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今更ユーロ2012総括〜ドイツ〜

皆様、こんにちは。お久しぶりですが、ようやっとユーロの話をしようと思います。忙しいのにユーロをみてたので、ありとあらゆる事をほっぽりだしていた管理人でございます。この時期は色々と忙しいのでホントに嫌になります。


さて、本日から、ユーロ2012の総括をやりたいと思います。気になった国の代表の話を絡めながら、適当に欧州におけるサッカーのトレンドの話をしていこうかと。手始めに、ドイツから始めて、イタリア、スペイン、その後に番外的にフランスの話をしようと思ってます。なんで、大体、四つほど記事を上げようかなと。


もっとも、書ききる前に力尽きるかもしれません。力尽きたら、そっとしておいてください。

ユーロ2012におけるドイツ代表のサッカーについて


さて、まずは、ユーロ2012におけるドイツのお話になります。もっとも、ドイツ代表の話は、そこいらで記事があふれかえってるんですけど、ネタ的にかぶってても見逃してください。


ちなみにドイツの今大会の成績ですが、4勝1敗でした。以下、対戦成績ですが、


ドイツ 1 - 0 ポルトガル
オランダ 1 - 2 ドイツ
デンマーク1 - 2 ドイツ
ドイツ 4 - 2 ギリシャ
ドイツ 1 - 2 イタリア


こうなってます。ドイツはユーロで、スペインに次いで勝ち星を稼いだチームでして、ユーロを見た中だと、スペインは別格(4勝2分)として、それに迫るレベルのチームになったという感じでした。イタリア戦は残念でしたが、あの試合の話は後述します。イタリアに負けてから、ドイツ国内で、レーブも相当叩かれたみたいですけど、4勝1敗で叩かれるとか酷い話ですよね。勝率8割のチーム作ったのに叩かれるとか代表監督ほど理不尽な仕事はありません。バルサだって勝率は72〜76%が良いとこなんですけどもね。最強クラスの代表チームでも10試合やれば、2回くらいは負けてもしょうがないンですが、代表戦にはそんな理屈が通った事は一度もありません。あらゆるコンペティションには敗北がつきものなんですが、それが理解される日は永遠にこないでしょう。


もっとも、デルボスケのスペインの勝率は83%と異常な数値をたたき出しており、予め申し上げますが、スペインに負けるのは恥じゃありません。デルボスケのスペインはどっかおかしい。来年、コンフェデで日本はスペインとやれますが、引き分けれたら御の字です。


さて、ドイツの基本のフォーメーションは、



こうなってました。さて、ドイツは4231を採用していますが、ドイツの4231の特徴としてWGは基本張りっぱなしだって事です。これは前回のW杯から変わってません。また、ウィングは順足です。つまり、左サイドにはレフティのWG、右サイドには右足のWGをつかいます。その為、ウィングが中央にドリブルでカットインする動きはまず見せません。この辺りは、最近よくある逆足のWGを採用しているチームとは異なっています。


さて、そういうチームなんですが、ドイツの攻撃の特徴について、簡単にキャプを使って説明しようと思います。結論から申し上げますと、トップ下とボランチのダブルカットによる攻撃をドイツ代表のレーブは好みます。バスケットボールのダブルカットに似た攻撃で、この話は後述します。


さて、ドイツの攻撃の特徴については、ドイツ対ギリシャで、ドイツの良い攻撃が見られたので、それを使って説明しようと思います。こっからはキャプでやりますが、こういう攻撃にドイツの4231の特徴があります。












ココですね。得点はなりませんでしたが、この動きは、ドイツの4231の特徴です。ドイツの4231において、オフザボールの動きで、攻撃に変化を生み出すのが、エジルとケディラです。ドイツは、先にも述べましたが、張りっぱなしのWGを採用しています。なので、WGを使った組み立てを多用します。このシーンでも、特徴的ですが、WGにボールが展開された後、ドイツはボランチが必ず、SBとCBの間にフリーランニングをかけます。この動きに相手のボランチがついてこなかったら、そのままケディラにボールをだせばオッケーです。


