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2015ロシアワールドカップ二次予選、日本対シンガポールのレビュー

はい皆さん、こんにちは。本日は最高にストレスがたまる試合だった先日の日本対シンガポールの試合のレビューでもしようかと思います。久々のマッチレポートになりますね。試合自体は0-0のドローでした。シンガポールのFIFAランキングは154位ですから、大番狂わせといっていい出来事でございます。



実は一つ前のイラク戦もマッチレビューしようかと思ってたんですが、書くことがホントに何もない試合だったのでスルーしてました。ただ、今回の試合のおかげで、ちょっと書くことはできました。比較的な事をすると色々とありますので、ちょっと触れときます。




日本対シンガポール、スタメンとフォメ、シンガポールの守備のやり方の話

まず、スタメンとフォメ張っときます。シンガポールの選手は誰もよく知らないので、フォメだけにしときます。


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こうなってました。日本代表はいつもの4231、対するシンガポールは4141です。このマッチアップはわかりやすく噛み合うので、誰が誰を見るのかってのがはっきりしてます。


ただ、この試合なんですけど、一つ前のイラク戦の時と、相手の守り方がちょいと違ってました。イラクは4411なんだか、4141なんだかよくわからない守り方してましたけど、




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動画張っておくので軽く説明しときますが、イラクはボランチが香川と長谷部、柴崎を捕まえに結構前まで出てくるんですね。だからイラク戦では、相手のボランチを簡単に動かせたので、そこで開いたバイタルのスペースをアタッカーが使うことが簡単にできてました。それから、イラク戦だと、岡崎にぽんぽん楔が入ってましたけど、香川のオフザボールとボランチのポジショニングで簡単に中央へのパスコースを作ることが出来ていたので、トップに楔入れるのがすごく簡単な試合だったんです。



ところが、シンガポール戦の場合、



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こうなってたんですけど、イラク戦の場合、ボランチが一人、必ず香川を捕まえてました。なので、香川が動くと、ボランチも移動するので、中央にスペースつくるのは割と簡単だったんですわ。ところが、この試合の場合、アンカーが香川をマンツーマン気味では捕まえてないんです。中央のスペース潰して岡崎への楔が入らないように守ってました。アンカーは中央からあまり動かないんで岡崎に楔入れるのは難しい試合でした。


もういっちょやっときますけど、


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こーなんですけどね。これらのシーン、どれもそうなんですけど、シンガポール陣内で長谷部と柴崎が、簡単に前向いてボール持ててるんです。湘南ベルマーレの話を突然挟みますけど、湘南の選手がこーいう守り方したら、チョウさんはガチ切れします。「相手のボランチを自由にするな!!」ってガチギレです。ところが、この試合だと、シンガポールは日本のボランチを自由にプレーさせてまして、これだと、どんどん押し込まれます。


シンガポールなんですけど、「前に一人しか残してない」、「日本のボランチがハーフウェーラインでボール持って前向いても、そこでは食いつかない」という守り方してたので、基本的にカウンター出来ません。というのも、日本のボランチはシンガポール陣内で前向いて、ほとんどプレッシャー受けずにボール捌いてる状態なんで、DFラインはどんどん下がっちゃいます。この状態ではボール取っても、まともにカウンターなんて出来るはずがありません。なんで、この試合、前半はシンガポールはシュート2本、枠内シュートは無しという状態でした。



この日のシンガポールの守り方をちょっと図でまとめると、



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こんな感じです。中央三枚は、マッチアップ的にはアンカーが香川、インサイドハーフが柴崎と長谷部を捕まえる感じなんですけど、マンツーマン気味ではなく、スペース埋めるの優先でした。DFラインは、オフサイドトラップはそんな使ってません。たしか一回だけだったはずです。本田、岡崎の裏抜けにはDFがついていって対応してました。



この日のシンガポールなんですけど、基本的に守備だけやるサッカーです。ハーフウェーラインから、日本のボランチがほとんど自由にビルドアップ出来る状態でしたから、狙った所で奪ってカウンターってのは出来ません。そもそも日本のボランチに自由にパスだされてる訳だし。




日本対シンガポール、前半における日本の攻撃について

さて、こっからが今回の本題。



ここまで、「日本のボランチがシンガポール陣内で簡単に前むいてパス出せる試合」だって事を、ここまでで説明してきました。なので、日本のボランチは基本的にやりたい放題できます。



この試合、ハリルホジッチが、


──格下の相手に主導権を握りながら点が取れない。簡単なことではないと思うが、改善するにはどういうことを意識づける必要があるか?



