2018国際親善試合、日本代表対ウクライナ代表のレビュー「ハリルホジッチのサッカー」
さて皆様こんにちは。
大変お久しぶりですが、本日は先日行われた日本対ウクライナの試合のレビューをお届けします。
ここの所、サッカーのA代表は、全然勝ててないのでハリルホジッチに対する風当たりが強いです。なんで、あまり気乗りはしませんが、今回のエントリはハリルを擁護気味で書いてみることにしました。どうせ、俺が叩かないでもハリルホジッチは袋叩きにされるでしょうからね。この後、ガーナ、スイス、パラグアイとやってW杯本戦ですが、勝てる気しませんし、勝てなけりゃ袋だたきにされるのが代表監督の仕事です。
しかし、内容的に周回遅れ気味のエントリですし、今回の話はどうしたって、
こっちの記事の二番煎じになってしまうのですが。
今回の記事の内容的にはハリルサッカーの特徴です。主なポイントとしては
1,ハリルホジッチは中盤でボール動かす気がない。よく言えば縦に早いサッカー、悪く言えば中盤省略サッカー。
2,守備は中盤においてマンツーマン気味のゾーンを敷いている
の2本立てでお送りします。
試合のレビューの前にハリルホジッチのチーム作りの方向性について
さて、今回の試合の話に入る前にハリルホジッチが作っているチームの話から入ろうと思います。ハリルホジッチは就任以来、攻撃においては「縦に早く」、守備においては「デュエル」という言葉を頻繁に使ってきました。ハリルは非常に明快なコンセプトに基づいてチーム作りを進めており、試合を見ていればほぼコンセプト通りの攻撃、守備が行われているのが見て取れます。
現在の日本代表なんですけど、前回のブラジルW杯で「俺達のサッカー」で惨敗した事の反省があったせいなんでしょうが、本当に全く正反対のチームになってます。前回のチームは攻撃ではポゼッション、守備ではゾーンのチームでしたが、今回のチームは攻撃は速攻とロングボール、守備はマンツーマン気味のゾーンです。
本当に全く正反対のチームになっていて、試合見ながら「これ、韓国とかオージーがやるサッカーだよねえ・・・・」と思う事が多いです。
ここからは図を使って説明しますが、ハリルホジッチは攻撃において
このように相手が最終ラインまでプレスをかけてきたら、ロングボール蹴らせます。ショートパス繋いでプレスを外していくなんてシステムはチームに落とし込んでません。マリ戦で「中島のサイドに蹴れ」って何度もピッチサイドで叫んでたそうですが、あの試合、マリは最終ラインを高い位置に設定して前からプレスにきてました。相手が前からプレスかけてきたらロングボールで対応する。それがハリルホジッチの基本的なチーム作りです。
基本的にハリルホジッチは守備重視の監督です。前プレ喰らってショートカウンター食らう位ならロングボール蹴った方が良いと考えてる感じですし、カウンター食らわないように攻撃に人数もかけないタイプです。
ここ二試合で、代表選手から「もうちょっとボールもったほうがいいんじゃ~」みたいなコメント、「ゴール前の人数足りてないんじゃ~」みたいなコメントが散見されますけど、W杯は間違いなく守備的に戦う事になるので、ハリルは取り合ってくれないと思います。
さらにいえばハリルは中盤でボール動かす気がありません。
これも図を使って説明しますが、ハリルホジッチの基本的なビルドアップは「縦に早く」です。それを図を使って説明すると
こんな感じなります。基本的にパス回しは最終ラインの4人によるU字型のパス回し。ここで4人のうち一人がフリーで前向けたら、そこから前の4人の誰かに縦パスかサイドチェンジを入れて、一気に裏のスペースを攻略するというコンセプトです。縦パスが入ってからのバリエーションとしてはポストプレー、ワンツー、スルーを使ったコンビネーション、ドリブル突破などを主軸にしています。
このU字型のパス回しなんですが、ポゼッションサッカーのご本尊、現マンCのグアルディオラ監督が非常に嫌う形です。グアルディオラはU字型のパス回しを「無意味」と切り捨てるタイプです。グアルディオラは必ず中央のルートを使ってビルドアップします。つまり、ボランチがビルドアップに深く関わります。一方で、ハリル・サッカーではボランチはビルドアップに関わりません。
マリ戦では大島がそれなりに頑張ってましたが、大島がいなくなってからはボランチを経由したクリーンなビルドアップは殆ど見られませんでした。
ここまで、日本のビルドアップについて説明してきましたが、最初にハリルのサッカーを「ハリルホジッチは中盤でボール動かす気がない。よく言えば縦に早いサッカー、悪く言えば中盤省略サッカー」と定義した理由は、これでわかって頂けたかと思います。基本的にMFがビルドアップに関わらなくて良いサッカーなんです。「ボランチが下がってくることを監督は嫌う」って代表の誰だかが言ってましたが、ハリルのチームではボランチはビルドアップに関わらんでも良いのです。最終ラインから直で前線にボール入れて、そこから一気に裏を狙うビルドアップしかしませんからね。
