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2022年カタールW杯決勝、アルゼンチン対フランスのレビュー 「サッカー史上最高の試合の一つ」

はい、こんにちは、私です。


カタールW杯はアルゼンチンの優勝で終わりました。御覧になった方は知っているとは思いますが、あまりに、あまりに素晴らしい試合でした。自分が見たサッカーの試合ではベスト3に入ります。試合前のストーリー、試合内容、監督の采配、試合後のアルゼンチンの熱狂、それら全てが素晴らしい、本当に素晴らしい試合でした。


あまりに素晴らしい試合だったので、備忘録もかねて試合のレビューを残しておこうと思いました。未だにあの試合の余韻が抜けてません。それほどの試合でした。


一生のうちに、数試合しか見れないであろう、そんなスポーツ史上に残る試合であったと思います。


試合前のストーリー、メッシの旅の終わりとムバッペ伝説の始まり


先にこの試合の前のストーリーの話から始めたいと思います。


カタールW杯はサッカー界を長い事牽引し続けた二人のスーパースター、そして今後長らくサッカー界を牽引するであろうスーパースターが出場した大会です。


一人の名前はリオネル・メッシ。いわずと知れたサッカー界のスーパースターであり、サッカー界の主要タイトルの全てを取った選手でした。たった一つ、W杯を除いて。過去4大会に出場していますが、いずれの大会でも失意と涙と共にピッチを去っています。皮肉な話ですが、サッカーの世界においてはW杯とはフットボーラーの目指す究極のタイトルであり、ベストの選手であることを証明する為にはW杯を取らなければなりません。それゆえにメッシは史上最高の選手ではない、そういう言説がしばしば聞かれていました。メッシは彼の背中を見て育った若手選手たちと共に最後のW杯に挑む。



そのリオネル・メッシの最大のライバルの名前はクリスティアーノ・ロナウド。メッシと双璧を為すサッカー界のスーパースター。彼も又、W杯優勝を目指し続けた男でした。しかし、今大会は彼にとって残酷な結果になりました。今大会で躍進したモロッコに敗れ、ポルトガルはベスト8で姿を消しました。しかし、彼にも又後継者がいるのです。彼に憧れ、彼から多くを学び、そして彼のような選手になりたいと願った1人の少年が成長し、世界最高の選手となり、彼がこれからのサッカー界を背負っていくからです。


その名前こそ、フランスのキリアン・ムバッペ。クリスティアーノ・ロナウドのポスターを部屋にベタベタと張り付けていた少年の名前が世界に轟いたのは2018年ロシアW杯でした。わずか19歳にしてメッシのアルゼンチンをベスト16で打ち倒し、フランス優勝の原動力になりました。類まれなスピードと、そのサッカーセンスは4年間でさらに成長し、今大会においては、間違いなく世界最高の選手といってふさわしい次元に達していました。



カタールW杯決勝はメッシが「これが最後のW杯になる」と公言して臨んだ大会です。


メッシは悲願のW杯を手にし、自身の旅の終わりに史上最高の選手である事を証明出来るのか。


ムバッペが二度目のW杯を獲得し、史上最高の選手への旅の始まりとなるのか。



カタールW杯決勝は、新旧二人のサッカー界の英雄がぶつかった試合として、長く語り継がれる試合になる事でしょう。もはや二度とは見られない、夢のカードが実現したのです。




フランス代表とアルゼンチン代表のサッカーについて


さて、試合の話になる前にフランス代表とアルゼンチン代表のサッカーについて触れておこうと思います。


この二チームはフォーメーションや攻撃方法、守備方法の違いはあれど、「一人の王様と10人の僕」といっていいチームになっています。王様は守備をしません。その代わりにエネルギーの全てを攻撃に使います。そして、残りの10人が献身的に攻守でそれを支えるチームとなっています。



この手の王様チームは、守備戦術に縛りが出ます。一人守備しない王様がいる為、そのスペースをどう埋めるか、それが問題となります。



この試合の基本フォメは



こういう形です。アルゼンチンは433,フランスは4231。しかし、守備時になると、


フランスは




こういう形に変化し、


一方のアルゼンチンは




こういう形に変化します。



ムバッペの後ろはラビオがカバーし、メッシの後ろはデパウルがカバーします。これは大会通じて双方のチームの変わらない形であり、監督がこの二人を守備をしない王様のカバーを任せるセンチネルとして絶大な信頼を寄せていることがわかります。



