サッカーのマッチレポートなどを中心に。その他サッカーのうんちく系ブログ。

2015年 東アジアカップ 日本対北朝鮮のレビュー

さてみなさん、こんにちは。久々の更新になりますが、本日は先日行われた2015東アジアカップ、日本対北朝鮮のレビューでもしようと思います。内容は、レビューというより単なる愚痴に近いですけれど、暑い上に男女ともに逆転負けを食らって、どうもイライラしてるんで、その辺りはお察しください。





ハリルホジッチとフランス・サッカー


今回の話、レビューと題うってますけど、実際のところ、レビューする内容はそんなありません。てのも、今回の試合は、代表として練習できたのは一日のみだったんで、たいした事は出来ないだろうな、とやる前から思っていたからです。


今回のスタメンなんですけど、


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こうなってました。日本はいつもの4231。ただし、ダブルボランチは山口と谷口というコンビになってまして、いわゆる「中盤でボール動かす気がない」ダブルボランチです。二人とも守備のほうに特徴がある選手です。それなりにボール裁ける選手ですけどもね、二人とも。



ここで、ハリルホジッチとフランス・サッカーの話になるんですが、僕は、ハリルホジッチのサッカーをよく知らなかったので、就任当初は「東欧系、旧ユーゴなサッカーやる人なんかな?」と思ってたんです。ところが、試合を何試合か見るにつれて、「旧ユーゴじゃなくて、ガッチガチのフランスサッカー系だ」という結論に達しました。



どういうことかってーと、これね、アンチェロッティが、


アンチェロッティの完全戦術論

アンチェロッティの完全戦術論



この本の中で、PSGの監督やってた時の話をしてるんですけど、そこでフランス・サッカーについて、


ピッチ上で展開されているサッカーに関していえば、ペースが速いフィジカルなスタイルが特徴だ。採用されるシステムはバリエーションに富んでるが、カウンターアタックへの志向が強いという共通点がある

という形で簡潔にまとめてます。ハリルホジッチ監督については、就任以降、しばしば「速攻の重要性」と「フィジカル」について触れてるんですけど、「ペースが速いフィジカルなスタイル」と「カウンターアタックへの志向の強さ」ってのは、ハリルホジッチのサッカーの特徴なんです。つまり、ハリルホジッチさん、フランスサッカーの人であり、旧ユーゴ系のサッカーって訳じゃなかったんですね。


ペースが速いフィジカルなスタイル」ってのは、よーするにボール奪ったら素早く前に当てる。そこでボールがこぼれたらセカンドボールの拾い合い、つまり肉弾戦をするって事です。セカンドボールの拾い合いは、体のぶつけ合いですからね。



そこでなんですが、今年、フランスサッカー界から日本サッカー界に入ってきた人が二人います。つまり、日本代表監督ハリルホジッチ、そしてもう一人が、横浜Fマリノス監督、エリック・モンバエルツさんです。この二人、知り合いで、かつては師弟関係だったみたいです。ハリルホジッチに関しては、旧ユーゴの人ですけれど、サッカーのキャリアのかなりの部分をフランスで過ごしており、選手としても監督としてフランスでタイトルをいくつか取っています。


この二人、今現在、とっても難しい立場に置かれてます。ハリルホジッチはアジア相手に勝てておらず、モンバエルツさんもJ1で勝ててません。もともと、J1にはフランス人監督、フランス人選手は少なく、フランスサッカーは馴染みが薄いサッカーであり、彼らの印象がそのままフランス・サッカーの印象になってしまう状態なんです。ちょっと大げさにいえば、彼らはフランスサッカーを代表する立場といってもいい。ところが、彼らは、現在の所、勝ててない訳で、このままだと「フランスサッカーは日本人には向いてない」って流れが出来ちまうんです。


ちとJ1の話をすると、J1で結果を出している外人選手・外人監督ってのは、圧倒的にブラジル系で、それに次ぐのが旧ユーゴ、ドイツ位の順番になってます。今の所、「日本人とは相性悪い」と言われてる最右翼がオランダサッカーでして、こいつは近年、日本でオランダ式サッカーやった監督が次々と撃沈されてしまったのが原因になってます。正直、オランダサッカーが悪いというより、連れてきた監督が悪かった気がせんでもないのですが、サッカーというのは非情な結果の世界。浦和の旧ペトロビッチ監督のやらかしのせいで、オランダサッカーはJリーグから駆逐されたも同然の状態になってしまいました。とにかくオランダ式433は評判が地に墜ちました。



話をフランスサッカーに戻しますけど、モンバエルツさんにしろ、ハリルホジッチさんにしろ、この二人が失敗しちまうと、日本におけるフランスサッカーの威信が地に落ちることになるので、後進の為にも、頑張って結果だしてくださいとしか言えません。ちょっとモンバエルツさんの話をしますが、この方、現在三門をトップ下にして前プレタイプのサッカーしたいみたいんですが、あんまり上手くいってません。フォメみる限り、三門トップ下にして守備時は442のハイプレスタイプのチーム作りたいみたいんですが、あのチームで一番良い攻撃の選手は俊介とアデミウソンなんで、「それなんか違わないか?」感がすごいんです。


実は、今回のハリルホジッチのチームみてて、西川君にひたすら川又めがけて放り込ませたり、川又にポストプレーを散々やらせたり、宇佐美にオフザボールの動きが少ないと言って雷落としたりと、「それちょっと違うだろ・・・」感が凄く、フランスサッカーってそーゆーモンなのかね・・・と思う次第であります。



あんま書くことなんですけど、試合内容について

こっからは試合内容について簡単にレビューでまとめておきます。繰り返しますが、今回は試合前に練習できたの一日だけなんで、多くは求められません。


今回の試合ですけど、ハリルホジッチはやり方そのものはいじってません。攻撃は4231、守備は442、もしくは4411です。


攻撃に関しては、西川君から川又への放り込み、川又のポストプレー、引いてくるWGにボール当てて相手のSBを引っ張り出し、そのスペースにトップ下orSBが突撃ってのが多かったです。最後のは図にすると、


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こーいう奴です。これはハリルホジッチが就任してからずーっとやってる攻撃です。逆にいうと、速攻とこれら位しか現状、攻め手がないというのもあるんですが、ハリルホジッチはチームつくりの時間を十分に与えてもらってない状態なので、攻め手が少ないのはしょうがない部分があります。モンバエルツさんは、もうちょいバリエーションがある攻撃やってるので、時間をあげれば、もうちょい攻撃のパターンは増えると思います。(そう信じたい)


ちと動画はっておきますが、



ハイライト 日本代表VS北朝鮮 東アジアカップ2015 Japan North Korea Goals ...