んじゃあ、ボランチの仕事は何よ?って話になるんですが、ほぼ守備です。ロングボール入れた後にセカンドボール拾う事、最終ラインから前線にボールが入った後、ボールロストからカウンター食らわないように準備しておく事。ボール奪った後に素早く前線にボールつけた後に自身がバイタルエリアに走って行くこと。この3つが重要で、井手口、山口、長谷部、今野みたいなフィジカルバトルで戦える選手がハリルのお気に入りになってるのは当然の話なんです。そして柴崎、大島みたいなタイプが基本的に冷遇されちまうのも同じ理由です。香川や清武もそれほど大事じゃありません。あのサッカーだとね。中盤はボール狩りができてフィジカルバトルが強い選手が必要なサッカーなんです。
中盤では創造性やテクニックよりフィジカル。それがハリルホジッチのサッカーです。だからそういう選手が重用されてます。韓国やオージーが好みそうなサッカーなんですよね。もっとも最近のオージーや韓国はポゼッションに目覚めてますが、日本はフィジカルバトルサッカーに舵を切ってます。アハハー。
次に話を守備にうつしましょう。ハリルホジッチのサッカーは守備でも非常に特徴的なサッカーです。どういう事かと言いますと、「中盤の守備において人につく割合が非常に高い」サッカーやります。基本、中盤は一対一のサッカーでマッチアップの相手を明確に決めて守るタイプです。「デュエル!デュエル!」と連呼するのも当然です。マンツーマン気味に守るんだから。
このタイプの守備には良い所と悪い所があります。中盤をマンツーマン気味に守る以上、中盤で相手チームにスペースを与えてしまう事は避けられません。マンツーマンという守備方法は「相手チームのFWのポジショニングにDFのポジションが支配される」という構造上の欠点を抱えています。まあ、この辺りは実際の試合で何が起こったのか、それを振り返りながらチェックしてみましょう。
日本対ウクライナ、前半戦で起きた出来事
こっからは試合のレビューになります。前振りが長くなりましたので手短に。
まずスタメンですが
こうなってました。日本は杉本がCF、本田が右WG、ゴートクが右SB、CBのコンビは槇野と植田。植田は高さ対策でしょう。ゴートクはゴリのかわりでしたが・・・・まあ・・・
マリ戦との違いですが、マリがラインを高く上げてハイプレスにきたのとは違い、ウクライナは前から来ませんでした。日本のほうもハイプレスはそんなにしなかったので、双方のチームはボールを持てる試合でした。図にすると
こうなりますが、日本もウクライナもCBのどっちか一方はノープレッシャーでボール持てる試合でした。なのでボール保持は難しくない試合でした。双方共に。ただ、ウクライナと日本は全く違う攻撃を組み立てる事になります。
試合内容のほうなんですが、これ開始1分から動きました。
ここ、開始一分で裏取られました。アホかと思いましたが、この試合、日本の右サイドは守備に整合性が無く、マンツーマンなのかゾーンなのかよくわからない守備をくり返し、ゴートクと本田がユニットとして守れていませんでした。その結果がこの日の右サイドズタズタサッカーです。
さて、中盤マンツーマン気味って話をしましたが、それが顕著に出るのが、この後の前半3分のシーンです。
同じ日本の右サイドの攻防になってますが、このシーン、ゴートク、本田は共にマッチアップに張り付く守備をやってます。ウクライナのほうは、本田が左SBに食いついたので左WGが空いたスペースに降りてきてます。この動きにはゴートクがついてきてますが、空いたSBの裏にCFが走り込む動きを見せてます。人を基準にして守ると、どうしたってバイタルやSBの裏のスペースが空いてしまいます。このシーンはその典型例です。
そして、このマンツーマン気味の守備の欠点がモロに出たのが前半21分の最初の失点シーンなんですが、
これですね。動画みてもらえばわかりますけど、本田が自分の担当のゾーンから離れてウクライナのSBのほうに動いた結果として、あそこのスペースガラ空きになりました。そこからシュート喰らってゴール。そしてCBのマークにいったのは杉本でした。本来、あのゾーンは本田が守ってないといけないんです。ただ、ハリル方式だと「人を基準にして守る」サッカーなのでこういう状況が絶対生まれます。