王様サッカーの欠点は、守備をしない王様のカバーをどうするのか、そこにつきます。王様は高い位置を取り続けてこその王様です。だから王様のカバーをする強力なガードが必要になります。それがアルゼンチンではデパウル、フランスではラビオになるわけです。


また攻撃においてもいかに王様に良い形でボールをつけるか、それがチーム構成上の最大の問題になります。


アルゼンチンの場合、メッシが最も力を発揮できるのはPA近く、中央でプレーした場合です。その為、幅を取るWG、深さを作るCFを配置する必要があり、スカローニ監督はメッシを最大限に活かす為の選手を集めています。さらにカウンターはメッシにボールが入った時に後ろの選手がメッシを追い越していく形を取っており、速攻にしろ遅攻にしろ、メッシに強く依存するチームです。メッシがあまり関与しないのは、相手が高い位置でコンパクトな守備ブロックを敷いている時です。この場合はメッシでなくサイドチェンジからのサイドアタックや裏へのフィードでCFを走らせ、相手のラインを下げる攻撃を行います。


一方のフランスはムバッペに良い形でボールをつけるためにレフティが多いチームを作っています。ジルー、デンベレグリーズマン、ラビオ、Tエルナンデスレフティであり、ジルーの左足のポストプレー、左サイドの底からの縦パス、右サイドから左サイドへのサイドチェンジ、全てレフティの得意技であり、ムバッペに良い形でボールをつけられる選手たちが集められています。デシャンがどれだけムバッペを評価しているのかがよくわかるスタメンです。



双方のチームが王様を活かす為に設計されています。全ては一人の王様の為に。


今大会の決勝はそういうチーム同士の対戦でした。


アルゼンチン対フランス、前半戦

まずは動画へのリンクから。


https://abema.tv/live-event/70c9ebf7-61c2-4ff2-9b13-f6478e58cb3a




いつものabemaTVの奴です。基本的にこの動画内の時間軸で話を進めます。



この試合の前半戦は一方的な試合になりました。前半戦、フランスはシュートを一本も打てず、アルゼンチンに一方的に押し込まれる事になります。



一体、何故、そういう事が起きたのか?それは前の項目で述べたフランスの守備方法と関係があります。



今大会、多くのチームはメッシをPA近くでプレーさせない為に、自陣内で最終ラインを高めに保ちつつコンパクトな守備ブロックを敷いてメッシをPA近くでプレーさせないという守備方法を取っていました。そういった相手とどう戦うかというのが今大会のアルゼンチン代表の攻撃面における課題と言えました。そういった相手に対して、最終ラインを引かせる為の両サイドに張り出したWGからのサイドアタック、深さを作るCFというチョイスであるのは前述しました。


しかし、フランスはそういった守備方法を苦手とするチームだったりします。ムバッペが守備をろくにしないのでどうしてもムバッペの裏にスペースが生じてしまうタイプのチームなんです。前述した通り、その裏のスペースはラビオがカバーするチームな訳なんですが、そのスライドには若干の時間がかかります。アルゼンチンはそこを狙いました。



この試合の前半のアルゼンチンのゲームプランなんですが、簡単に言えば、ムバッペの裏のスペースを使い、フランスの守備ブロックを右サイドに寄せてから、左サイドのディマリアへ展開というものです。左サイドのディマリアはレフティですから、左サイドの高い位置ならまずボールは失いません。そこを起点にアルゼンチンはひたすらフランスを押し込みました。


こうなると困るのはフランスなんです。右サイドを集中的に狙われると、良い形でカウンターに結びつけるのは困難なのです。なぜなら最もムバッペから遠いサイドだから。


一方で、ムバッペがいないサイドを攻撃するわけですから、アルゼンチンはSBを遠慮なく攻撃参加させられます。ボール失ってもSBが上がったスペースをムバッペに使われて爆速カウンター喰らう危険性がないですからね。結果として、ムバッペは前半は試合からほぼ消えてました。



この試合、ラビオのカバーが上手くいかなかった理由がもう一つあって、要はメッシです。メッシがラビオの裏をふらふらしてて、そこが気になってラビオがムバッペの裏のカバーに強く出られないのです。その結果、ムバッペの裏に入ってくるアルゼンチンのボランチを捕まえきれず、そこから逆サイドのディマリアへ展開される。