先制点の流れは、北朝鮮のパスミスを日本が拾って、右の遠藤に展開、遠藤のアーリークロスから武藤(寿司)がゴール。これは綺麗な得点でした。


動画にある前半23分の攻撃はハリルホジッチになってから、よくやってる攻撃で、モリゲの縦パスを引いてきた永井がフリックして武藤、川又とつないでフィニッシュって流れでした。



日本代表なんですが、ハリルホジッチになってから、そんなに中盤ではボール動かさなくなってます。でっかいサイドチェンジ使って攻撃したのは前半19分くらいだったはずです。基本、縦にさっさとボールつけてしまうことが多く、サイドチェンジ多様する試合は今までなかったはずです。



こっからは、ちょっと戦術うんちくな話になるんですが、いわゆるサッカーにおける「速攻」の話をします。


ハリルホジッチになってから、日本代表のサッカーは「速攻」を強く打ち出すようになってます。この「速攻」に関しては、現在日本代表が守備時に採用しているフォーメーション、つまり442なんですが、442は速攻に関して、構造的な欠陥を抱えているフォメです。


ここで「えっ!?442って速攻の代名詞じゃないの?」と思う人がいるかもしれませんが、ちょっと違うんです。


これについては、先に紹介した「アンチェロッティの完全戦術論」でアンチェロッティが説明してるので、それを引用しますが、


一般論として言えば、442は現在もなお、守備に関しては最良のシステムであると私は考えている。それは、サイドと中央の両方をバランスよくカバーすることが出来るからだ。実際私自身、「クリスマスツリー」をはじめとする他のシステムにおいても守備の局面にはこのシステムを採用することが少なくない。10人のフィールドプレーヤーを3つのラインに配置するこの布陣は、陣形をコンパクトに保ちやすく、したがって敵陣においてもバランスを崩さず相手に効果的なプレッシャーをかけることを可能にする。



他方、3ラインによって布陣が構成されているという事実は、攻撃に転じた時には多少の避けがたい問題をもたらす。前線のフォワードに直接ボールを送り込むか、そうでなければサイドバックとサイドハーフの縦の関係を利用し、サイドのスペースを使って攻撃を組み立てなければならない。これは横パスを多様せざるを得ないことも意味している。もちろん、例えば、サイドハーフが敵の2ライン(中盤とディフェンス)間に入り込んだり、フォワードが手前に引くなど、選手の動きによってパスコースを作り出すことは可能だ。しかしそれを機能させるためには動きとパスのタイミングをぴったりと合わせる必要が出てくる。

黒字強調は僕のモノですが、442ってフォメは3ラインで構成されるため、ボールを奪った直後のパスコースが非常にに少ないという欠点を持っています。4411もそうですが、そのために、ボールを奪った後、FWにボールを放り込むか、サイドに横パスだしてSBとSHの縦関係でボールを運ぶかの二択になりがちです。後者はどうしても横パスが多くなるため、速攻には不向きなんです。もちろん、選手の動きによってパスコースを作ることは可能なんですが、そのためには組織的なシンクロニズムを磨かないといけなくなります。つまり、結構時間がかかるんです。チームとしてのポゼッションの強化に時間がかかるのは有名ですけど、442の速攻にかんしては、結構、習熟に時間がかかったりするんです。上手くいってない442ってのは、ボールを奪った後に横パスがやたらと多くなります。(無論、ハイプレスでDFかボランチからボールを奪えれば話は別ですよ)



今回の試合の話に戻しますが、速攻の際、「ボール奪ったけど前に川又一人しかいない」って状況が多く、しかも川又はボールキープとかポストプレーで天下取った選手じゃないんで、速攻が上手くいかない状態でした。ハリルホジッチは、後半途中から433に布陣を変えてボール奪った後のパスコース増やそうとしてた節がありますが、後半は北朝鮮に放り込まれて、ラインがずるずる下がり、左右のWGも低い位置まで押し込まれてたんで、あんまり意味がありませんでした。


442、もしくは4411みたいな布陣から速攻に転じる場合、横パスを使わずに縦パスのみで速攻しようとすると、FWのキープ力、ポストプレーに強く依存し、または、組織的なシンクロニズムを必要とするので、一朝一夕で出来るもんじゃないって話です。だから、時間を与える必要はあります。




今回の話のまとめになりますが


今回の話は、きちんとしたレビューというより、サッカーうんちくばっかりになってしまいました。すいません。



今回の北朝鮮戦に関しては、暑くてイライラしてたところに、なでしこの敗戦、男子の敗戦と続いたので、イライラが爆発してしまい、twitterのほうではハリルホジッチをかなりクソミソに言ってしまいました。ただ、冷静になってみれば、結構同情すべき点も多いし、なんだかんだで、シュート数、枠内シュート数は多かったので、時間をあげれば、きっちりチームを作ってくれるかな、とは思っております。僕は基本的に代表監督寄りのスタンスでブログ書いておりますので、代表監督の仕事を貶すつもりはそんなにないのです。



ただ、選手の起用法については、ちょっと文句があって、川又を本物のポストプレーヤーとして使うのはやめといたほうが良いです。川又は日本一のポストプレーヤーじゃありません。それと宇佐美についてなんですけど、「オフザボールの動きが悪い」って雷落としたみたいですが、宇佐美をサイドで使って「オフザボールの動きが悪い」って文句をいうのは、根本的に宇佐美を理解してません。宇佐美ってプレーヤーなんですが、基本的にスタミナに不安のある選手で、サイドを上下動できないタイプなんです。



これはドイツで原口なんかもぶち当たった壁なんですけど、彼の最近のインタから引用しますが

ヘルタは守ってカウンターというサッカーなので、サイドの選手は守備の際、サイドバックの位置まで下がるんですよ。そこまでいって(味方が)ボールを奪うと、今度は爆発的なスピードを駆使して50~60m走って前に出て行くんですが、ゴール前で受けたときには、もうフィニッシュのパワーが残っていない。相当きつくて、これで活躍するのは大変だなって思いました



原口元気、ドイツでの苦悩「こんなに自信を失ったのは人生初」

宇佐美、これが出来ないんですわ。「守備のときにはSBの位置まで下がって守備やって、攻撃になったら50メートル走ってゴール前に入る」、これだけのことなんですけど、ドイツ系の監督は、しばしばサイドの選手にこれを求めます。ハリルホジッチのサッカー見てても、サイドの選手は相手のSBが上がってきたら追っかけないとダメなんで、これが出来ないといけない。特に4231の時はそうです。



