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書評「Jリーグ再建計画」とJリーグの経営の今について

本日は割と堅い話になるが、Jリーグのチームの経営については扱いたいと思う。


これについては、先日読了した、



Jリーグ再建計画 (日経プレミアシリーズ)

Jリーグ再建計画 (日経プレミアシリーズ)



の書評もかねて行いたいと思う。


実は、Jリーグの経営の話については、先日、


Jクラブ個別経営情報開示資料(平成26年度)


で、J1のクラブの経営情報が開示され、2014年のJクラブの経営状態が明らかになった。


結論からいっちまうと、幾つかのチームは色々ヤバイ。


「Jリーグ再建計画」について


まず、本の話からになるけど、先に紹介した「Jリーグ再建計画」については、サッカーライターの秋元大輔さんが、大東和美前チェアマン、村井満チェアマンなどといったJリーグの要人にインタビューして書かれた本となっている。内容としては、「何故2ステージ制を採用しなければならなかたのか?」という話や、「現在のJリーグの窮状」についての話などがメインになっている。


この本でも扱われているけれど、2ステージ制への移行をせねばならなかった理由として、「2014年からJリーグ本体に最大13億円の減収予測がたった」というものがある。これは主に放映権料の減額を提示された事が原因だったと言われる。この本にもあるが、もともとJリーグは地上波では視聴率が3~4%しか取れず、スカパーのJリーグ部門も赤字みたいなんで、放映権料ビジネスという点で、Jリーグは全く採算が取れない状態に陥っていた。


一方で、野球の夏の甲子園もそうだが、一発勝負のトーナメントはプロ野球の視聴率が全然取れない時代においても、相変わらず視聴率が良い。具体的には決勝になると視聴率が20%くらい取れる。


そして、これはサッカーもそうなんだが、高校サッカー選手権の決勝のほうがよっぽど数字が取れるというのが現状だったりする。去年、高校サッカー選手権決勝「富山第一×星稜」が、富山県内で瞬間最高視聴率62.6%を記録したそうだが、トーナメント形式の一発勝負を一般人は好むみたいな所があったりするのだ。


なので、Jリーグ上層部と、メディア関係者が「プレーオフやってほしい」と願うのも、しょうがない部分があると思っている。サッカーファンとしては、一発勝負のプレーオフでリーグ戦の王者を決めるなど、とてもじゃないが納得は出来ない。サッカーってのは運の要素が強いスポーツであり、一発勝負では、何が起きるかなんて予測がつかないからだ。リーグ戦38試合もやれば、かなり実力が順位に反映されるが、一発勝負のトーナメントってのは、実力が順位に反映されるとは言い難い。だから、僕も、プレーオフで年間王者を決めるというのは納得しがたい部分がある。だが、リーグ戦では優勝がかかった試合ですら視聴率が取れない以上、視聴率とれそうなプレーオフやらないと、ダメなんかなとは思う。(プレーオフですら視聴率とれなかったら、本格的にJリーグやばい)



さて、Jリーグ本体の年間予算は120億で、配分金はJ1は年間2億~2億5000万、J2は一億となっている。この本でも扱われているが、13億円の減収が生じた場合、減額幅はJ1の1クラブあたり4000万、J2の場合2000万と試算された。


この状態で、2014年のJリーグ経営情報開示と照らしあわせてみよう。


Jクラブ個別経営情報開示資料(平成26年度)


こちらになるが、明らかにヤバイクラブがある。プロサッカークラブは企業であり、当たり前だが、「借金返せないとデフォルトする」存在である。この観点からいうと、2014年の柏、横浜FC、福岡なんかは、ちょっと危ない。2013年に福岡の経営危機が表面化したけれど、2014年の財務状態を見る限り、福岡は流動資産(現金なんか)が1億3700万円にたいして、流動負債(一年以内に返さないといけない借金)が2億6800万円となっており、この状態で2000万円の減益が発生すると、資金ショート起こしかねない状態だった。福岡は依然として危機的な状態にある事は変わっていない。J2のクラブで、持ってる現金にたいして、短期の借金が大きいクラブってのが、去年の横浜FC、福岡なんかで、こーいうクラブは配分金減額されると資金ショートおこしかねない。J2は特に深刻なのだ。