 おっしゃるとおりで、向こうがどう引いてくるかは分かっていた。具体的にいうと(対策として)逆サイドにダイアゴナル(斜め)のパスを要求していたが、選手はそれを実現できずに中に入りすぎていた。中を崩すのであれば、ダイレクトで2〜3回(パスを)つながなければならない。ワンタッチの突破は4〜5回成功したものの、シュートに正確さを欠いた。最後の仕留めるところでの正確さが足りていなかった。




ハリルホジッチ「非難するなら私」 W杯アジア予選 シンガポール戦後会見


こんなコメント出してましたが、この逆サイドへの斜めのパスってのが、


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こーいうサイドチェンジなのか、


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こーいう斜めに裏に走りこむWGへのパスなのかは、文章からはちとよくわかりません。ただ、WGが中に入っていくのを放置してるので、サイドチェンジはそんな重要視してないっぽいんです。なんで、後者の斜めに裏に走りこむWGへのパスなんじゃねぇかとは思います。



後者の斜めに走りこむWGへのパスのほうなんですけど、これは前半最初に本田が何度かやってました。イラク戦の場合、本田はアレで簡単に点とったんですけど、この試合の場合、本田の裏抜けは明らかに警戒されてて、点取れそうな気配はなかったです。


これはそもそも論ですけど、サイドから斜めに裏に走りこむプレーってのは、本田あまり上手くありません。宇佐美もそう。日本のこの日の両WGは、足元でもらいたがるタイプで、オフザボールで裏に走りこむプレーで天下をとった選手じゃないんですよ。そういうプレーは岡崎とか川崎の小林悠とかが得意なプレーです。



というわけなんで、「逆サイドへの斜めのパス」っつても、宇佐美と本田のダイアゴナル・ランじゃ、そもそも裏とれないだろって話になるんで、ハリルさん、それをやりたいなら、ポジション変えるべきですがなって話にゃなるんです。「逆サイドへの斜めのパス」やりたいなら、岡崎を右にだしたほうがいい。それやると、ザックジャパンなんですけどね。




それ以外にも、この試合の場合、前半の攻撃は、あまり上手く行ってませんでしたが、原因は左右両サイドそれぞれにあります。なので、まず左サイドの問題点を図で説明しますけど



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図でやると、こうなるんですが、図の白いエリアに香川が入ってきたときに、そこにパスが入らないんですわ。これは、遠藤がいなくなってから、問題になるだろうなあと思っていた部分なんですけど、日本の左サイドでボランチから縦パスが通らなくなってんですね。


遠藤がいた頃は、あそこに縦パス通してくれてたんです。ただ、いなくなってから、あそこにパス通せる奴がいなくなってましてね。あそこに縦パス通す攻撃が通ったのは、本当に少なかったです。



ここの遠藤がいないとパスが回らない問題なんですけど、基本的に今の日本代表って、ボランチ、CBにビルドアップ出来るレフティってのがいないんです。このビルドアップできるレフティがいないと、左方向への展開に問題を抱えてしまう事が多いんです。



ちょっと、利き足と逆方向のパスが難しいって話をするのにPKの話をしますけど、


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このサイモン・クーパーの本に、PK戦の話があります。経済学者のイグナシオが1995~2000に蹴られた1417回のPKのデータから、キッカーが自然なサイド(利き足の方向)に蹴ったかどうかでPK成功率がどう変わるかを計算した話があります。それによると、



キッカーが自然なサイドに蹴って、キーパーが逆に跳んだ場合のPK成功率 95%
キッカーが不自然なサイドに蹴って、キーパーが逆に跳んだ場合のPK成功率 92%
キッカーが自然なサイドに蹴って、キーパーが同じ方向に跳んだ場合のPK成功率 70%
キッカーが不自然なサイドに蹴って、キーパーが同じ方向に跳んだ場合のPK成功率 58%