宇佐美はこれが出来ないんです。というか、宇佐美がサイドで使われているときは、宇佐美抑えるのはある意味じゃ簡単でしてね。対面のSBガンガンあがって、宇佐美の位置を下げてしまえばいい。宇佐美は守備やってからフルパワーで攻撃に移れないから、これやってれば宇佐美は全然怖くなくなる。それに走りっこに持ち込めば、後半ちょっとで宇佐美はガス欠です。健太さんが、宇佐美をサイドじゃなくて中央にコンバートしたは正解だと思いますよ。宇佐美自身「僕はサイドアタッカーじゃなかった」って話をしてますが、宇佐美は現代のサイドアタッカーには向いてないんです。中央で使うべき選手で、サイドで上下動させたら、良さがでません。そもそも、中央で使っても運動量が少ないので、試合終盤にはガス欠起こすことが多く、ガンバの試合終盤の得点の少なさの原因になってしまっている位なんですからね。




宇佐美の話はコレくらいにして、ハリルホジッチに話を戻しますが、ここまでの試合みる限り、ハリルホジッチはホントに速攻系のサッカーの人です。ハイテンポでフィジカルなサッカーを志向してるようです。これ自体は何も問題はありませんし、サッカーには正解なんてありません。基本的にサッカー文化というのは、「隣の芝は青い」の世界でして、イングランドは負けると「技術がない」と嘆き、ブラジルは負けると「守備が弱い」と嘆き、日本が負けると「決定力がない」と嘆き、そして違うサッカー文化の世界に憧れるもんなんです。


ただし、負けた監督が「フィジカルガー」とか「日本の育成ガー」とかいうのは問題外なんです。


今回、試合後のハリルホジッチのコメント読んで脱力し、イライラマックスになってしまったのはそのせいもあるんです。ちょっと前に、鹿島のセレーゾ監督(こないだ松本に負けて解任された)が、ACLで負けたときに


「現日本代表監督のハリルホジッチ監督は率直に感じたことを述べたと思うが、日本人選手はコンタクト(接触)を避ける、嫌がる。(ハリルホジッチ監督が)勇気を持って言っただけで、それはずっと前から分かっていた事実。18歳の高校生、22歳の大学生が入団してきたとき、大半の選手がヘディングの技術、空中戦で競り合うテクニックを身に付けていない」


 こうした現状の背景として、日本と海外の間の文化の違いを挙げた。「他の国では貧富の差があり、1日を生きる、生き延びるためには自分で頭を働かせないといけない。水がなかったり、食べ物がなかったり、それはだれかにもらえるわけではなく、自分でどうするかを考えないといけない」。ブラジル人監督はそう持論を展開し、サッカーに話を移す。


「(ブラジルでは)7歳から10歳ですでに競争の世界に身を置いている。同じ街のチームには負けてはいけない。勝つか、負けるか。そこにどういう意味があり、重みがあり、責任があるのか。それを小さいときから分かっている人と、プロになってから分かる人とでは大きく異なる」


 球際の競り合いや1対1の勝負。勝利にこだわる執着心。「日本には争いをしないという文化、習慣があり、話し合いで解決するという素晴らしい文化がある」と、日本の文化を尊重したうえで、「だが、それは極端に言えば、素手でケンカをしないということ。接触することも嫌がる。日本人選手の大半はヘディングが大嫌いではないか。競り合いになると、できるだけ自分だけは競らないようにしている」と指摘した。


日本人選手の“弱さ”嘆く鹿島セレーゾ監督「接触を嫌がる」


こんなコメント出して、僕を猛烈に脱力させてくれたことがありました。



言ってることはもっともでございますよ。ええ、もっともでございます。



ただね。



アジアで勝てない監督がこんなこと言っても何も説得力がないんですよ。




というか、負けた監督が何いっても負け犬の遠吠えなんですわ、サッカーの世界では。結果が全てですから。



それに鹿島が負けたら原因は日本の育成、勝ったら自分の功績にするようじゃ、下の人間ついてこないでしょう。セレーゾさんは、松本に負けて解任されましたが、J1ですらろくに守れないチームなのに、鹿島の守備の酷さを日本の育成、文化のせいにされてもね。




ハリルホジッチさん、今回の試合の後、「日本の危機だ」とか言って会長に直談判してたみたいですが、負けた原因を「日本の育成のせいだ」とか言いはじめて、その後、解任されちまった監督がつい最近、一人でてますので、そういうのは止めといたほうが無難でござると、僕は申し上げておきます。



ぶっちゃけ、モンバエルツさんも最近J1でかててねーし、ハリルホジッチさんもアジアで勝てないようだと、フランスサッカーってダメなんじゃねぇの?って声が先に出ますわマジに。



今日はこのあたりで。ではでは。

2015ロシアワールドカップ二次予選、日本対シンガポールのレビュー

はい皆さん、こんにちは。本日は最高にストレスがたまる試合だった先日の日本対シンガポールの試合のレビューでもしようかと思います。久々のマッチレポートになりますね。試合自体は0-0のドローでした。シンガポールのFIFAランキングは154位ですから、大番狂わせといっていい出来事でございます。



実は一つ前のイラク戦もマッチレビューしようかと思ってたんですが、書くことがホントに何もない試合だったのでスルーしてました。ただ、今回の試合のおかげで、ちょっと書くことはできました。比較的な事をすると色々とありますので、ちょっと触れときます。




日本対シンガポール、スタメンとフォメ、シンガポールの守備のやり方の話

まず、スタメンとフォメ張っときます。シンガポールの選手は誰もよく知らないので、フォメだけにしときます。


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こうなってました。日本代表はいつもの4231、対するシンガポールは4141です。このマッチアップはわかりやすく噛み合うので、誰が誰を見るのかってのがはっきりしてます。


ただ、この試合なんですけど、一つ前のイラク戦の時と、相手の守り方がちょいと違ってました。イラクは4411なんだか、4141なんだかよくわからない守り方してましたけど、




www.youtube.com



動画張っておくので軽く説明しときますが、イラクはボランチが香川と長谷部、柴崎を捕まえに結構前まで出てくるんですね。だからイラク戦では、相手のボランチを簡単に動かせたので、そこで開いたバイタルのスペースをアタッカーが使うことが簡単にできてました。それから、イラク戦だと、岡崎にぽんぽん楔が入ってましたけど、香川のオフザボールとボランチのポジショニングで簡単に中央へのパスコースを作ることが出来ていたので、トップに楔入れるのがすごく簡単な試合だったんです。



ところが、シンガポール戦の場合、



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こうなってたんですけど、イラク戦の場合、ボランチが一人、必ず香川を捕まえてました。なので、香川が動くと、ボランチも移動するので、中央にスペースつくるのは割と簡単だったんですわ。ところが、この試合の場合、アンカーが香川をマンツーマン気味では捕まえてないんです。中央のスペース潰して岡崎への楔が入らないように守ってました。アンカーは中央からあまり動かないんで岡崎に楔入れるのは難しい試合でした。


