に売上高で完全に上回られてしまいました。そして、売上高を伸ばしたプレミアは、2004年にUEFAカントリーランキングでセリエAを抜くと、2006年以降、リーグランキング首位に躍り出ることになります。2006~2008年までの3年間、CLのベスト4の12チームの内、8チームがプレミアという極端な状況になりました。プレミア栄光の3年間です。


そして、この背景にあるのがプレミアのクラブの豊富な資金力です。


もう身も蓋もない話ですが、この時期、CL決勝を戦ったプレミアのチームのメンバーをみてもらうとわかりやすいんです。


UEFAチャンピオンズリーグ 2005-06 決勝


UEFAチャンピオンズリーグ 2007-08 決勝


UEFAチャンピオンズリーグ 2006-07

UEFAチャンピオンズリーグ 2008-09


これで、CL決勝戦ったプレミア以外のチームとプレミアのチーム見れば、すぐわかると思うんですが、プレミアのチームって、外人傭兵主力のチームなんです。まあ、金がうなるほどあるんで、その金で外人傭兵かき集めてヨーロッパで勝つっていう身も蓋も無い事やってるのがプレミアだったりします。



2000年代ってのはプレミアの大躍進とプレミアビッグ4の栄光の時代でした。UEFAカントリーランキングでもイングランドが首位に躍り出る事なります。


でもって、2000年代後半から、世界中から金で良い選手をかき集めたチームがCLで勝つって傾向が鮮明に出始めます。


これはバイエルンみたいなチームでもそうなんですが、2012年、アリアンツチェルシーとCLファイナルを戦ったバイエルンのメンバーの内、ドイツ人は8人でした。しかし、2013年、ドルトムントを破ってCLを取った時のスタメンでドイツ人は5人。残り6人は外国人選手です。


2010年にCLを制したバルサはスペイン人中心で11人中7人がスペイン人です。しかし、2011年のチェルシー、2012年のバイエルン、2013年のレアルと外人傭兵中心のチームがCLファイナルで勝ってる訳です。


金で世界中から良い選手かき集めないとCLで優勝できない、そんな流れが出来て来つつあるわけです。



2000年代後半、スペイン2強のスーパー化とブンデスの復活

そして、これが近年の最も大きなトレンドといって良い出来事になります。それがスペインのレアルとバルサのスーパー化です。


バルサとレアルなんですが、2014年現在、年間売上高が5億ユーロ前後というモンスタークラブに成長してます。


これがどれくらいデカイ金額かというと、J1の全チームの売上総額が540億前後だというのを比較対象として出すと、どれだけモンスターかがよくわかると思います。レアルは、たった一つのサッカークラブでありながら、J1全体以上の金を稼ぎ出している訳です。


最近、プレミア勢がぱっとしませんが、これは、彼らが没落した訳ではないんです。彼らの資本力は相変わらず突出してます。ただし、他のリーグがプレミアを急追しているんです。リーグアンブンデスは昨今、売上を伸ばしており、特にブンデス勢の売上の増加は目を見張るものがある。つまり、ブンデスとの差が相対的に縮小してきてるんです。


ブンデスは2005年あたりから売上が急激に伸びており、それが昨今のブンデスの躍進を支えている要因です。セリエが停滞していた時期に、急激に伸びたのがブンデスリーガなんですね。


2013-2014年度でみるとレアルは売上を5億1000万ユーロ、バルサは売上が4億8000万ユーロと他のクラブの追随を許さないレベルに伸ばしています。ブンデスではバイエルンが3億6000万ユーロ、ドルトムントが2億7000万ユーロとなっており、プレミアのクラブでもそう簡単には手出しができない存在になっています。



昨今のプレミアの不振は、スペイン2強とバイエルンがプレミアのビッグ4ですら勝てないレベルの資本力を持つにいたった事、そしてドルトムントのようなクラブがチェルシーアーセナルレベルの売上を持つに至った事が大きいんです。もう一つ、ビッグ4の顔であったマンUがグレイザーによる買収によって多額の負債を抱えたため、思うような補強が出来なくなった事も一因として存在しています。


現在のプロサッカーとは、相手の大駒を買い取って、自分の持ち駒にできる将棋みたいなもの


ボスマン判決以降、プロサッカーとは、相手の大駒を買い取って、自分の持ち駒にできる将棋みたいなものになってしまいました。バイヤンが国内一強なのは、ライバルのスター選手を引き抜いて、ライバルチームを弱体化させてるからだってのは知ってる人が多いと思います。


このバイヤンによるブンデス戦略が世界規模で行われるようになったんです。


放映権収入が細いオランダ、フランスなどは、まず草刈り場にされました。結果として、オランダ、フランスは代表は強いけれど、国内のクラブはCLで勝てなくなりました。



そして、最近ではメガクラブ(売上高が4億ユーロを超えているバルサ、レアル、バイヤン、マンU)や中東のオイルマネーをバックにつけたクラブが、他のCL出場クラブからスターを引き抜いていくような事が頻繁に起こるようになってます。身も蓋もないライバル潰しですけど、これが一番効果的なんです。