つまりね、そういうチームだって事です。フットボリスタでレナート・バルディは日本の守備を「2CB+フリーマンの1アンカー、その他6人は1対1」って評してますが、僕も全く同意見です。ゾーンで守るのはCBとボランチ一人。あとは一対一で守ろうとしてんです。だからハリルは「デュエル!デュエル!」と連呼するんです。ただし、人に基準をおく守備をやる場合、この手のミスが頻繁に起こります。このシーンでいえば、CBがシュートを打ったスペース。あそこは頻繁にスペースガラ空きになります。そこを使って崩せるチーム相手だと問題を抱える事になります。この失点以降は本田も右サイドでスペースのケアやるようになってましたが、右サイドのザルっぷりは変わりませんでした。
ちなみに2失点目は守備のやり方云々でなく、単純にゴートクのやらかしです。あれはもう弁解の余地無くゴートクが悪い。この試合、ゴートクは軽く3回はやらかしをやってるので次呼ばれるかというと・・・・それは本人が一番わかってるでしょう・・・・
あともう一つ、前半31分、「これはひどい」と画面の前で頭抱えたシーンですが
これな。
マッチアップ気にしすぎて中央開けてCFに縦パスいれられたあげく、その後、簡単にターンされるとか割と救いようがないシーンでした。日本の右サイドは完全な穴、さらに中央使われて簡単にビルドアップされてしまうという二重苦。これで二失点で済んでよかったですよ、本当に。
守備の話はこれくらいにして、攻撃の話をしてみましょうか。ウクライナ戦。この試合で「うわあ・・・・」と思ったパス回しがあったんですが、それが前半27~8分のところ。
・・・・・もうね。
左SBから左WGに当てて詰まる→左CBにボールが戻って来る→左CBから右CBへ→右CBから右SBへ→右SBから右WGへ。
なんという完璧な各駅停車のU字型ビルドアップ。これ本当に日本のA代表なんですか?
流石に目眩がしました。こんな酷いビルドアップをA代表が見せちゃダメだろ。グアルディオラだったら切れてる。まあ、このシーンではハリルもピッチサイドで切れてましたがね。このビルドアップじゃ何も起きません。起きるわけありません。
恐ろしい事に、この試合ではこの形のビルドアップが何度かくり返されてました。各駅停車でDFがボール回していき、SBがWGに縦パス入れて、何も起きない。この連続。
この試合、TVの解説でも、この手のビルドアップには苦言が出てましたが、各駅停車のU字型のパス回しからSBがWGに縦にボールつけるのは本当に悪手です。ボール取ってくださいと言ってるようなモンです。
U字型の各駅停車パス回しダメ絶対
ちなみに、ウクライナはきちんと中央経由のビルドアップが出来てました。各駅停車でなく大きなサイドチェンジも上手でした。
一方で日本はサイド経由の各駅停車。攻撃面では差を見せつけられる結果になりましたとさ。
なんというか凄い否定的な意見を書いてしまいましたが、別にね、必ずボランチ経由をしろとはいいません。そういうサッカーする監督じゃないのはわかってます。ただDFによる各駅停車のU字型パスだけはマジでやめろ。DFから直接前3枚にあてて、そこから突破かコンビネーションで崩すサッカーだというなら、それはそれで良いのです。ただし、サイドチェンジ混ぜろ。各駅停車のU字型パス回しやめれ。あれはポゼッションでも速攻でもない。言いたいのはそれだけです。
まあ、前半39分、左サイドの攻めで原口が前向いてFK取ったパス回しは良かったです。そこから柴崎のFKで同点にできましたね。
しかし、その後の43分、44分と立て続けに右サイド破られたときはどうしようかと思いましたよ。ゴートクのやらかしと本田の守備が化学反応を起こしており、本番前に本田、ゴートクの並びはNGだとわかったことだけが収穫です。絶望的に守備が酷い。前半だけで4回は右サイドで裏取られてます。
日本対ウクライナ、後半戦で起きた事
さて後半の話にいきましょうか。
前半でウクライナのほうは日本の守り方がわかってきてます。日本も大分、ウクライナの攻撃方法がわかってきてました。後半はそんなチーム同士の対戦になりました。
前半47分のウクライナのパス回しとか日本の守備の欠点をついた上手いやり方です。
なかなか良いパス回しですよね。サイドへの展開から、中央の選手の動きで日本のボランチを最終ラインに吸収させ、空いたバイタルのスペースを利用。見事なビルドアップです。
一方で日本としては人に基準をおく守備やってるんだから、どうしたってあーなります。ただ、人に基準をおいてる分、メリットもあります。このシーンの場合、サイドチェンジされてもゾーンほど大火傷にはなりません。人についてる守備ですからね。ここの場面でも本田が相手SBについてたので大火傷せずに済みました。
ある意味じゃ、ウクライナはサイドチェンジに拘りすぎた部分があります。人につく守備やってるチームにはサイドチェンジはゾーン相手ほど有効ではないです。