ただし、普通はボランチが飛び出しについてきます。けれど、それはドイツはすでに計算済みです。ボランチがケディラの飛び出しについてくるなら、ボランチのポジションが空きます。ここでは、そのスペースをSBのラームが利用してます。ボランチがあけたスペースにドリブルを入れてます。ただ、この動きにはSHが対応していますが、ドイツの真骨頂はここから。SHが中央にしぼるなら、空いたSHのスペースをケディラが使う、と。これで、ケディラがフリーでボールをもてました。


そして、その後も実に楽しい。SBのポジションにはケディラ、ボランチのポジションにはラームが入っているわけですけど、ここで、もう一度、ラームがフリーランニングをSBとCBの間に向かってかけるんですね。これをやられると相手チームとしてマークの受け渡しが困難になります。というか、SHは、こういう動きを入れられると、ついていくべきかどうか迷います。ケディラに当たるべきか、それともラームについていくべきか。


ここで、SHはラームに途中までついて行ってたんですけど、ボールの中継にエジルが入ったので、そこでラームを捨ててエジルに当たりに出ました。結果として、ラームがフリーになってしまい、SBとCBの間でラームにボールを受けられる事になったわけです。そこからは、もうギリシャの守備はめちゃくちゃになってます。CBがサイドに出てきてラームに当たってるわけですから、中で人数の帳尻があうわけがない。



さて、もう一つ、ドイツ代表の攻撃の良い題材があるので、それも紹介しときます。ドイツ対ギリシャの23分の場面なんですけどね。








こういう場面でした。この後のシーンの崩しも非常に興味深いのですが、とりあえず、それは後回しにします。ここでは、ケディラでなくエジルのフリーランニングだったんですけど、ドイツの狙いが見事に嵌ってます。ドイツ対ギリシャの試合では、ギリシャは4141を採用し、ドイツと完全にシステムをかみ合わせていました。これ、守備のやり方としてはマッチアップ・ゾーンです。ギリシャはマンツーマンでユーロを制覇した事があるんですけど、今大会でもマンツーマンに近いシステムであるマッチアップ・ゾーンを採用していました。マッチアップ・ゾーンってのは、相手のシステムとかみ合わせて守備をやるやり方で、相手のシステムに応じて、それとかみ合わせの良いフォメで守備をやるやり方です。たとえば、4231なら、それと完全にかみ合う4141で守備をやるやり方です。


ただ、レーブのドイツは、この試合ではカットやフラッシュを多用することで、ギリシャの守備を完全に崩壊させました。


さて、ここから、ちょっとばかし、バスケットボールを例にして、カットやフラッシュという攻撃が、何故マッチアップゾーンを崩壊させるのかって話をしようかと思います。


バスケットボールにおけるゾーンオフェンス 〜ゾーンの崩し方〜

ちょっと寄り道しますが、ご容赦を。以前、クロップのドルトムントからは、ハンドボールの影響が見て取れるなんて話をしましたが、レーブのドイツ代表の動きを見ていると、レーブはバスケットボールから影響を受けたのかな、という感じを受けています。


バスケットボールも戦術化が進んでいるスポーツで、バスケに関しては、もうあまりにオフェンスのパターンが星の数ほど考え出されており、もうついていけないレベルに達しているスポーツです。オフェンスが5人で、コンビネーションをたたき込みやすいってのがあるんでしょうが、とにかく攻撃のパターンが多い。多すぎる。ジョーダンのシカゴ・ブルズがオフェンスパターンを2000通りもっていたなんて話を聞いたことがありますが、冗談じゃねーよって話です。ありえねえって話じゃない。


さて、ここから、バスケットにおけるゾーンディフェンスと、その欠点の話になるんですけどね。そして、又、何故、ユーロにおいて、ポストプレーヤー(CF)があんなによく動くようになったのかって話にもなるんでございますが。