どんなに相手チームを研究しようが、戦術を突き詰めようが、チームのキープレーヤーをライバルチームに根こそぎ強奪されたら勝つ事は出来ません。1シーズンに限って言えば勝つ事は可能でしょう。例えば、昨年のアトレティコのようにね。でも、ビッグクラブは、アトレティコなんて潰すの簡単なんです。主力を全員引き抜いてしまえばいいだけなんだから。実際、アトレティコの主力はビッグクラブによってガンガン引き抜かれました。



ボスマン判決後の欧州サッカーの世界は将棋に喩えれば、相手の大駒を買い取って自分の持ち駒にできるようなモノです。プロ同士の対局が始まる前に、大駒全部買い取られたら、勝負になりません。現在、サッカーで起きているのはそういう事でなんですね。CLでもそうですが、メガクラブがCLのライバルクラブのエースを片っ端から引き抜いてしまう事なんて珍しくも何ともなくなってます。


今年に限って言えば、リヴァポのスアレスバルサに引き抜かれてますし、アトレティコチェルシージエゴコスタを取られてます。


金の無いクラブでも、1年に限っていえばCLで勝てるかもしれない。


しかし、2年目、3年目は勝てなくなる。なぜなら、メガクラブ、ビッグクラブ、オイルマネーによって、根こそぎスターを引き抜かれてしまうからです。



そして、今、イタリアに起きてるは、そういう事であり、ミランがPSGにイブラとチアゴ・シウバを抜かれたのは、彼らの立場が、かつてのオランダやフランスと同じレベルにまで落ちている事を示しています。


イタリアが勝てなくなったのも同じ理屈です。かつてはライバルのエースを引き抜く事ができた。だが、今は引き抜かれる立場なんです。1度こうなったら、ヨーロッパの舞台では勝てなくなります。例え1シーズン勝てたとしても、翌年にはキープレーヤーを根こそぎ引き抜かれるので、また勝てなくなります。



プレミアやブンデス、スペインのメガクラブは、ミランインテル、ユーヴェのスターを引き抜けるが、逆は出来ない。これが、今のセリエの状態です。



昨今、バイエルングアルディオラの招聘から色々やっていますが、欧州の舞台でレアルとバルサの売上の伸びをみていれば、このまま行けば、彼らとバイエルンの差は開く一方です。そして、一旦、埋められない資金差をつけられた場合、バイエルンが国内でそうしたように、格差を固定するのは簡単になんです。つまり、エースを引き抜いてしまえばいい。


バイエルンは今後、スーパー化しなければならないんです。そうならなければ、どうなるかは、彼らが一番よくわかっているんです。何故なら、彼らこそ、ブンデスで、ライバルのエースを根こそぎ引き抜いて潰して回るクラブなんですからね。


ただ、スペイン2強の売上高の伸びに関しては、直近だと止まったと言う話もあります。


総額6億2000万ユーロ、その内3億6100万ユーロが流動負債


こっちにもありますが、バルサとレアルは負債がやばいレベルになってるので、近年動きが鈍くなりつつあります。


最後に、今後の欧州サッカービジネスについて


さて、最後なんでまとめておきます。


2000年あたりから、サッカーはスポーツでなくビジネスとしての側面を強く持つようになりました。まあ、なんというかアメリカンスポーツみたいな感じです。


ただ、行きすぎたビジネス化の流れは、これまで見てきたように、ビッグクラブとそれ以外という格差の拡大を生んでおり、CLに出られるクラブが、さらに収入を増やして、その金を使って選手をかき集めてさらに強くなる、という流れを加速させている訳です。


それがCLから入る収入やTV放映権料で何とかなっていれば良かったんですが、昨今では選手の移籍金が高騰しすぎて、ビッグクラブはどこも負債まみれという状況になってます。行きすぎたビジネス化の代償といってはなんですが、CL出場権をもつクラブ同士で、相手チームのエースを引き抜いて弱体化させるという行為も頻繁に起こるようになってます。そういう競争になってるので、巨大な負債を背負ってでも高額な移籍合戦を繰り広げているのが現状です。


この結果起こっているのが、いわゆるサッカー版「勝者の呪い」です。

勝者の呪い」とは - 競売において、落札者が自らが推測する市場価格以上の価格を設定し、過度に高い額で入札して、かえって損をしてしまうという現象を指す経済学用語。


の呪い しょうしゃののろい


まんまコレ。


ファーガソン氏、資金力の重要性を認めるも今夏の市場には驚きを隠せず


こないだ、こっちのニュースでディマリア、ハメス・ロドリゲスダビド・ルイスの移籍金が適正より高すぎるなんて話が出てますが、現在のサッカーの移籍市場は「勝者の呪い」の典型ケースであり、割高な金額でしか選手を手に入れることは出来なくなってるんです。スポーツにおける勝者の呪いの典型例としては、アメフトのドラフト1なんかがあるんですが、まあ、それは別の話なんで割愛。



そして、そういう流れをせき止める為に、ファイナンシャル・フェアプレーなんてのが出てくる訳なんですが、その話まですると長くなりすぎるので、本日はこのあたりで。ではでは。