ただ、J1でもやばいクラブってのはある。一番は柏さんで、光り輝く流動負債10億4100万円。一方で、流動資産は2億2900万円となっており、親会社から資金補填してもらわないとこれ無理じゃね?という状況にある。親会社がいなかったら、柏さんは2014年に選手とスタジアムを売り払わないと無理になってただろう。はっきり申し上げておくけれど、柏さんの財務状態は悪い。もの凄く悪い。入場料収入もグッズ収入も細い。そしてスタジアムは拡張が難しいので入場料収入を伸ばすのは難しい。さらに、チーム人件費が営業収入の6割をこえており、サッカークラブの適正水準と言われる5割を大きく上回っている。この赤字を広告収入という形で親に補填してもらってる格好だ。親が元気だからいいけれど、親が倒れたら、間違いなく柏さんトコは潰れる。そういう風に出来ている。




次に、やばいというか、もうどうやってやりくりしてんだかよくわからないのが神戸である。神戸も親がミッキーなんで、すぐにつぶれたりはしないのだが、毎年のように赤字をだす万年赤字クラブだった。ちなみに、神戸の数字の中で面白いのは、神戸が赤字をだすと、固定負債がその分増えるという構造である。ま、ミッキーだしね。ただ、クラブライセンス制度の問題で、2014年は流石に赤字をだす事は出来なくなった(3年連続赤字だとクラブライセンスがもらえない)。で、神戸は何したかっていうと、光り輝く特別利益22億5000万円計上である。これによって、神戸の固定負債は2013年の19億9100万円→2014年3億1800万円へと圧縮されたのでした。めでたしめでたし。親がミッキーじゃなかったら、ここもとっくの昔に死んでるクラブである。ミッキーについては、現場に口だすって事で嫌ってるサポもいるみたいだけれど、ミッキーいなかったら、とっくの昔にぶっつぶれているクラブなんで、まあ、大目にみてあげたほうがいいじゃないですかな、と。ミッキーがいなかったら2014年で神戸は潰れてましたyo。




もうひとつ、横浜FMについても扱っておく。「Jリーグ再建計画」では横浜FMの話に、かなりのページが割かれている。この本でのマリノスの嘉悦朗のインタビューはなかなか面白くて、僕は興味深く読ませて頂いた。なかなかのやり手だなあ、というのが僕の印象である。実際に、2010年に嘉悦さんが社長に就任してから、マリノスは入場者数を順調に伸ばしており、入場料収入も伸びている。これは、嘉悦社長が就任してから、地道に取り組んできた成果であり、評価できる。また、就任直後から、マリノスの改革のために、「マリノスは実は赤字です。親の補填をうけないと成り立たないクラブなんです。」って事を内外に公表したこともプラスだった。これによって、クラブ内部で「このままじゃダメなんだ」っていうコンセンサスが出来、改革のための意思統一ができたからだ。ただ、一方で、赤字体質の改善は上手くいっていない部分がある。マリノスは2010~2012までは赤字のままで、流動負債がどんどん膨らんでいった。2012年には、マリノスの流動負債は20億1700万円まで膨らんでおり、一方で流動資産は4億8000万円。ここも、いつ突然死してもおかしくない状況となってしまった。手持ちの現金4億に対して、一年以内に返さないといけない借金20億は多すぎる。フツーの中小企業なら資金ショートでぶっつぶれてもおかしくない。マリノスが2013年に10億の特別利益を計上したのは、クラブライセンス制度の問題もあるが、財務構造上、非常に悪い状態になっていたという背景があった。マリノスは2014年の広告収入が20億5900万円となっており、2013年度の15億1300万円より5億以上多くなっているのだけれど、これも親からの補填と見るのが無難だろう。嘉悦社長は、就任以降で、マリノスの営業収入を10億近く増やすことに成功したやり手だが、借金経営、そして親からの補填を受けての2014年の営業収入45億という形である。まあ、それを内外に隠すことなく発表してくれたおかげで、Jリーグのサッカークラブの実情ってが白日の目に晒されたのだけれど。