もういっちょやっときますけど、


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こーなんですけどね。これらのシーン、どれもそうなんですけど、シンガポール陣内で長谷部と柴崎が、簡単に前向いてボール持ててるんです。湘南ベルマーレの話を突然挟みますけど、湘南の選手がこーいう守り方したら、チョウさんはガチ切れします。「相手のボランチを自由にするな!!」ってガチギレです。ところが、この試合だと、シンガポールは日本のボランチを自由にプレーさせてまして、これだと、どんどん押し込まれます。


シンガポールなんですけど、「前に一人しか残してない」、「日本のボランチがハーフウェーラインでボール持って前向いても、そこでは食いつかない」という守り方してたので、基本的にカウンター出来ません。というのも、日本のボランチはシンガポール陣内で前向いて、ほとんどプレッシャー受けずにボール捌いてる状態なんで、DFラインはどんどん下がっちゃいます。この状態ではボール取っても、まともにカウンターなんて出来るはずがありません。なんで、この試合、前半はシンガポールはシュート2本、枠内シュートは無しという状態でした。



この日のシンガポールの守り方をちょっと図でまとめると、



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こんな感じです。中央三枚は、マッチアップ的にはアンカーが香川、インサイドハーフが柴崎と長谷部を捕まえる感じなんですけど、マンツーマン気味ではなく、スペース埋めるの優先でした。DFラインは、オフサイドトラップはそんな使ってません。たしか一回だけだったはずです。本田、岡崎の裏抜けにはDFがついていって対応してました。



この日のシンガポールなんですけど、基本的に守備だけやるサッカーです。ハーフウェーラインから、日本のボランチがほとんど自由にビルドアップ出来る状態でしたから、狙った所で奪ってカウンターってのは出来ません。そもそも日本のボランチに自由にパスだされてる訳だし。




日本対シンガポール、前半における日本の攻撃について

さて、こっからが今回の本題。



ここまで、「日本のボランチがシンガポール陣内で簡単に前むいてパス出せる試合」だって事を、ここまでで説明してきました。なので、日本のボランチは基本的にやりたい放題できます。



この試合、ハリルホジッチが、


──格下の相手に主導権を握りながら点が取れない。簡単なことではないと思うが、改善するにはどういうことを意識づける必要があるか?



 おっしゃるとおりで、向こうがどう引いてくるかは分かっていた。具体的にいうと(対策として)逆サイドにダイアゴナル(斜め)のパスを要求していたが、選手はそれを実現できずに中に入りすぎていた。中を崩すのであれば、ダイレクトで2〜3回(パスを)つながなければならない。ワンタッチの突破は4〜5回成功したものの、シュートに正確さを欠いた。最後の仕留めるところでの正確さが足りていなかった。




ハリルホジッチ「非難するなら私」 W杯アジア予選 シンガポール戦後会見


こんなコメント出してましたが、この逆サイドへの斜めのパスってのが、


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こーいうサイドチェンジなのか、


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こーいう斜めに裏に走りこむWGへのパスなのかは、文章からはちとよくわかりません。ただ、WGが中に入っていくのを放置してるので、サイドチェンジはそんな重要視してないっぽいんです。なんで、後者の斜めに裏に走りこむWGへのパスなんじゃねぇかとは思います。



後者の斜めに走りこむWGへのパスのほうなんですけど、これは前半最初に本田が何度かやってました。イラク戦の場合、本田はアレで簡単に点とったんですけど、この試合の場合、本田の裏抜けは明らかに警戒されてて、点取れそうな気配はなかったです。


これはそもそも論ですけど、サイドから斜めに裏に走りこむプレーってのは、本田あまり上手くありません。宇佐美もそう。日本のこの日の両WGは、足元でもらいたがるタイプで、オフザボールで裏に走りこむプレーで天下をとった選手じゃないんですよ。そういうプレーは岡崎とか川崎の小林悠とかが得意なプレーです。



というわけなんで、「逆サイドへの斜めのパス」っつても、宇佐美と本田のダイアゴナル・ランじゃ、そもそも裏とれないだろって話になるんで、ハリルさん、それをやりたいなら、ポジション変えるべきですがなって話にゃなるんです。「逆サイドへの斜めのパス」やりたいなら、岡崎を右にだしたほうがいい。それやると、ザックジャパンなんですけどね。




それ以外にも、この試合の場合、前半の攻撃は、あまり上手く行ってませんでしたが、原因は左右両サイドそれぞれにあります。なので、まず左サイドの問題点を図で説明しますけど



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図でやると、こうなるんですが、図の白いエリアに香川が入ってきたときに、そこにパスが入らないんですわ。これは、遠藤がいなくなってから、問題になるだろうなあと思っていた部分なんですけど、日本の左サイドでボランチから縦パスが通らなくなってんですね。


遠藤がいた頃は、あそこに縦パス通してくれてたんです。ただ、いなくなってから、あそこにパス通せる奴がいなくなってましてね。あそこに縦パス通す攻撃が通ったのは、本当に少なかったです。



ここの遠藤がいないとパスが回らない問題なんですけど、基本的に今の日本代表って、ボランチ、CBにビルドアップ出来るレフティってのがいないんです。このビルドアップできるレフティがいないと、左方向への展開に問題を抱えてしまう事が多いんです。



ちょっと、利き足と逆方向のパスが難しいって話をするのにPKの話をしますけど、


「ジャパン」はなぜ負けるのか─経済学が解明するサッカーの不条理

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このサイモン・クーパーの本に、PK戦の話があります。経済学者のイグナシオが1995~2000に蹴られた1417回のPKのデータから、キッカーが自然なサイド(利き足の方向)に蹴ったかどうかでPK成功率がどう変わるかを計算した話があります。それによると、



キッカーが自然なサイドに蹴って、キーパーが逆に跳んだ場合のPK成功率 95%
キッカーが不自然なサイドに蹴って、キーパーが逆に跳んだ場合のPK成功率 92%
キッカーが自然なサイドに蹴って、キーパーが同じ方向に跳んだ場合のPK成功率 70%
キッカーが不自然なサイドに蹴って、キーパーが同じ方向に跳んだ場合のPK成功率 58%



となったそうです。


いずれのケースでもそうですが、利き足と逆方向に蹴ると、PK成功率が下がっているのがわかると思います。この話はキッカーがどういう戦略をもってPKをやるべきかって話じゃありません。それはサイモン・クーパーがやってます。僕がここで言いたいのは、「チームのビルドアップ部隊が全員右利きだと左方向への展開に問題を抱えやすい」って事なんです。圧倒的にキッカー有利なPKでも、利き足と逆方向に蹴ると成功率が落ちるわけです。パスも同じで、基本的に、右利きの選手ってのは左方向へのパスで問題をかかえやすくなるんです。チームのビルドアップ部隊が全員右利きだと、左サイドの底からビルドアップ、左方向へのパス、この二つが上手くいかなくなる事が多いです。