バスケでは、ポストプレーヤーを「ステーショナリーポスト」と「フラッシュポスト」の2種類に分けて定義します。ステーショナリーポストってのは、あんまり動かずボールを受けるプレーで、フラッシュポストのほうは動きながらボールを受けるプレーをさします。フラッシュって名前がつくのは、「ぱっと表れる」プレーだからです。バスケットボールでは、ゾーンディフェンスに対抗するための攻撃方法が研究されるにつれて、フラッシュポストと呼ばれるプレーがもてはやされるようになりました。



ここで、WSD最新号にロベルト・ロッシのユーロに関するコラムがあったんで、そこから引用します。


目立っていたのは、基準点となるCFを置かない国だ。代わりに起用したのは、前線を動き回ってスペースを作り出し、あるいはスペースをアタックするダイナミックなプレースタイルのストライカーだった。


伝統的に基準点型のCFを擁してきたオランダやイングランドも、例外ではない。ドイツのマリオ・ゴメスは大柄で体格的にはCFタイプだが、組み立てへの参加はほとんどなく、基準点として機能していたとは言えない。イタリアのマリオ・バロテッリも同様だ。スペインに至ってはFWを一人も使わず、前線の中央にMFのセスク・ファブレガスを配する試合もあった。基準点型のCFを起用していたのは、マリオ・マンジュキッチクロアチアと、ニコラス・ベントナーのデンマークくらいだ。


こうした用兵の狙いは、敵のDF、とりわけCB、に守備の基準点を与えないところにある。CBが基準にするのは、担当するゾーンに入ってきた敵のDFだ。いったん入ってくれば、捕まえてマークする。そのうえで、ボールや味方との位置関係に応じてポジションを変えていく。そうした守備の難易度は高くない。一方、異なる敵が自分のゾーンに出入りしてくれば、対応して正しいポジションを保つのも、先手をとり続けるのも容易ではなくなる。


というのがあります。俺が書こうと思ってたことを書いてしまわれてショボーンという感じです。ロッシが書いてしまったので、僕はちょっと工夫を凝らさないといけなくなりました。なんで、バスケットボールにおけるフラッシュとカットの話をしようと思ったわけです。


バスケットボールにはいろんな守備方法がありますが、ゾーンで守るやり方としては、イーブンマンフロント・ゾーン、オッドマンフロント・ゾーン、マッチアップゾーンと、大きく分けて3種類です。チェインジング・ディフェンスと呼ばれるゲームの流れに応じて守備方法を変える事も行われている為、試合中にディフェンス方法が切り替わる事も珍しくありません。また、それぞれの守備方法ごとに弱い所が違う為、そこで、試合展開に応じてチーム同士の読み合いが起こります。


ちなみに、バスケットでもハンドでもサッカーでもそうですが、ゾーンディフェンスを攻略するために、もっともてっとばやい方法は速攻です。相手がゾーンを組む前に攻めきってしまえばいい。これはゾーンに対する最も効果的な方法です。ただ、今回は速攻を繰り出せなかった場合の方法について説明していきたいと思います。速攻戦術に関しては以前扱いましたしね。


さて、ゾーンディフェンスを攻略する場合、「ゾーンを崩す」と言います。どういう事かというと、文字通り、ゾーンの形を崩したい。つまるところ、DFに動いて欲しいんです。バスケットの場合、ゾーンを組まれると、有効なシュートエリアであるインサイドには、ほぼ完全にスペースがありません。バスケットにはスリーポイントシュートがあるので、アウトサイドからのショットを狙えば良いときもあるんですけど、ショットが入らない時にはそれだけでお手上げになります。なんで、ガッチガッチに固められているインサイドへのオフェンスも出来ないと強いチームは出来ません。しかし、インサイドはガッチガチにゾーンで固められている。だから、まず相手のDFを動かさないといけません。


しかし、どうやって?


