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ザッケローニの343とバルサの343のお話

こんばんは。今週は代表ウィークで、明日はベトナム戦なんで、今日はザッケローニの343のお話でもしてみようかと思います。ついでに、バルサの343についても触れます。この二つは、色々あって、関係のあるお話なんで。

というわけで、まずはザックの343から始めようと思うんですが、ザックの343については、季刊「サッカー批評」の2010年48号にイタリア在住ジャーナリストの宮崎隆司の評価記事があって、そこに大体の事は書いてあるんで、ちょっと引用させて貰います。

ザックがミランで成功したときのサッカーのサッカーの特徴と、彼のサッカーの哲学とはどんなものでしょうか?

 当時、まだ若かったアッビアティを起用し、DFは右からサーラ、コスクルタ、マルディーニ、MFは右からヘルベク、アルベルティーニ、アンボロジーニ、グーリー、FWは右からレオナルド、ビアホフ、ウェアの343でした。それがシーズン半ば以降、3412に変更されると、トップ下にボバン、2トップがウェアとビアホフという形です。アルベルティーニはゲームメーカーとしての資質を兼ね備えていましたが、「質か量か」というところで「量」を求めた中盤でしたね。
 日本ではザック=攻撃的なサッカーと言われていますが、イタリアではそうは言われていません。それを裏付けるのが、ミランの中盤です。攻撃は前線の3人に任せて、中盤はひたすら相手の攻撃を潰すというサッカーでした。
 イタリアでは伝統的に4枚のDFでしたが、3枚にするというのは、当時としては新しかったですね。だからこそ、これだけザックの名前が一世を風靡したわけです。日本代表監督就任会見でザックのサッカーは攻撃的かと言われて「そうではない」と答えていましたよね。あくまでもバランスを重んじると。まさしくその通りだと思います。
 ザックの哲学は、ミランのサッカーでいえば両サイドのヘルベクとグーリー、サイドでの守りと攻撃です。それなくて成立サッカーではありません。彼の3バックにおける真ん中、コスタクルタがやっていたポジションは、システム上、リベロ的な資質が求められるわけです。一番分かりやすいのはバレージですが、そういうセンターバックが必要とされる。真ん中にはビアホフのような大型のFWがいて起点になると。極めてシンプルで典型的な343です。これこそが彼の哲学なのではないでしょうか。

ちなみに、Number plusの2010の10月号で、オシムのロングインタビューがあるんですが、

−イタリア人でありながら、攻撃指向の監督でもあります。
ビアホフアモローゾアッピアーらを起用して、最初はウディネーゼで成功した。ビアホフはミランにも連れて行った。ウディネーゼのようにプレーしようとしたら、ビアホフのようなタイプは必要不可欠だ」

−屈強な大型FWがトップで頑張る。
「前線で精力的に動き戦える選手、ビアホフドログバのような選手がトップにいなければ、ああいうスタイルで戦うのは難しい。ならば誰が日本のビアホフになるのか。たぶん今は隠れていて、見いだされるのを待っているのだろう」

あと、ついでにガスペリーニの343について、WSDの344号にマウリツィオ・ヴィシディのコラムがあったんで、その中から、ちょいと引用もしときます。ちょっとザックの343とは違うところもありますが、参考になるので。

 3トップは原則的にペナルティーエリアの幅でプレーする。ビルドアップから崩しのプロセスに移行する大きなきっかけとなるのが、CFによるポストプレー。敵のDFを背負って中盤から縦パスを受けると、それを敵2ライン間のスペースに入ってきたウィングの一方に落とす。もう片方のウィングと逆サイドのウィングバック、そしてポストプレーを終えたCFがタイミングを合わせて裏のスペースを狙う。これが典型的な崩しのパターンだ。
 ガスペリーニは次のように語っている。3トップのコンビネーションは2トップのそれよりも、教えるのがむしろ簡単なのだと。緻密なシンクロにズムを必要とせず、それぞれが単独で求められる動きをするだけで、ひとつの連動したコンビネーションが生まれるからだと。CFはポストプレーから裏を狙う動き、ウィングは2ライン間に入り込んでスルーパスを供給するプレーと、裏のスペースに走り込む動き。果たすべき仕事はどちらもシンプルだ。

(注 筆者によって本文にある括弧内の名前部分は省略されています。)


さて、ちょっと図を使って、ザックの343が442と対戦した場合のマッチアップの解説をさせて貰います。赤のチームが343です。


上記の図になりますが、3バックで2トップをみます。そして、相手の中盤4枚には、ウィングバックとセンターハーフの4人で対応。SBにはウィングが、CBにはCFが対応します。ザックの343での守備の特徴は、ウィングとCFの守備負担が非常に低い事ですね。自陣にまで戻って守備するタスクは、あんまありません。ハーフウェーラインあたりまで守備すれば良くて、その後は後ろ任せです。