最後に湘南の話もしておこう。湘南ベルマーレというチームを「Jリーグ経営情報開示」で見ていくと、「ファッ!?」となる部分がある。どこが変かというと、アカデミー運営経費がゼロなのだ。なんで、アカデミー運営経費がゼロかっつーと、ここにはちょっとしたカラクリが存在していて、湘南は、アカデミーを本体から切り離しており、「NPO法人湘南ベルマーレスポーツクラブ」として運営しているんだ。なんでNPO法人にしてるかってーと、NPO法人なら、TOTOの助成を受けられるんだな。プロサッカークラブ直属のアカデミーだとTOTOの助成がおりないんだけれど、こうすればTOTOの助成がおりるって訳。そんな理由で、ベルマーレのアカデミー運営経費がゼロな訳さ。


Jリーグの理念、「脱企業スポーツ」


今回の話の〆としては、この話になるのだけれど、Jリーグは発足当時から、「脱企業スポーツ」を理念として掲げてきた。ただ、現実的には、Jリーグの創生期に参加したクラブの多くは親会社をもっていた「企業型スポーツクラブ」であり、「市民クラブ」ってのは、その後に参入していったクラブとなっている。



いわゆる親会社がバックについているチームはJ1に多く、親がいない市民クラブタイプは、大概J2ってのが現状だ。市民クラブの予算は5~10億がせいぜいで、J1を戦うような戦力を揃えることは出来ない。出来たとしても、毎年のようにふくれあがるチーム人件費という問題に直面することになる、つまり今のサガン鳥栖だ。鳥栖さんは、営業収入18億にたいして、チーム人件費11億となており、人件費が60%を超えてしまっている。サッカーにおける選手人件費の適正水準は50%以下とされているから、鳥栖さんは非常に危険なゲームをしている事になる。実際、ここ2年赤字なのだ。クラブライセンス制度の問題から、来年は赤字を出せない。



結局の所、市民クラブのままだと、J1で戦うのは難しいし、戦い続けるのはさらに難しい。現実的には、親がついてないと、という奴だ。脱企業スポーツというJリーグの理念は、達成されたのかというと、残念だが、強いクラブは親もってる企業型クラブである以上、理念と現実の間にギャップがあると言わざるをえない。



今回の話はJリーグのクラブ経営の難しさばかり強調してしまったが、期待がもてるクラブもある。「Jリーグ再生計画」の中でも触れられているが、川崎なんかは、割と期待がもてる。現状は入場料収入が細く、広告収入依存の典型的な親会社依存のクラブだけれど、等々力の改修が終わり、2020年までに3万5000人入るようになれば、川崎は浦和並に金のあるクラブになれるからだ。


ただ、やっぱり市民クラブは厳しい。ほとんとの市民クラブは良いスタジアムを持っていないので入場料収入には限界があり、広告収入は親がないので集めにくい。放映権料はTVでJ1ですら視聴率を取れないので頭打ちとなっており、ここから成り上がるのは非常に難しい状況なのだ。さらにクラブライセンス制度のせいで、赤字出せない状況なので、「身の丈経営」だとチームの強化なんてままならない状況となっている。



湘南の叫び「Jリーグが規制緩和しないと市民クラブはしんどい」



こないだ、湘南の社長が色々と言っているけれど、「脱企業スポーツ」というJリーグの理念は大事な事なんだけれど、現行のルールだと、親がついてるクラブが有利すぎるってのがあるし、何とかならんもんですかね、とは思う。結局の所、クラブライセンス制度がある限り、赤字だしても親が補填してくれるチームが有利になっていく一方だ。湘南サポとしての妬み嫉みが入っているけれど、赤字だしても親が補填してくれるクラブと、赤字だしたらそのままクラブライセンス取りあげられちゃうクラブ、どっちが強くなるかなんて明白じゃないですか。



この話になると、「チーム名に企業名いれてもいいですか?」という話になるので、難しいのは分かっているのだけれど、そろそろ、ちょっと考えてくれてもいいんじゃねぇかなと。


ま、今日はそんな話なんでしたとさ。