フランスが一失点目を喫したシーンはまさにそれでした。



これ、前半20:39からのアルゼンチンの攻撃シーンなんですが、エムバペがCBにプレスに出るんですが、この時、同時にフランスのボランチが前に出てアルゼンチンのボランチ捕まえるか、ジルーがボランチ捕まえてないと守備が間延びするだけなんです。しかし、フランスのラビオはSBとCBの間にいるメッシを気にしてるのか前でれてないんですね。


そして、この後はフリーになったボランチに出されて、そこからアルゼンチンは前に当ててサイドのディマリアに展開。ディマリアはドリブルを始め、デンベレがそのディマリアを倒してしまい、アルゼンチンはPKを獲得。


このシーンは単純にデンベレのやらかしです。ディマリアがPK貰いにいったのは明らかなんですが「ぶち抜かれた後にPA内で手と足を出す」ってのは絶対やってはいけないプレーです。PK取られるに決まってます、あんなの。フランスは中に人数いたわけですから、あそこで手と足出す必要性はゼロなんです。でもデンベレはやっちまったんです。この後、デシャンデンベレは懲罰交代させられるんですけど、その他のプレーも酷かったのでしょうがないですね。



この試合、攻撃時にはムバッペの裏に必ずアルゼンチンのボランチかメッシが入り込む試合でした。そこを使われてディマリアに展開。そんな攻撃をフランスは受け続けました。


しかし、この試合のアルゼンチンの二点目はカウンターでした。


前半35分からアルゼンチンのカウンターなんですが、これは「王様のいるサイドを攻めるのはカウンターが怖い」という典型例です。王様のいるサイドでボールを失うと止められないカウンターを喰らうことがあるんです。フランスはここでアルゼンチンの右サイドを攻撃していたのですが、雑なフィードをカットされてメッシにボールが入った所からアルゼンチンのカウンターがスタート。メッシのポストプレーからアルバレス、マクアリスター、ディマリアという綺麗なワンタッチパスが繋がり、最後はディマリアがワンバウンドさせてGKの上を超すというシュートを決めてアルゼンチンは二点目。



王様のいるサイドは守備が弱い、だからそこを狙ったら良い。それは全くその通りなんですが、ボールを失ったときが怖いのです。これは教科書みたいな素晴らしいカウンターでしたが、多くのチームがアルゼンチンの右サイドを攻めるのを躊躇う理由でもあります。ボールロスト時、メッシ経由のカウンターが怖いのですよ。アルゼンチンのカウンターの起点はメッシですからね。


皮肉な話ですが、これをアルゼンチンも後半にやってしまうのですがね。でもそれはまだ先の話。



さて、ここで決定的といえる二点目を奪われたデシャンですが、最早我慢できないと見たのか、ジルーとデンベレを前半41分で二枚替えにでます。代わりに入ったのがコロムアニとテュラム。ムバッペをワントップに動かし、両サイドにきちんと守備ができる選手を投入。これでムバッペの裏のスペースは消えましたから、アルゼンチンは前半ずっとやってた攻撃が出来なくなり、フランスはペースを取り戻すことになります。



しかし、この時にすでに2点ビハインド。デンベレとジルーがいないと右サイドから左サイドへのサイドチェンジや、ジルーのポストプレーが無くなるので、ムバッペが上手く使えず、フランスは攻撃面で厳しくなります。見てた時は、「デシャン、どうやって点取る気なんだろう?」と思ってみてました。


フランスは前半戦でシュート0本。全くといっていいほどフランスの良い所がでてない前半でした。ここまで一方的な展開になるとは思ってませんでした。フランスのほうが若干強いかなあと思っていたので。


勿論、アルゼンチンのゲームプランは見事でした。ムバッペの裏を使い、そこからディマリアへ展開し、フランスを押し込む。これは攻守両面で機能しました。ムバッペのカウンターを喰らう事なく試合を一方的に有利に進めれましたから。


アルゼンチン対フランス、後半戦


フランスにとって非常に難しい試合になってしまった前半戦でした。アルゼンチンの右サイドを直接攻撃するのはカウンターのリスクが高い。ですんで比較的守備が緩いアルゼンチンの左サイドを攻撃し、そこから右サイドのムバッペへサイドチェンジを入れたい所なんですが、そこでの頼みの綱といっていいグリーズマンはアルゼンチンの執拗なマークに苦しんでおり、上手くいかない。もう一つの攻撃手段であるデンベレはベンチに。