となったそうです。


いずれのケースでもそうですが、利き足と逆方向に蹴ると、PK成功率が下がっているのがわかると思います。この話はキッカーがどういう戦略をもってPKをやるべきかって話じゃありません。それはサイモン・クーパーがやってます。僕がここで言いたいのは、「チームのビルドアップ部隊が全員右利きだと左方向への展開に問題を抱えやすい」って事なんです。圧倒的にキッカー有利なPKでも、利き足と逆方向に蹴ると成功率が落ちるわけです。パスも同じで、基本的に、右利きの選手ってのは左方向へのパスで問題をかかえやすくなるんです。チームのビルドアップ部隊が全員右利きだと、左サイドの底からビルドアップ、左方向へのパス、この二つが上手くいかなくなる事が多いです。



遠藤が日本代表でボランチやってた時代は、この問題がそれほど大きな問題にはなりませんでしたけど、遠藤がいない試合だと、すぐこの問題が出るんです。



ここで、シンガポール対日本の試合に戻りますけど、この試合の問題点を浮き彫りにしてるのが、前半4分のビルドアップなんですが、



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これです。この試合の前半は、こんな攻めばっかだったんですけどね。まず、左でフリーな選手がいるけど、右に右にパスをだしていく。でもって、右の中央に入ってきてる本田に、マークついてるのに足下にパスだしてしまう。



柴崎か長谷部がボールもつと、相手のボランチの一枚がどこかで出てきます。そしたら、その背後のスペースが空くんですけど、その際になにが問題って、図でやると、



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こうなるんですけど、あそこの赤で囲ったスペースを香川、岡崎、本田が使おうとして大渋滞という意味不明なプレーが散見されました。



これね、前半9分にもくり返されるんですが、



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なんで、左無視して、わざわざマークがぴったりついてる右の本田にパスだすのか、お父さん、さっぱりわかりません。本田が中央に入りすぎなのも問題なんですが、その前の段階で、香川か宇佐美にボール当てない理由が、僕にはよくわからんのですよ。これ、前半19分の時も同じようなことやってます。左サイド無視して、マークついてる本田にパスいれろって指示でもハリルホジッチから出てたんでしょうかね?



これ、そもそも論なんですが、本田が中央にはいってきてるんで、左から右へのサイドチェンジはやりたくてもできません。一方、右から左へのサイドチェンジも機能してなくて、右は前線が大渋滞おこしてて、まともなビルドアップ出来ない状態になってました。



前半19分40秒あたりの攻めとかもそうなんですけど、


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これもホントによくわからないんですけど、何であそこでパスが出てこないの?って感じで。「左でフリーな選手がいるけど、右に右にパスをだしていく」ってのが延々続いてるんです。しかもマークついてる右の選手にパスだしてしまう。




これ、前半24分あたりからマシにはなってきてます。左サイドをまともに使えるようになってくるんですけど、前半34分から、またおかしな事やりはじめて、


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こんなのとか


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こんなのです。右サイドで大渋滞ジャパン。 右サイドで香川本田岡崎がダンゴ三兄弟。



さらに極めつけなのが



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ここはホント意味がわからないんですけど、左でフリーの選手に出さずにマークついてる本田の足下にボール入れる理由を誰か説明してください。





ちと、ここらで前半の総括しときますけど、



1,この試合の前半の場合、シンガポールは完全なドン引き。前に出てこない。カウンターすらやる気がない。大差で負けなきゃいいってやり方。
2,日本の左サイドでは、宇佐美が張り気味。右サイドの本田は中央に入りっぱなし。
3、ボランチはシンガポール陣内で配球できるが、左サイドでマーク外してもボランチからボール出てこない。
4、一方でマークついてる本田の足下にはどんどんパスをだすボランチ。
5、しかし右サイドは本田が中央に入ってきて、その上香川+岡崎も来るので、大渋滞。



こんな感じですね。



これだけ書くと、ノーチャンスな試合みたいですけど、実際の所、前半から何度かチャンス作ってた訳で、前の選手のクォリティは高いんです。前半のチャンスのうち、どれか1本決めてれば、全く違う試合になっていた訳で、結果論ちゃ結果論です、この話。




日本対シンガポール、そして後半へ

こっからは後半の話になります。ハリルホジッチのインタビュー読む限り、後半からはハリルホジッチのインタから引用しますけど、





──前半45分をどう評価して、ハーフタイムではどのような指示を出したのか?(大住良之/フリーランス)