遠藤が日本代表でボランチやってた時代は、この問題がそれほど大きな問題にはなりませんでしたけど、遠藤がいない試合だと、すぐこの問題が出るんです。



ここで、シンガポール対日本の試合に戻りますけど、この試合の問題点を浮き彫りにしてるのが、前半4分のビルドアップなんですが、



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これです。この試合の前半は、こんな攻めばっかだったんですけどね。まず、左でフリーな選手がいるけど、右に右にパスをだしていく。でもって、右の中央に入ってきてる本田に、マークついてるのに足下にパスだしてしまう。



柴崎か長谷部がボールもつと、相手のボランチの一枚がどこかで出てきます。そしたら、その背後のスペースが空くんですけど、その際になにが問題って、図でやると、



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こうなるんですけど、あそこの赤で囲ったスペースを香川、岡崎、本田が使おうとして大渋滞という意味不明なプレーが散見されました。



これね、前半9分にもくり返されるんですが、



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なんで、左無視して、わざわざマークがぴったりついてる右の本田にパスだすのか、お父さん、さっぱりわかりません。本田が中央に入りすぎなのも問題なんですが、その前の段階で、香川か宇佐美にボール当てない理由が、僕にはよくわからんのですよ。これ、前半19分の時も同じようなことやってます。左サイド無視して、マークついてる本田にパスいれろって指示でもハリルホジッチから出てたんでしょうかね?



これ、そもそも論なんですが、本田が中央にはいってきてるんで、左から右へのサイドチェンジはやりたくてもできません。一方、右から左へのサイドチェンジも機能してなくて、右は前線が大渋滞おこしてて、まともなビルドアップ出来ない状態になってました。



前半19分40秒あたりの攻めとかもそうなんですけど、


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これもホントによくわからないんですけど、何であそこでパスが出てこないの?って感じで。「左でフリーな選手がいるけど、右に右にパスをだしていく」ってのが延々続いてるんです。しかもマークついてる右の選手にパスだしてしまう。




これ、前半24分あたりからマシにはなってきてます。左サイドをまともに使えるようになってくるんですけど、前半34分から、またおかしな事やりはじめて、


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こんなのとか


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こんなのです。右サイドで大渋滞ジャパン。 右サイドで香川本田岡崎がダンゴ三兄弟。



さらに極めつけなのが



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ここはホント意味がわからないんですけど、左でフリーの選手に出さずにマークついてる本田の足下にボール入れる理由を誰か説明してください。





ちと、ここらで前半の総括しときますけど、



1,この試合の前半の場合、シンガポールは完全なドン引き。前に出てこない。カウンターすらやる気がない。大差で負けなきゃいいってやり方。
2,日本の左サイドでは、宇佐美が張り気味。右サイドの本田は中央に入りっぱなし。
3、ボランチはシンガポール陣内で配球できるが、左サイドでマーク外してもボランチからボール出てこない。
4、一方でマークついてる本田の足下にはどんどんパスをだすボランチ。
5、しかし右サイドは本田が中央に入ってきて、その上香川+岡崎も来るので、大渋滞。



こんな感じですね。



これだけ書くと、ノーチャンスな試合みたいですけど、実際の所、前半から何度かチャンス作ってた訳で、前の選手のクォリティは高いんです。前半のチャンスのうち、どれか1本決めてれば、全く違う試合になっていた訳で、結果論ちゃ結果論です、この話。




日本対シンガポール、そして後半へ

こっからは後半の話になります。ハリルホジッチのインタビュー読む限り、後半からはハリルホジッチのインタから引用しますけど、





──前半45分をどう評価して、ハーフタイムではどのような指示を出したのか?(大住良之/フリーランス)



 ハーフタイムで選手に伝えたのは、中に攻めすぎているということだ。中から攻めるとフィニッシュが難しくなるし、ダイレクトには行けないだろうと。中を崩すならフリックとか、2〜3回のワンタッチを使うしかない。だから、できるだけ外からボールを入れてくれという話をした。特に斜めの、逆サイドへ出すボールを入れてほしかった。昨日の練習でも、逆サイドからセンタリングを入れる練習をしていた。後半、2人のFWを置いて、両サイドからセンタリングを入れて合わせようとした。良いポジションからヘディングシュートを打っていた。タクティクス(戦術)のアドバイスは正しかったと思う。



 ただし相手もわれわれの考えを理解して縦を塞いでいたので、逆サイドを使ったり、オーバーラップやワンツーにトライした。太田(宏介)には「今日は君の試合だ」と伝えた。彼の前にはブロックする選手がいたが、それでもしっかりセンタリングを供給してくれた。



ハリルホジッチ「非難するなら私」 W杯アジア予選 シンガポール戦後会見

「逆サイドへ出すボール」は前半の最初、本田のダイアゴナルランにあわせて、ボランチが出してたパスくらいです。サイドチェンジは機能してなかったので、前日練習で、どんな練習してたのか、個人的に非常に気になります。




さらについてない時はついてないモンで、後半9分に太田のクロスから岡崎のヘディング、これをGKにスーパーセーブされてしまいました。あれを防がれると、この日の試合はもう日本の日じゃない状態でした。



そして、後半11分から、またおかしな事やり始めるんですけど



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右サイドで大渋滞ジャパンアゲイン。いくらボランチが相手陣内で自由にボール捌けるといっても、前の選手が正しいポジショニングをしないと、ボランチは試合を動かせません。具体的に、両ワイドに選手がいて、ギャップを取る選手、裏へ走る選手。これがいないと、どんな良いボランチでも試合を動かせないんです。前の連中があんな事やってたら、ボランチは何も出来ません。



これでハリルホジッチが切れたのかどうかは知りませんけど、このすぐ後、後半15分から香川交代で大迫が入ります。大迫は入った直後から、足下じゃなくて裏でボールもらおうとして、裏への動きを頻繁にしてましたが、やっぱりボールはでてきませんでした。



大迫がはいった後は、中央偏重がやや無くなって、それなりにサイドからクロス入れてたんで良かったんですけど、後半25分、全く意味がわからない柴崎→原口という交代策。これはホントに意味がわからなかったです。会見読む限り、ドリブルでボール運んだり、ミドル打ったりして欲しかったみたいですけども。



基本的に、後半はあんまり書くことがありません。最後の15分くらいは、本田が中に入るのやめて、渋滞も解消されてたんですけど、左サイドのギャップにポジショニングした選手にボールが出ないってのは、最後まで変わりませんでした。サイドチェンジも大して機能せず。