こうなるとカウンター狙いをしたいのですが、すでにアルゼンチンは二点リードを持っているし、左サイドのディマリアを集中的に使って攻めてくる。ムバッペを左サイドに置いておくとカウンターは難しい。だからムバッペを中央に移してカウンターで使いやすくする。デシャンの采配は理に適ったものですが、問題は二点ビハインドって所です。カウンター狙いで二点取るのは中々に難しい。



デシャンが何かしないといけない。交代カード使って試合を動かさないと難しい。二枚替えで守備は安定しましたが、ジルーとデンベレがいないチームってのは攻撃面では難しい状況です。違いを作れるのはムバッペしかいない。しかしアルゼンチンはムバッペにボールが行かないようにゲームを進めてんです。



多分、多くの人はこう思うでしょう。「ムバッペをベンチにして守備できる奴いれるだけでいいんじゃね?二枚替え必要なくね?」とかね。


しかし、デシャンはそれをしなかった。ジルーでもなくデンベレでもなくグリーズマンでもなく、前半消えてたムバッペを選んだ。その理由を我々は後半に知る事になるのです。


ちなみに恐ろしい話ですが、フランスは後半20分すぎまでシュート0本に抑え込まれました。前半の二枚替えは守備の安定のためのものですから、それはしょうがないんですけどね。


この試合の転機の一つとなったのはアルゼンチンがディマリアを下げてアクーニャを投入した所からです。これはアルゼンチンのスカローニ監督がよくやる奴なのですが、スカローニ監督はリードをしていると基本的にこの時間帯からは守備固めに入ります。2点リードしててフランスはシュート0本。それなら後は守備固めして逃げ切る。当たり前のゲームプランでした。



だがしかし。


この交代を待っていたのがデシャンでした。よく我慢したと思います。ディマリアがいなくなったのを見て一旦エムバペを左サイドに戻して様子見。そこから更に二枚の交代カードを切ります。Tエルナンデスに代えてカマヴィンガ、グリーズマンに代えてコマン。攻撃時のシステムを424に変更。中盤が機能しない試合のため、中盤を飛ばして前線にボールをつけるシステムに切り替えました。肉弾戦ですね、これは。




そして、この時間帯、アルゼンチンはちょっとしたミスが出ます。それまではフランスの右サイドを中心に攻めていたのですが、この時間帯からフランスの左サイドを攻めるようになったんです。ディマリアを下げてアクーニャにしたせいでしょうが、これはね、やめたほうがいいんですよ。エムバペ経由のカウンター喰らう可能性があるから。



そして、それが起きちまったのが、後半33分です。アルゼンチンはフランスの左サイドを攻撃してたのですが、そこでのボールロストからエムバペにボールが入ってしまい、フランスのカウンターが発動。コロムアニが抜け出した所をオタメンディが手をかけてしまい、それでフランスはPKを獲得。これをムバッペが決めてスコアは2-1に。



「王様のいるサイドを攻撃するとカウンターが怖い」、まさにこれが起きた瞬間でした。守備固めでいれたアクーニャでしたが、それが原因でアルゼンチンがフランスの左サイドを攻撃するようになり、結果としてエムバペ経由のカウンターを喰らったとすると、かなり皮肉な結果だったと言わざるをえません。他にもミスがあるのですが、最大の原因はムバッペから遠いサイドを攻撃しなかった所だと思います。



そして、悪い事は重なるもんで、後半35:39。フランスの攻撃でボールがこぼれた所に前からメッシが戻ってきてアルゼンチンにボールが移ります。こうなるとアルゼンチンは攻撃のスイッチが入るので、一斉にアタッカーが前に向かって走り出し、メッシのパスコースを作ります。ところが、その時にコマンが守備に戻ってきてメッシからボールを奪う事に成功するんです。


これによってアルゼンチンのカウンターに対するフランスのカウンターが発動することになりました。そしてコマンからラビオにボールが渡り、ラビオはそこからサイドを変えてムバッペへ。フランス相手に一番警戒しないといけない右サイドから左サイドへのサイドチェンジというのをアルゼンチンは許す形になってしまいます。右から左へのサイドチェンジというのはフランスの形であり、ムバッペはテュラムとのワンツーで抜け出して、最後はスーパーボレーでゴール。これでスコアは2-2に。