 ハーフタイムで選手に伝えたのは、中に攻めすぎているということだ。中から攻めるとフィニッシュが難しくなるし、ダイレクトには行けないだろうと。中を崩すならフリックとか、2〜3回のワンタッチを使うしかない。だから、できるだけ外からボールを入れてくれという話をした。特に斜めの、逆サイドへ出すボールを入れてほしかった。昨日の練習でも、逆サイドからセンタリングを入れる練習をしていた。後半、2人のFWを置いて、両サイドからセンタリングを入れて合わせようとした。良いポジションからヘディングシュートを打っていた。タクティクス(戦術)のアドバイスは正しかったと思う。



 ただし相手もわれわれの考えを理解して縦を塞いでいたので、逆サイドを使ったり、オーバーラップやワンツーにトライした。太田(宏介)には「今日は君の試合だ」と伝えた。彼の前にはブロックする選手がいたが、それでもしっかりセンタリングを供給してくれた。



ハリルホジッチ「非難するなら私」 W杯アジア予選 シンガポール戦後会見

「逆サイドへ出すボール」は前半の最初、本田のダイアゴナルランにあわせて、ボランチが出してたパスくらいです。サイドチェンジは機能してなかったので、前日練習で、どんな練習してたのか、個人的に非常に気になります。




さらについてない時はついてないモンで、後半9分に太田のクロスから岡崎のヘディング、これをGKにスーパーセーブされてしまいました。あれを防がれると、この日の試合はもう日本の日じゃない状態でした。



そして、後半11分から、またおかしな事やり始めるんですけど



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右サイドで大渋滞ジャパンアゲイン。いくらボランチが相手陣内で自由にボール捌けるといっても、前の選手が正しいポジショニングをしないと、ボランチは試合を動かせません。具体的に、両ワイドに選手がいて、ギャップを取る選手、裏へ走る選手。これがいないと、どんな良いボランチでも試合を動かせないんです。前の連中があんな事やってたら、ボランチは何も出来ません。



これでハリルホジッチが切れたのかどうかは知りませんけど、このすぐ後、後半15分から香川交代で大迫が入ります。大迫は入った直後から、足下じゃなくて裏でボールもらおうとして、裏への動きを頻繁にしてましたが、やっぱりボールはでてきませんでした。



大迫がはいった後は、中央偏重がやや無くなって、それなりにサイドからクロス入れてたんで良かったんですけど、後半25分、全く意味がわからない柴崎→原口という交代策。これはホントに意味がわからなかったです。会見読む限り、ドリブルでボール運んだり、ミドル打ったりして欲しかったみたいですけども。



基本的に、後半はあんまり書くことがありません。最後の15分くらいは、本田が中に入るのやめて、渋滞も解消されてたんですけど、左サイドのギャップにポジショニングした選手にボールが出ないってのは、最後まで変わりませんでした。サイドチェンジも大して機能せず。



この試合のまとめ的なもの

そろそろまとめに入ります。長文かいたので、もうヘロヘロです。



今回の試合なんですが、チャンスは沢山作ってたので、どれか一つ決めてれば、こんなエントリ書く必要なかった訳です。だから、このエントリは結果論的な部分があります。


ただし、「左サイドで効果的なビルドアップが出来ていない」ってのと、「右サイド高い位置での大渋滞」は結構深刻な問題なんで、そこだけは何とかしといて欲しいです。もっとも前者は、レフティの有望なボランチ、CBがいない為、そう簡単に片づく問題ではないですし、右サイドは、本田が中に入りたがる選手なんで、そう簡単に解消できるとは思えない部分が多いんですけどね。


2列目の三人、香川、宇佐美、本田が全員足下小僧だってのも、渋滞に拍車をかけてる部分があるんですが、こればっかりは、どうにもならん部分ではあります。



今回の試合なんですけど、シンガポールがやってきたような守り方は、今後もやってくるかどうかは不明です。ただ他のチームも、ドン引きして、対日本では、



「日本の右サイドに攻撃誘導して、本田の足下にパス入った所でサンドイッチ」



こんな感じで来るかもしれませんけどね。


これ以上は、疲れて書けそうにないので、まとめになってないですが、今日はこんな所で。ではでは。