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2015年J1における戦術面でのメタの話~3421の大流行とその対策~

本日はタイトル通りのお話である。


つまり、現在、浦和、広島、湘南、松本、名古屋、神戸、清水、山形、甲府と9チームが3421で戦っており、J1では、今やマイナーシステムから、もっともメジャーなシステムになってしまった。半数のチームが採用しているので、3421は、珍しいシステムではなくなった。ちょっと前まではミシャ式くらいのものだったが、ポイチの広島の2連覇、昨年のJ2における湘南の無双、松本の躍進があって、3421はJリーグで大流行することになった。


なので、本日は、ちょっと戦術面から、ここ数年のJ1の流れを振り返りつつ、3421の流行の流れを追いたいと思う。




最初に3421の前にJリーグで流行っていた4231の話から


まずは、3421でなく、4231の話から入る事にする。理由は、ちょっと前まで、J1におけるトップメタは4231だったからだ。4231は現・日本代表のフォメでもあるけど、まず説明しておきたいのが、4231ってのは、442の派生だって事。



これは、この話をする際にとても大事な話なんだけど、4231は442の派生系のシステムであり、特に守備面でそれが顕著になる。簡単にいえば、4231をやってるチームは、守備では4411か442で守備をセットする。そのため、4231は442の派生と言われている。



442と4231の守備面の違いは何かって話になるんだけど、これも簡単にまとめてしまうと、



442の守備
押し込まれると前にFW二人残して、残り8枚でブロックを組む。セカンドトップは中盤まで下がって守備をやらない事が多いのでWGより中盤での守備が出来るSHが好まれる。WGを二枚使ってしまうと、中盤の守備が薄くなりすぎるため、使うとしても、どちらか片方のサイドに限られる事が多い。




4231の守備
押し込まれると前にFW一人残して、9人でブロック組む。トップ下が中盤に下がって守備をやる分、WGの守備負担は442と比較すると小さい為、両サイドにWGを起用する事が可能になる。




と、こうなる。基本的に守備良し、攻撃良しなWGを両サイドに持っていれば話は別なんだけど、そんな恵まれたチームはまず存在しない。



話を4231に戻すんだけど、このシステムは南アフリカW杯後、J1でも大流行した。というより、ほとんどのチームが4231になった。南アフリカW杯が4231ばっかりだった事を考えれば当然とも言えるが。



でもって、このシステムなんだけど、特徴として、442とやりあう場合、J1でしばしば見られたのが、


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この形でのポジションチェンジで、442のプレッシングをかわすって方法になる。ボランチを一枚最終ラインに落とし、3バックを形成することで相手の2トップのプレスを無効化する形。その上でトップ下をボランチの位置に落とし、WGを中に絞らせて、SBを高い位置に置く。実質的に、ここでフォメが3421になっているのがわかると思う。3421フォメは、442のプレッシングに対してミスマッチを引き起こすため、442のプレスへの対抗策として、非常に効果的なフォメだった。



この形が広まるにつれて、4231というのは一種完成されたシステムとなった。つまり守備では、「442のハイプレス」、「442でのハーフウェーラインからのオーソドックスなプレッシング」、「4411で自陣深くに守備ブロック」という三種類の守備方式を使えて、かつ442に対して3421に変形することで、相手のハイプレスを無効化できるという形だ。これは、現在でも採用するチームがあるほどに完成されている。攻守にバランスが取れているからだ。



これが2011~2013くらいのJ1の流れだったんだけど、Jリーグで4231が流行れば流行るほど、このシステムをメタしたフォメが台頭してくるのは、ある種、当然の展開だった。




4231の3バックポゼに対する回答。3トップ+2ボランチによるプレッシング


さて、ここまで4231の話をしてきた訳なんだけど、4231がJ1において成熟するにつれて、当然ながら、それをメタしたフォメが出てくることになる。



個人的に、このメタに先鞭をつけたのは、チョウ・キジェの湘南と反町の松本だと思っている。この二つは2012年から3421を採用して、前からアグレッシブにプレスをかけていくスタイルを採用していた。このシステムの肝なんだけど、図でやると



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こうなる。従来の442のハイプレスは、4231フォメに対しては有効ではないというのは、すでに述べた。2トップのプレッシングは3バックに変形されて交わされてしまうし、最終ラインに降りて行くボランチを自軍のボランチが追いかけてしまうと、今度は相手のトップ下がフリーになってしまう。


ところが、3トップ+2ボランチでプレッシングを行うとどうなるか?システムはミスマッチしていないので、相手のビルドアップ部隊は全員つかまえきる事ができる。勿論、最終ラインでの数的同数というリスクを犯すことにはなるが、この形であれば、442より効果的に4231に対してハイプレスが可能になる訳だ。



そして、3421に関していえば、同時期にポイチの広島が「ハーフウェーラインあたりから守備」と、「自陣深くでブロック作って守る守備」に関して、541ブロックで守る方法というのを、ほぼ完成させていた。



これによって、3421は、「3421でのハイプレス」、「541でのハーフウェーラインからのプレッシング」、「541で自陣深くに守備ブロック」の三つの守備方法が確立されることになった。これは2014年までに、ほぼ方法として確立された。



もともと、3421は442のプレッシングに対しては強く、システムのミスマッチを使ってボールを運ぶ事ができる。そこにハイプレスとハーフウェーラインからのプレッシングの方法論が整備された事で、ドン引きしないでも守れるようになった。つまり、カウンターを以前よりずっとしやすくなった訳だ。最終ラインを高く設定する事が可能になったから、人数かけた攻撃もしやすくなった。