ここまで殆どシュート打ててなかったフランスだったんですが、ほんの3分の間にアルゼンチンから二点を奪い、試合を振り出しに戻したわけです。なんというドラマ、なんという試合。



これこそが、ジルーでもなく、デンベレでもなく、グリーズマンでもなく、デシャンがムバッペをフランスの王に選んだ理由です。たった一人で試合を振り出しに戻すフランスの真の王。これができる選手だからこそ、あそこまでデシャンに特別扱いされているのです。



アルゼンチン対フランス、延長戦前半


こうして試合は振り出しに戻りました。デシャンの交代は機能し、デシャンが選んだ王は試合を振り出しに戻した。しかし、デシャンはその為に4枚のカードを切ることになりました。もう交代カードは切れません。一方でスカローニは交代カードを1枚しか切っておらず、ここからアルゼンチンのターンが始まります。サッカーって、時々ターン制バトルのように見える事があります。




スカローニが延長前半最初に行ったのがSBの変更です。モリーナからモンティエルへ。これはムバッペにワンツーで抜け出されたのを見ての変更でしょう。あそこでついていけないようだとフレッシュな選手に変えたほうが良いですからね。



そしてもう一つ、アルゼンチンは延長前半から攻撃時のフォーメーションを3421に変更。






こういう形で攻撃する形に変更してます。綺麗に3421出来てますよね。



これを見て延長前半6分、デシャンボランチをラビオからフォファナに変更してます。


これ、それぞれにどういう意図があるのかって話なんですが、アルゼンチンのほうは明確です。




これです。アルゼンチンは中盤中央で数的有利を作れるんです。これに対しては「テュラムとムバッペがアルゼンチンのボランチ見れば良くね?」とか思うでしょ?そこで再びムバッペ問題が出るんです。ムバッペは守備適当だからアルゼンチンの中盤中央での有利は揺るがない。そのため、延長前半、アルゼンチンは中盤中央の数的有利を活かして左サイドへ展開という、フランスが一番やられたくない攻撃が再び可能になったんです。


だからデシャンはラビオに変えてフレッシュなフォファナ入れざるを得なくなったんです。ムバッペの分まで守備してくれるフレッシュなボランチが必要だったんです。


そしてそれを見てから延長前半12分、スカローニは疲れが隠せなくなっていたデパウルに変えてパレデス、アルバレスに変えてラウタロマルチネスを投入。ここ、パレデスがアンカーに入ったのが肝でして、アンカーが最終ラインに下がって3バックポゼになるので、ここにはフランスがプレスに来ないのです。





狙いとしてはこうですね。そして、延長前半13分、この采配がすぐ当たってデパウルから縦パス入れてアルゼンチンはシュートまで持ち込んでます。



このあたりの時間帯は仕掛けるスカローニ、守るデシャンという形ですね。この試合の隠れた見所の一つに両監督の采配がありました。


ここからはずっとアルゼンチンのターンで、延長前半終了までの間に3本シュート打つのですが、どれも入らず。スカローニの采配は上手くいっていたのですが、結果が伴わずという形でした。ここで点取れないと、延長戦のハーフタイムでデシャンに対策されてしまうので良くない奴なんですが、残念なことにアルゼンチンは勝ち越せないまま、延長前半は終わります。



アルゼンチン対フランス、延長戦後半


さてアルゼンチンペースで延長前半は終了したわけですが、デシャンが何もせずに後半に入るわけもなくという奴です。デシャンという監督、守備に関しては修正がクッソ速いんですよ。


延長戦後半開始直後、フランスは高い位置からプレスに行き、アルゼンチンの433が3421に変形する前にボールを奪うという守備を試みます。自陣に押し込まれて3421に変形されてしまうとアルゼンチンに中盤制圧されてやられるってのは延長前半でわかっていたので、そういう形にしたのでしょう。


ところが、これ、裏目にでちまいます。


高い位置からプレスに行くという事は裏のスペースをアルゼンチンに提供するという事であり、アルゼンチンは裏へのフィードに攻撃を切り替えます。このあたりの判断の速さはアルゼンチンの攻撃が優れている理由です。このチームはものすごく頭が良いのです。相手の最終ラインの高さによって攻撃方法を変えられるチームなんです。これができるチーム、実はそんなに多くありません。