で、攻撃時なんですが、こう変形します。



特徴的なのは、ボールを持ったときにワイドに開くCBで、ワイドにCBが広がる事で、サイドで数的優位を創り出します。サイドでの数的優位を利用してボールを運び、CBに楔のボールが入った時に一気に崩しのプロセスへと移行します。ガスペリーニはミリートを使い、ザックはビアホフを、日本代表では前田を使ってましたが、皆、ポストプレーが上手な選手達です。FWがポストプレー下手だと崩しのプロセスにいけないんですね。


さて、ザックの343やガスペリーニ343は中盤がフラットに並ぶので343フラットとも呼ばれるスタイルです。しかし、この対極のスタイルもあります。それがバルサの343です。クライフとレシャックによって考案された究極の442殺し。それがバルサの343です。


バルサの343。442殺しの343。

さて、バルサの343は中盤がダイアモンドに並ぶ事から、343ダイアモンドとも言われます。しかし、これだけじゃバルサの343の説明にはなりません。あれの核となる部分は、図での説明が一番わかりやすいので、図でやりますね。




ちょっと図に入れる数字を間違いました。これ、442vs343です。グアルディオラとクーマンだけ名前が入ってますが、彼らがバルサの343のキーマンだったからです。正確には、ドリームチームといわれた時代、クライフ監督時代のバルサですが。


ノーマルの状態だと、何が違うのか、よくわからないと思います。ですが、ポゼッション時に、こいつは変形し、こんな形になります。



矢印で書き入れましたが、まず、バルサがボールを持つと、センターフォワードが中盤に下がって来ます。そしてCHとCB二人がワイドに開きます。この状態で何が起こるのか?それが以下の図です。



はい、これです。それぞれのマッチアップを円で囲みましたが、グアルディオラとクーマンが、完全にフリーになってるのが分かるでしょうか?このポジションチェンジによって、バルサの343は、442に対して、中盤で数的有利を確保しています


バルサの343は、意図的にセンターフォワードを捨て去り、代わりにウィング二枚を残しています。ウィングがサイドにいるので、サイドバックは上がれません。一方、CBもバルサのCFを追いかけて、中盤には上がれません。もし、中盤に上がってしまうと、バルサのウィングに、空いたスペースを使われるからです。バルサは、この形を使って、相手の最終ラインで相手に2枚余らせます


サッカーはGKをのぞいて10人のフィールドプレーヤーがいます。そして、最終ラインで二枚余っている状態だと、他の所で手が足りなくなります。具体的には中盤と前線で数的不利に陥ります。裏を返すと、相手の最終ラインで二枚余らせる事に成功すれば、攻撃側は中盤と最終ラインで数的有利の状況を作れます。つまり、中盤と最終ラインでフリーなプレーヤーが一人ずついるって事です。


ドリームチーム時代のバルサでは、このフリーになるのがクーマンとグアルディオラ。この二人を使ってボールをポゼッションし、崩しに移行するのがバルサの343です。この形は442に非常に相性が良く、442側は、中盤から前でプレスでボールを奪うことは非常に難しくなります。何故って、数的不利だからです。数的不利でボールを奪いに言っても高い確率で失敗に終わるのは誰でも知ってることです。


ちなみに、バルサの433は、4411をメタしたものです。以下のような形で相手をハメこみます。



下がって来るメッシを利用して、中盤で数的有利を形成できてるのがわかると思います。基本的な仕組みは、343の時と同じですが、相手が1トップ1シャドーなので、CBは二人にして、相手のトップ下にあたる選手にアンカーを当ててます。そして、二人のウィングを使って、相手の最終ラインで2人余らせます。後は、下がって来るCFを使って、中盤での数的有利を形成します。目的は勿論、シャビをフリーにすることです。この形で、シャビをフリーにして、そこを起点にして攻めに出ます。CLのマンU戦だと、こんな感じでした。



あの試合、マンUは最初に激しいプレスでバルサのボール運びを寸断することに成功してたんですが、バルサが相手のマークとゾーンを確認し、メッシがギグスの前に降りてきて、シャビがそれに伴い、ブスケッツの横に降りてくると、マンUのプレスが意味を為さなくなりました。四角で囲んだエリアで、バルサのプレーヤーが四人、マンUは3人です。これでプレスをかけても、交わされるに決まってます。ここで起点を作る事に成功したバルサは、完全にゲームを支配し、マンUをまるで二流のチームのように蹴散らしました。


グアルディオラやシャビのように、繊細なゲームメーカーが、なんであんなにフリーでボールもてるのか、不思議に思う人もいるかと思いますが、それは、こういう形で、ゲームメーカーがフリーになれる仕組みをチームで作ってるからなんです。バルサはセンターフォワードを意図的に捨ててます。サッキのミランは、ファンタジスタとウィングを捨てることによって、プレッシングサッカーを作り上げましたが、クライフのバルサは、センターフォワードを捨てることによって、442殺しの343を作り上げることに成功したわけです。