これによって3421も又、完成されたフォーメーションとなった。3種類の守備方法の使い分け、ポゼッションとカウンターの使い分けが出来るようになった事で、現在の大流行へと至っている。




ただ、やっぱりというか、ここまでJ1が3421だらけになると、今度は3421をメタしたフォメが出始める訳だ。ここがサッカーの面白い所であり、対人競技の醍醐味でもある




3421をメタしたフォーメーションの試行錯誤


ここからが今回のエントリの肝になる。



僕個人は湘南サポをやっている訳なのだが、ここ何試合か、相手チームが湘南に対して、興味深い戦術を取ってきている。


今シーズン、湘南ベルマーレに対して、352をぶつけてきたチームが二つある。ナビスコでの反町の松本、そして先週末での大榎の清水なんかだ。まあ、試合自体は湘南がどっちも勝ったんだけど、戦術面では非常に興味深い試合だった。



すでに述べた話だけど、湘南というチームの3421でのハイプレスは3トップ+2ボランチで相手のビルドアップ部隊(CBとボランチ)を完全に捕まえきってしまうというのがベースになってる。ここで相手に時間を与えず、攻撃をどちらかのサイドに誘導し、そこで陣形をサイドにスライドさせて圧縮しボールを奪ってしまうってのが狙いになってくる。



これに対する対抗策として、反町の松本であったり、大榎の清水がやってきたのが、352の採用である。図でやると、



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こうなるのだけれど、3421で前プレをかけても、352相手にはあんまり意味がない。というのも、図の赤で囲ったアンカーがボールの避難所として機能してしまうからで、この為にハイプレスがハマらないんである。



反さんだったり、大榎さんの狙いは間違ってないと思うし、湘南の3421ハイプレスに対して、352でのミスマッチを狙うというのはいいアイデアだと思う。ただ、問題がなくなるわけじゃない。


以前、将棋の電脳戦において、

日本将棋連盟の谷川浩司会長は「プロ棋士も開発者も、短所を克服しようとすると新たな短所が生まれてくるのは同じことだと気付かされた」と対局を振り返っていました。



電王戦 49分でコンピューターが投了

こんな談話を日本将棋連盟の谷川浩司会長が残しているんだけど、これはサッカーにも言えて、短所を克服しようとすると、新たな短所が生まれてしまう。



反さんにしろ、大榎さんにしろ、352を採用したものの、それが湘南に対して有利に働く、というより、逆に352の短所がモロに出てしまい、試合に負けることになったのが印象的だった。




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これはナビスコでの松本との試合の動画なんだけど、典型的な352の欠点が出て、松本は失点してしまっている。図にすると


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こうなる。352はその性質上、中盤の3枚の脇、それからアンカーの両脇にスペースが生まれやすい。1点目は松本が一人少なかったからしょうがないとしても、湘南の2点目はまさに、そのスペースを山田が使うことで生まれており、典型的な352のやられ方の一つといえる。


この日、湘南は松本が人数そろっている所から2点を取っており、チョウさんがこないだの清水との試合後に述べていた事でもあるが、「ボールを持たされても苦にしなくなってきた」ってのがある。このあたりは、去年のJ2の終盤から湘南ってチームが取り組んできた事が実ってきた部分もある。「引っかけてカウンター」だけだと、J1では厳しいというのは2013年にイヤというほど味わったので。



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でもって、こっちは先週末に行われた清水戦の奴である。動画にはないけど、前半から湘南は清水とのシステムのミスマッチには苦労していて、相手のビルドアップ部隊にプレスをかけきれず、前半最初は押し込まれて苦しい時間帯を過ごすことになってしまった。なので前半最初は引いて守る湘南という形になってしまっていた。



ただ、システムがミスマッチしてるって事は、湘南は清水のハイプレスは簡単に交わせるって事でもある。なのに、清水さんときたら、やたらとラインを高くするもんだから、何がおきたかってーと、動画の1:19分からの流れである。パス一本で裏を取られることになった訳だ。システムがミスマッチしてるのにハイプレスってのは、あんまりオススメできない。パス一発で裏取られる危険性が高すぎるからだ。352は2トップでファーストプレスをかけるわけだが、そうなると3バックのチームにとっては簡単にかわせてしまう。



また1点目にしろ、2点目の直前にしろ、湘南は簡単に縦パスを入れる事ができていた。なんでかっていえば、システムがミスマッチしてて、湘南のビルドアップ隊は比較的簡単にプレスをいなせる状態だったからだ。その上、中盤3人のシステムなので中盤のギャップは取りやすい。3点目と4点目は、清水さんの選手の集中力が切れていたとしか言えないので、それはシステムとはあんまり関係ないんだけれど。



352はコンテのユーヴェの代名詞的なフォメなんだけど、松本さんにしろ、清水さんにしろ、あんまり上手く使えてるとは言い難い部分があった。まあ、そのおかげで湘南は勝てたんだけれど。(コンテのユーヴェはハーフウェーラインからのプレスが基本でハイプレスはあんましやんない)



実は、こないだ、神戸でネルシーニョもナビスコカップで352をテストしていた。神戸は今年から3421を採用してるんだけど、ナビスコでは352をテストしていた。狙いがJ1で大増殖しちまった3421対策の一環だと僕は思っている。



という感じで、J1では3421対策というのも本格化しているので、このフォメを使うメリットは、多分、あと2~3年くらいで無くなってくるんだろうな、と思う。今は試行錯誤が続いているので、それほどの脅威じゃないけど、だれかが一旦成功を収めれば、あとはそれを真似るだけでいいのは、最近の3421の流行みてればわかる。



3421メインのチームは、それまでにどんだけ勝てるか、という感じだろうと思う。



今日はこのあたりで。ではでは。