この試合のまとめ的なもの

そろそろまとめに入ります。長文かいたので、もうヘロヘロです。



今回の試合なんですが、チャンスは沢山作ってたので、どれか一つ決めてれば、こんなエントリ書く必要なかった訳です。だから、このエントリは結果論的な部分があります。


ただし、「左サイドで効果的なビルドアップが出来ていない」ってのと、「右サイド高い位置での大渋滞」は結構深刻な問題なんで、そこだけは何とかしといて欲しいです。もっとも前者は、レフティの有望なボランチ、CBがいない為、そう簡単に片づく問題ではないですし、右サイドは、本田が中に入りたがる選手なんで、そう簡単に解消できるとは思えない部分が多いんですけどね。


2列目の三人、香川、宇佐美、本田が全員足下小僧だってのも、渋滞に拍車をかけてる部分があるんですが、こればっかりは、どうにもならん部分ではあります。



今回の試合なんですけど、シンガポールがやってきたような守り方は、今後もやってくるかどうかは不明です。ただ他のチームも、ドン引きして、対日本では、



「日本の右サイドに攻撃誘導して、本田の足下にパス入った所でサンドイッチ」



こんな感じで来るかもしれませんけどね。


これ以上は、疲れて書けそうにないので、まとめになってないですが、今日はこんな所で。ではでは。

ナイキは如何にしてスポーツ&フィットネスの市場を牛耳るに至ったか(スポーツとお金の話の記事の参考書籍の紹介もあるよ)

ブログの題名が「サッカーレポート」なのに、サッカーレポート以外の話題を3回連続でする男、スパイダーマン!ではなく、pal9999どす、こんにちは。



ここんとこ、ずーーっとスポーツと金の話ばっかしてる訳だが、今回もスポーツとお金の話である。ただし、今回は、現在、スポーツ&フィットネスの市場でNo1企業、ナイキの話がメインとなる。


今回の話は、前回、前々回の話の続きでもあるので、これまでの記事を読んでない人は、そっちから読んで頂けると助かる。このエントリだけ読んでも意味不明なだけである。




前回、前々回のエントリの参考書籍

前回、前々回とFIFA関連の話、スポーツとお金の話をしてきた訳だけれど、何人かの方から「参考書籍教えてくれ」という要望があったので、参考書籍を紹介しておく。簡単な書評もついでにやっておく。




サッカーの国際政治学 (講談社現代新書)

サッカーの国際政治学 (講談社現代新書)



「サッカーの国際政治学」小倉純二著。これは元FIFA理事の小倉さんの本だ。FIFA内部の話を知りたいなら、まずこの本が最初に読んでおくべき本になる。元理事なので、内部の事情に詳しいし、南アフリカW杯の際の、開催地投票に関しての、小倉さんの票読みも本の中に記されている。


それでなんだが、


不正は常習化…2010年W杯はモロッコ開催だった



先日、こんな記事がでていたけれど、これねえ、小倉さんの本読めば、イスマエル・バンジー元理事の証言には色々とアレな所があるんだよね。小倉さんは、南アフリカ対モロッコの決戦投票の結果から、各国の票読みをしてるんだけど、この票読みの際、「モロッコに投票したと思われる理事が投票後、パーティに参加せず、席を立って帰った」って話してるんだ。


なんで、モロッコが2票差で勝っていたら、その際に13人がパーティーに参加せずに帰ってないとおかしい。でも、現実には、15人がパーティーに残って、9人が帰ってる訳だ。バンジー元理事の証言は、正直言って、小倉さんの話と整合性がない。


なので、このニュースは、政治的なアレだと思われるンだ。この先、紹介する本にも記述があるけど、メディアに情報リークして対抗陣営潰しをやるって政治ゲームは、FIFAでは散々行われてる。




アディダスVSプーマ もうひとつの代理戦争

アディダスVSプーマ もうひとつの代理戦争


この本は、アディダスとプーマの間の戦争を描いた本としては、日本語で読める本の中では最良の本。ダスラー家の愛憎の歴史から、アディダスとプーマがダスラー家の手を離れるまでを克明に記録している。ついでに靴メーカーの話でもあるので、ナイキやリーボックの話も含まれてるし、アディダスとプーマが陸上やらサッカーの歴史の裏で、どんな事をしていたのかってのがよくわかる。


ちなみに、この本、結構な分量で日本の話が書かれている。プロローグは、中村俊輔がアディダスと契約する話から始まる程度に、日本の話が結構ある。


前回のエントリの主役である、ホルスト・ダスラーの人物像を知りたい人は、この本が一番オススメ。




W杯(ワールドカップ)に群がる男たち―巨大サッカービジネスの闇 (新潮文庫)

W杯(ワールドカップ)に群がる男たち―巨大サッカービジネスの闇 (新潮文庫)



この本は、FIFAの前代会長、アベランジェを主役として、FIFA、電通、アディダスなどが繰り広げるマネーゲーム、2002年日韓W杯の招致ゲームなどをまとめた本。W杯の招致や、五輪の招致において、韓国がどんな事してたのかといった話や、電通とISL設立から、電通がISLから手を引くまでの裏話など、興味深い話が沢山載っている。「W杯ビジネス30年戦争」の改題だが、文庫本のほうが加筆されてるので、文庫本を買うのがオススメ。


ちなみに、この本でも結構な量、ホルスト・ダスラーが登場する。この時期のスポーツ界で、ホルスト・ダスラーが如何に影響力があったのかってのがよくわかる。





オリンピックの汚れた貴族

オリンピックの汚れた貴族

  • 作者: アンドリュージェニングス,Andrew Jennings,野川春夫
  • 出版社/メーカー: サイエンティスト社
  • 発売日: 1998/02
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る



これは「黒い輪」で有名なアンドリュー・ジェニングスの五輪本。主にサマランチと、その取り巻きの批判であったり、IOC委員の、招致合戦でのたかり行為なんかを徹底的にこき下ろしている本。内容は「黒い輪」の時と同じで、五輪におけるドーピングの蔓延の暴露も当然やってる。尿検査の際、膀胱に「綺麗な尿を注射しておく」なんて話は、股間がキュンとなる。



この本でも、やっぱりホルスト・ダスラーは大活躍・・・というか、しょっちゅう名前がでてくるんで(悪い意味で)、ホルストマニアな人はどうぞ。この本は五輪の腐敗を専門に扱った本なんで、FIFAの汚職とは直接的には関係ないんだけれどもね。ただ、この本では、FIFAのアベランジェや、ホルスト・ダスラーの名前がしばしば出てくるわけで、スポーツ政治の話を知りたいなら、やっぱり読んでおいたほうがいい訳なんだけれども。