そして、後半開始から10分くらいまではウクライナペースで進んだんですが、後半10分の時、日本は珍しく良い攻撃みせました。ゴートクから中央への斜めのパス。このパスでスルーを使ったコンビネーションから逆サイドにはたいて長友のクロス。これは良い組み立てでしたね。こういうの増やしてくれたら良いんですけどね。
さて、後半60分あたりから、本当に日本代表の守備が「嗚呼、人につく守備だ・・・」という状況になってきます。どういう事かというと、
わあ・・・・バイタルガラガラなり・・・・・・・・・・
なんでこんな状況が生まれるかっていうと、人につく守備やってるからです。どーやってもバイタル使われる守備方法です。具体的には
1、サイドに展開した後にオフザボールの動きで日本のボランチを最終ラインに吸収させ
2、空いたバイタルにカットイン、もしくはバイタルに入ってきた選手にパス
3、バイタルからのコンビネーション、ミドルシュート、サイドへの展開からのクロスでフィニッシュ
という展開にもちこまれやすくなります。
このままバイタルスカスカになっていたので中央割られそうだなーと思ってた所だったんですが、後半68分。ゴートクのやらかし発生から日本は失点。バイタルスカスカで失点でなく、DFのやらかしで失点。
まあこれがサッカーですよね。組織の構造上の問題よりDFのやらかしのほうが失点に結びつく可能性が高いスポーツです。
一点ビハインドとなった日本は、ここから攻めの形を変えます。中島が投入された後の83分あたりから日本は攻撃の形を変化させて、
この日、初めてといっていい形ですが、長友を高い位置に張り出させてWGを中に絞らせてます。これによって中央の人口密度があがりました。ウクライナは中央3名、一方で日本は中央4名。こうなった事で日本は数的有利を活かして中央を経由してビルドアップできるようになります。ここから、日本は中央使えるようなり、サイド経由の各駅停車サッカーが終わります。
その結果として、中央経由のビルドアップが機能しはじめました。これの恩恵を最大に受けたのが途中出場の中島です。前半のサッカーだったら中島は空気だったでしょうけど、このサッカーなら水を得た魚みたいなモンです。
ここから日本は終了まで怒濤の攻めを見せます。ウクライナにカウンターを浴びることはありましたが、中央の数的有利を活かして日本はゴールの臭いがする攻撃が出来てました。追いつけませんでしたけどね。
最後の10分くらいは良い攻撃できてました。ただ、ハリルホジッチがこの手のサッカーやるのはリードされて追いつかないといけない最後の10~15分くらいのもんだと思われます。そうでない限り、あのサッカーをやるでしょう。理由はというと、なんだかんだで、あのサッカーは点取られにくいからです。
日本対ウクライナ総評
では、まとめに入ります。
見返してみたら、ハリルのフォローどころか、全然フォローになってないエントリ書いてしまいました。大草原不可避。特に中央経由しないU字型のパス回しについては厳しい事書きましたが、利点もあるんです。ハリルのサッカーだと、ボールを失った後、ショートカウンター食らう危険性は非常に低いです。最終ラインから前3枚にボールつけた瞬間が一番ボール奪われやすいのですが、そこでボール失ってもボランチ2名とDF4名で即座に守備に移れるんですね。これは結構なメリットです。
ま、自分としては、あのサッカーでW杯戦って良いと思います。ザックがW杯で戦ったスタイルとは真逆といっていいスタイルですが、実験としては悪くありません。日本がフィジカルを前面に押し出すスタイルのサッカーでどこまで戦えるのか、一発やってみるのも悪くないです。
ハリルのサッカーと相性悪い選手は諦めましょう。長友なんかは攻め上がってこその選手なんですが、ハリルサッカーは左右のSBにビルドアップを求めている為、低い位置に留まらざるを得ません。だから長友はあんまり良さでてません。香川とか柴崎みたいなタイプも中盤で居場所を見つけにくいです。中央はパス回しよりフィジカルバトルが優先されるサッカーですしね。岡崎みたいにボール収めるのが苦手なFWはCFでは使いずらいし、WGは最低でも単独突破ができる選手じゃないとダメです。
そういうハリル流「俺のサッカー」に合う選手がW杯にいけるでしょうし、合ってない選手は落選になるでしょう。
俺達のサッカーが終わってハリルのサッカーになりましたが、戦術レベルで柔軟性のあるサッカーではなく、割とガッチガチの逆コンセプトのサッカーでしたとさ。
こういうサッカーでW杯戦ってみるのも良いと思いますよ。どうなるか見てみようじゃないですか。前回はポゼッションでダメだった訳だし。
ではでは。