延長後半1:32にはフランスは裏へのフィードでラウタロ・マルティネスの抜け出しを許してしまいます。これはロリスが出てくれたので助かりましたが、延長後半2:47、フランスの最終ラインが高いのを見てアルゼンチンは再び裏へのフィードを試みます。これがラウタロ・マルティネス→メッシ→Eフェルナンデス→ラウタロ・マルティネスと繋がって、ラウタロ・マルティネスの打ったシュートをメッシが押し込んでアルゼンチンは再び勝ち越しに成功。



デシャンが前から行く守備に切り替えたのは気持ちはわかります。痛いほどわかります。延長前半の凹られ具合を見たら、守備のやり方変えるしかないと思うのは当然です。でもあの時間帯で前プレは無理がありすぎました。しかも前プレの起点はムバッペですよ・・・・無理ですがな・・・・


これで試合は決まった、そう思いました。見ていた時はね。


ただ、フランスというチームは監督の采配が外れたとしても、ムバッペが息をしている限りは死なないチームなんです。


延長後半10:32、フランスのCK。ファーサイドテュラムに出されたボールをムバッペが拾い、そこからミドルシュート。これをアルゼンチンのモンティエルがハンドしてしまい、フランスはPKを獲得。これをムバッペが決め、再び試合は振り出しに。ムバッペはW杯決勝でハットトリック、得点王がこれで確定ですよ、狂ってる。


しかもこの後、両チームがプレスかかってないのにラインを高くして守るもんですから、しょうもない裏へのフィード合戦になり、決定機が量産される事態が発生。


延長後半のATにはフランスがGKとの一対一作りましたがEマルティネスのスーパーセーブ、その後にはラウタロ・マルティネスが決定機までいったものの、両チームともにゴールは奪えず、最後はPK戦に。





アルゼンチン対フランス、PK戦


PKの話をするのは好きじゃありません。自分は運ゲーだと思ってます。


単純に確率の話をしましょう。PKの成功率80%のチームと、PKの成功率50%のチームがPK戦したとします。どっちが勝つと思います?


確率でいいましょうか。PK成功率50%のチームが勝つ確率が20%程度はあります。


要するにどんだけPK練習頑張ろうと運ゲーなんですよ。5回勝負じゃ運の要素がでかすぎる。


これが10回だと50%のチームが勝てる可能性はぐっと減り、100回ならばほぼ0です。


PKから運ゲー要素をなくしたいなら100回は蹴るゲームに変更するべきですね。


だからPK戦なんて戦術語るほどのモンじゃないんです。


この試合、あの時、あの場所で、アルゼンチンがPKで勝ったのは、メッシにちょっとだけ、ほんのちょっとだけサッカーの神様が優しかったから。


それだけで良いと思います。



メッシの旅の終わりをこの目で見られた。それだけで俺は十分幸せです。


最後に、これからのサッカーの新時代について


このカタールW杯はムバッペとメッシという、史上最高の選手同士が死闘を繰り広げた大会として、長く語り継がれるであろう大会となりました。


史上最高の選手、そう呼ばれる選手は多くはありません。ディ・ステファノベッケンバウアー、クライフ、ペレ、マラドーナ。そして今、そこにメッシが加わりました。やがてはムバッペもそこに加わるでしょう。これらの選手が直接戦った試合として有名なのはベッケンバウアーとクライフが戦った西ドイツ大会決勝ですが、今回の決勝はそれに匹敵するか、それを上回る試合だったんじゃないでしょうか。ま、自分はその試合を見たことはないんですがね。


メッシの旅は終わり、クリスティアーノ・ロナウドの夢も終わりを告げた大会でした。


それは寂しいものですが、すでに時代に選ばれた次世代のスターが出現しています。一人は今回の主役であったフランスのムバッペ。もう一人はノルウェーのハーランド。


クリスティアーノ・ロナウド、彼はW杯を取れなかった事で史上最高と呼ばれることはもうないのかもしれません。ただ、彼に憧れ、彼を手本にした選手たちは沢山います。ムバッペもハーランドも彼を自らの手本と呼び、彼のおかげでプロ選手になれたとまでいうほどです。その功績は誰も彼から奪えないものなのです。


ムバッペもハーランドもこれからのサッカー界を引っ張っていくスーパースターとなる選手です。この二人のプレーは一見の価値があります。とんでもないプレーをする選手たちなので、是非見てください。きっとファンになると思います。



ではでは。