スポーツと権利ビジネス―時代を先取りするマーケティング・プログラムの誕生

スポーツと権利ビジネス―時代を先取りするマーケティング・プログラムの誕生

スポーツマーケティングの世紀

スポーツマーケティングの世紀



この二冊は、ここまで紹介してきた本とはちょっと毛色が違って、スポーツマーケティングの話がメインの本。といっても、結局、スポーツマーケティングの話になると、ホルスト・ダスラーの話になるので、ホルストの話がどっちにも載っている。ちなみに、「スポーツと権利ビジネス」のほうには、オリンピックを黒字に変えた男、ピーター・ユベロスの話と、のちにIOCのマーケティング担当になるマイケル・ペインの話にかなりの分量が割かれている。ピーター・ユベロスとマイケル・ペインは、現在のオリンピックのスポーツマーケティングの成立に、大きな役割を果たしている。



チャンピオンズリーグの20年 ---サッカー最高峰の舞台はいかに進化してきたか

チャンピオンズリーグの20年 ---サッカー最高峰の舞台はいかに進化してきたか



この本は、ホルスト・ダスラーの話や、FIFAのアベランジェ、ブラッターの政治の話は殆ど無い。ただし、クラウス・ヘンペル(元ISL社長)がスポーツマーケティング会社「TEAM」を設立してから、どのようにCLをブランディングして、CLを巨大化させていったか、そしてプラティニがどうやって権力を握ったのかって過程がよくわかる本なんで、そっちを知りたい人にはこの本がオススメ。




コカ・コーラ帝国の興亡―100年の商魂と生き残り戦略

コカ・コーラ帝国の興亡―100年の商魂と生き残り戦略


この本は、エントリとは直接関係ないんだけど、1970年代以降、なぜ多国籍大企業が、スポーツのスポンサーにつくようになったのか、それを理解するには良い本なので紹介しておく。



とまあ、これで前回、前々回の話の参考書籍の紹介は、おしまい。次にナイキの話をする。「何でナイキ?サッカーと関係ないやろ」と思う人がいるかもしんないね。でもね、ナイキがスポーツ&フィットネスの市場を牛耳るまでに、彼らがやったことは、現在のサッカーと深く関係してくるんだ。



創生期のナイキ(1964~1980)

こっからが今回のエントリの主題。スポーツとお金の話をする際、やっぱりナイキの話は絶対に絶対に絶対に外せない。というのも、ナイキは、現在までのスポーツ・マーケティングにおける最も重要な流れを作った企業だからだ。ホルスト・ダスラーとナイキは、スポーツ・マーケティングの話をする際に絶対に外せない。



ナイキという会社は、オレゴン大学で会計を専攻していた、中距離ランナーのフィル・ナイトと、そのコーチだったビル・バウワーマンが始めた会社である。


そもそも、ナイトがスポーツ用品会社をつくったきっかけとなったのは、ビジネススクールの授業で、「架空の事業を想定し、その設立目的とマーケティング目的を呼べよ」という課題が出た時に遡る。



ナイトはこの時、


1,バウワーマンがしばしばアディダスを含むランニングシューズに不満を漏らしていたこと
2、日本製の安価なカメラが、高価で歴史のあるライカのカメラにとって変わるであろうか?というカメラマン達の議論



の二つの記憶を元にレポートを提出した。「日本製シューズは低価格低品質と言われるが、日本メーカーが高品質のランニングシューズを作れるなら価格による差別化で日本メーカーは新たなマーケットを開くことができるだろう」というもの。



その後、ナイトは普通の会計事務所に就職するんだが、日本に旅行した際、オニツカタイガー(現アシックス)のランニングシューズを手に入れた事が、ナイトの運命を変えることになる。



ナイトは、シューズをアメリカに持ち帰り、バウワーマンに見せた所、バウワーマンの反応は「この靴は悪くない」だった。そして1964年、ビルとバウワーマンは500ドルずつを出資して、ブルーリボンスポーツ社(後のナイキ)を設立し、日本で生産されたランニングシューズをアメリカで売るという輸入ビジネスを発足させる。



現在の社名、「ナイキ」が生まれたのは、1971年。オニツカタイガーが販売権を他の業者に与えるのではないかと不安になってきたナイトが、自社の靴に新たなブランドとマークをつけようとした時から始まる。この時から、スウォッシュのマークと、「ナイキ」のシューズの歴史が始まるわけだ。(この後、オニツカタイガーとは揉めて裁判起こされることになる。)



ナイキが成長するにあたって、最初に追い風になったのは、1970年代後半から起こったジョギング・ブームだった。ナイキは当初、陸上競技から事業をスタートさせたが、ジョギング・ブームからフィットネスにも力を入れ始める。こうして現在に至るまでの、「スポーツ&フィットネス」企業、ナイキが形作られることになるわけだ。ランニングシューズの売上が急激に伸び、それに伴ってナイキの売上は、1970年代後半には、1000万ドルから2億7000万ドルまで伸びることになる。そして、1980年、ついにナイキはアディダスのアメリカ市場の市場支配を終わらせる。


この時期、アメリカの靴の市場では、堅い皮の靴がシェアを失って、スニーカーに代表されるような柔らかい靴がシェアを持ち始める。この流れに乗ったのがナイキやリーボックで、この流れを見失っていたのがアディダスなんかになる。


ただ、アディダスがそうであったように、ナイキも「フィットネス」関連の市場の発展に乗り遅れてしまった部分があった。もっともアディダスは、ジョギングブーム自体を気にかけていなかった部分があり、その事がナイキとリーボックの台頭を許す原因になるんだが。アディダスの靴職人達は、ランニングシューズや、ナイキの有名な「ワッフルトレーナー」を、てんで気にかけなかった。ワッフルトレーナーに関しては、ジョークだとすら思っていたそうだ。だが、後にその事が大間違いだと気付かされることになる。


話をナイキに戻すけれど、ナイキはジョギングブームにのって、業績を拡大させていったんだけれど、大きいなミスをしてしまった。それは1982年から発売されたリーボックのエアロビックス用シューズ「フリースタイル」の過小評価だ。アディダスもナイキも、「フリースタイル」の流行は一時的なものだと考えていた。その事がリーボックの台頭を許す原因となる。フリースタイルは空前の大ヒット商品となり、リーボックは一時はアメリカ市場でもっとも大きなシェアを握るシューズメーカーになるのである。




ナイキはリーボックの攻勢に対して、1980年代、一時はレイオフを含む組織再編にまで追い込まれたものの、この時期、ナイキのその後の路線を決定することになる、一人のスポーツ選手がナイキと契約する。



その名は誰でも知っているだろ。バスケットの神様、マイケル・ジョーダンだ。




ヒーロー製造会社ナイキ

こっから先の話は誰でも知ってる内容なんだが、マイケル・ジョーダンがNBAに入ったのが1984年。そして、ナイキでは「彼との契約は賭けだった」とも言われるが、ナイキは5年250万ドルの契約を交わす。そして、ジョーダンはナイキが彼のために特注した赤と黒のシューズを履くようになり(当時、NBAでは白のシューズしか認められておらず、ジョーダンとナイキは罰金払いながらのプレーになった)、これがさらに話題を呼んだ。1985年、エアジョーダンがナイキからリリースされ、これは爆発的なヒットとなり、一年で1億3000万ドルを売り上げ、当時、低迷していたナイキを蘇らせたのである。