この辺り、サッカーの世界にもトレードオフの関係が働いてるわけです。何かを得ようとしたら、何かを捨てないと行けない。サッキは、バッジョのようなファンタジスタとウィングを捨てた。クライフはトップ下とウィングを保存し、センターフォワードを切り捨てた。そして、独自のサッカーを作り上げた。そういうわけです。


ザックの343の問題点とピクシーによるレクチャー

さて、ザックの343なんですが、ある種の穴があります。実は、ちょっと前に行われた日本代表対Jリーグ選抜の時、ピクシーが、そこを突いてきてます。上手くいったわけじゃないですが、あの試合の後半、日本代表はちょっとした問題に突き当たってました。


あの試合、日本代表は343をテスト。一方、ピクシーは名古屋でも使ってる433で挑んで来ました。ザックに華を持たせるなら、442でやってあげればいいんですけど、ピクシーも嫌らしい。


さて、343の問題点は、433と対峙すると、あぶり出されます。



このマッチアップを見ていただければ、すぐにわかると思うんですが、中盤の底、アンカーのポジションの選手を見る奴がいないんです。433側は、ウィングを中盤あたりまで下げとけば、ザックの343は、最終ラインを4バックにしません。そのおかげで、相手の最終ラインでは、FW一人をCB3人で見る現象が引き起こされます。


その結果、何が起こるか?つまり、バルサと同じではめこまれるんです。433側はウィングが下がり目のポジションを取ることで中盤で数的優位を確保できる。


同じ事が、4231との対戦でも引き起こされます。



図に書き入れましたが、トップ下の香川を中盤に下がらせて、遠藤を中盤の底に降ろせば、遠藤がフリーでボールを持てるんですね。


チャリティーマッチで、俊輔がよいボールを捌いてましたけど、中盤で数的優位なんですから、そこを起点にすれば、色々出来ちゃうんですよ。あの試合、日本代表が前半は圧倒したし、後半はカズのゴールと、そういう問題がクローズアップされる要素をかき消すモンがあったんで、こいつが問題になることはなかったんですけど、この問題をどうするのか、それが試合の中では見えてきませんでした。


ある意味、ピクシーは、あの試合で、すでにザックの343の問題点を指摘してるんです。中盤のボランチにケンゴ、小野、俊輔と使って、あの場所で、彼らのうち、一人がフリーになっちゃうけど、ザックどうするんだい?って形でね。どの選手も、素晴らしい技術の持ち主で、ボールを持てば違いを作るパスが出せる選手ですから。中盤のフィルターとしてはアレですけどね。



正直な所ですが、日本代表の4231と、343が対戦したら、僕は4231が勝つ方に賭けます。理由は、トップ下を中盤に下がらせて、遠藤を底に降ろし、そこから遠藤にボールを捌かせれば、中盤を制圧できるからです。


ここで、343フラットは、どうすればいいか?

さて、この問題を解決する方法は、大まかにわけて二つ。CBを中盤にあげるか、CFを中盤まで下がってこさせて守備させるかです。


なんですけど、CBを上げる方法は、はっきり言ってお勧めできません。以下の動きで、サイドに大穴作られるからです。



これですね。赤で囲んだスペースが空いてしまうので、そこにCBからロングボール出されると、相当厳しいです。なんで、一番簡単なのは、CFに遠藤を見させる方法です。というか、それしかありません。CFが守備しない限り、この問題は解決しません。これは、バルサの433と4231が対戦した時も同じです。CFが中盤まで引いてきて守備しないと、バルサのレイプショー開幕です。


正直、ガスペリーニの343ですが、ミリートがちっとも守備しないので、どうしようもないという感じでした。最近は、中盤の底にゲームメーカー置いてるチームが多いんで、あそこでミリートがサボってると、守備崩壊一直線だろっていう。

で、ベトナム戦とタジキスタン戦なんですが

まぁ、相当格下ですし、普通に勝てると思うんですけど、ザックの343だと、上記の問題を解決しない限り、実戦投入は止めて欲しいんですよね。ハーフナーがいるし、攻撃面では上手くいくかもしれないけれど、守備面でどうしようもない問題がある布陣なんで。ハーフナーか李が中盤まで下がって守備してくれるならいいんですけど、そういうタイプでもないわけだし。


とまあ、色々と書いてきましたが、4231ばっかやってるのもマンネリなんで、343やるのはフレッシュな経験でいいとは思うわけです。見る側も新鮮ですし、相手が442なら、343は良いフォーメーションですしね。


ただ、相手が4411や、4231,433を使ってきたら、4231に戻してほしいなと。それだけです。相手の中盤の底に大した選手がいないなら、343でもいいんですけど、相手の中盤の底に、良いゲームメーカーがいるなら、4231でやるべきかと。