それだけではなく、エアジョーダンの発売後、スニーカーとバスケットシューズは、サブカルチャーではなくなった。バスケットシューズはアメリカでの売上の6割を占めるまでになり、その後のスニーカーブームに繋がっていく。



とまあ、このあたりは誰でも知ってる事だろう。



こっからは、ナイキの功罪半ばする話になる。



マイケル・ジョーダンは世界的なスーパースターになり、ナイキはエアジョーダンで大もうけすることに成功した。ナイキではジョーダンが現役だった時代を「黄金時代」と呼ぶそうだが、この時期に驚異的なスピードでナイキの売上は伸びていった。



この時期に、ナイキがやった事、それは、マイケル・ジョーダンの



「フィル(ナイト)とナイキがやったのは、わたしを夢の対象にすることだった」



という言葉が端的に表している。ナイキはヒーローを作り上げたのだ。スポーツ選手を使って売り込みをかける、というのは、それ以前から頻繁に使われてきた手だった。しかし、ナイキはそれを一歩前に推し進めてしまった。自身でヒーローを生み出しはじめたのだ。どういう事かというと、選手のイメージを作り上げて、選手を神格化させていったんだ。選手のブランディングを徹底的に会社ぐるみで行うようになった。


ナイキのノンフィク本、「just do it」からの引用になるけど、

「ナイキがついていなければ、マイケル・ジョーダンには何の影響力もない」by フィル・ナイト(ジョーダンはナイトがこういったのを覚えている。ナイトはそんな言い方はしてないと言ってるが。)

18世紀後半の製品に国王や女王の承認印がつけられていたように、消費文化のもとでは、有名人に品質保証されるという要素は欠かせないものである。しかし、ナイキは、そうした品質保証とそこから生じるマーケティングを、きわめて金のかかる特定の形式に変換したのである。

「今や、スポーツを通じて達成できるレベルが二つあるようだ」発足したばかりのスポーツ・マネジメント部で部長を務めるフレッド・シュライアは言った。「スポーツそのものでの成功と、マーケティングの世界での成功だ。今や後者の達成も義務づけられているかのようだ。より高い地位まで導いてくれるマーケティング組織がついていなければ,エリートとはいえないような状態になっている」


こういうモノだ。ナイキは、マーケティングというお題目の下で、ナイキと契約した選手のイメージを極めて精巧に作り上げ、そして、そのイメージを使って商品を売り込んでいった。マイケル・ジョーダン、アンドレ・アガシ、タイガー・ウッズ、ランス・アームストロング・・・・彼らのパブリックイメージは、ナイキによって細心の注意を払って作り上げられた、いわば架空のイメージと言って良いものだった。それは、商品を売り込む為には必要なものだったかもしれないけれど、神に祭り上げられた、タダの人間にとってはたまったものじゃなかった。あのジョーダンでさえ。


アンドレ・アガシは、「just do it」の中で

「みんなが見たがっているのは、ナイキのコマーシャルにでてくるアンドレ・アガシなんだ」


「みんなが俺に求めているのは、ガキっぽくコートを飛び回ることや、イカしたナイキの広告の中で、猛スピードで珠を打ち付ける姿なんだ。本当のアンドレ・アガシなんて退屈なガキだよ。本当のアンドレは、友達とラスベガスをうろついたり、映画に行ったりしてるだけ。本当の自分なんて、絶対に人目にさらしたくない」



「人々がみたいもの、そして見るべきものは、現実のものじゃないんだ。人々にプレーさせたり、ものを買わせたりしているのは現実の俺じゃない。連中の頭にあるアンドレ・アガシがそうさせているんだ」


こんな話をしているけれど、ジョーダンやアガシは、自身の姿と、ナイキがコマーシャルで作り上げていく姿の乖離に苦しむ事になる。人々の頭の中にあるジョーダンは、現実にはナイキのコマーシャルの中にしか存在しない。



そして、この手のナイキの「ヒーロー製造器」に乗せられて、ガンから生還し、レースにカムバックしたスーパーヒーローに祭り上げられたのがランス・アームストロング。ほとんどゴルフの聖人君子に祭り上げられたタイガー・ウッズ。この二人は、ナイキが作り上げた仮面がスキャンダルによって剥がされると、その後に待っていたのは、地獄だった。



スター選手をブランディングし、コマーシャルを使ってスーパーヒーローに祭り上げ、スーパーヒーローを使ってスポーツ用品をセールスする。正直、ジョーダンで、あまりに上手くいってしまった為、その後、ナイキは、このやり方でやりすぎてしまった部分がある。それの反動が、ランス・アームストロングとタイガー・ウッズのケースで出てしまった部分がある。(もちろん、両者ともに自業自得な部分もあるんだが)



そして、もっと厄介なのは、この手法が、色んなスポーツの分野に広まってしまった事だった。今や、スポーツ選手というのは、スポーツそのものでの成功だけでなく、マーケティングでの成功出来ないと、エリートと呼べない時代に突入したんである。





以上がナイキの功罪。ナイキは、スポーツ用品市場において、ランニングシューズの先駆けであり、フィットネス革命の仕掛け人でもある。沢山の革新的なシューズも生み出してきた。一方で、スポーツ選手を使ったマーケティング会社、ヒーロー製造会社としての側面を併せ持っており、その手法は、今や、ほとんどのスポーツに広まってしまった。



正直いって、最近のスポーツは、まーるでプロレスみたいに感じる事がある。プロレスってのは、



アングルは、プロレスにおける隠語の一種で、試合展開やリング外の抗争などに関して前もってそれが決められていた仕掛け、段取りや筋書きのこと。試合自体の進行は「ブック」と呼ばれ、アングルはリング外でのストーリー展開を指すことが多い。アングルの組み合わせや展開が観客動員に大きく影響するため、試合内容と同じ重要性を持つ。


アングル (プロレス)


こういう風に、試合の前後に物語を作り上げることで、観客動員をあげようとしているわけだ。最近のスポーツでは、マーケティングの論理が幅効かせているせいか、やたらとストーリーを作って盛り上げようとするもんだから、「プロレスじゃないんだから勘弁してくれよ・・・」と感じる事が多い。



ナイキとジョーダンの成功以降、スポーツはプロレス化してしまった部分がある。サッカーも然り。マーケティングの論理が幅を利かせすぎている部分がある。


とはいえ、それが時代の流れというものなんであり、そのおかげで、スポーツ選手は大金を稼げるようになった訳だから、悪い話では絶対にないのだけれど、素朴だったスポーツの時代を懐かしむ事もあるのである。今日はそんな話でしたとさ。おしまい。