ここでポイントになるのが、カットとフラッシュです。さて、ここからはバスケの動きを使って説明していきます。バスケのフォーメーション作成ツールをシランので、サッカーので代用するのでご容赦を。

バスケットにおけるゾーンオフェンス編 「スプリット」

ここからはバスケットにおけるゾーンオフェンスのお話になります。今回扱うのは「スプリット」と呼ばれるプレーです。バスケにおけるゾーンオフェンスの一つでございます。ちなみに、スプリットは、オッドマンフロントゾーンの攻略を対象にしています。オッドマンフロント・ゾーンとは、1−2−2、3−2、1−3−1を指します。フロントに3名が配置される事から奇数フロントとも呼ばれます。



まずは、この図から。「スプリット」とは、英語で「分断」という言葉です。この言葉の通り、相手のゾーンの隙間を攻略することを狙います。サッカーにおけるゾーンの隙間と同じで、あそこがゾーンディフェンスの弱点になります。この図では1−2−2、あるいは3−2の攻略になりますが、白い円で囲った場所がゾーンの隙間に当たります。あそこに立つことで、ディフェンダーを分断していきます。


さて、スプリットでのエントリーは、アウトサイドのゾーンの隙間に4人がポジショニングをすることから始まります。それが上記の図です。そして、攻撃のスタートは、5番のプレーヤーがハイポスト(フリースローライン付近)にフラッシュすることからスタートします。図にすると、



こうです。最初から、ハイポストに5番がいないのは、相手DFの視界に最初から入っていると守備で捕まるからです。相手のDFの背後からハイポストにフラッシュ(突然現れること)することで、相手の5番は、マークを見失う可能性があります。ここで相手のマークが外れていれば、1番から5番にパスをいれてショットを狙います。しかし、そう簡単には普通いきません。そうなると、次は右サイドでの展開を狙います。どうなるかというと、




こうですね。1番から3番にパスをだすと、相手の5番がアウトサイドからのショットを警戒して、サイドに出てきます。出てこないならショットやドライブを狙います。そして、5番が出てきた場合には、5番のポジションが空くので、そこにセンターの五番がカットします。これが、センターのローポストカットと呼ばれる攻撃です。もし、ここでフリーになれたら、そこでセンターはパスを受けてショットできます。しかし、普通は、ここも相手のDFのカバーが入ります。どうなるかというと、




こうなります。ちょっと→間違ってしまいましたが、失礼をば。相手DFの4番は、5番を放置することはできないので、4番のマークに入ります。その動きに合わせて、赤の2番は、赤の4番があけた場所をカバーします。このカバーが入れば、センターのローポストカットは機能しません。しかし、ここで、次の動きのポイントになるのが、青の4番です。赤2番の背後を取るように動き、次の動きにそなえます。ここでの目的は、相手のゾーンのDFを動かしていくことなんです。



さて、センターのローポストカットが失敗した場合、3番は1番にボールを戻します。このパスが出ると、相手の3番が出てきます。その瞬間を狙って、白の4番が赤の二番の背後から空いたハイポストにフラッシュしてパスを引き出しショットを狙います。これがパワーフォワードのハイポストフラッシュと呼ばれる攻撃です。この一連の攻撃は非常に効果的で、ゾーンオフェンスの基本の一つです。ここで、守備側の並びを見てください。一時的にですが、2−3になっているのがわかると思います。この一連の攻撃では相手のDFを動かし、相手のゾーンを1−2−2から、2−3に動かすことで、ゾーンディフェンスを崩すことを狙っているわけです。このように、1番と3番がパスを繰り返しながら、4番と5番がくるくると回りながら、ショットのチャンスを狙います。これが「スプリット」です。



レーブのドイツの攻撃について

さて、寄り道が長くなりましたが、ここからはドイツ代表の攻撃の話を図を使って説明します。対象はギリシャ戦です。22分の攻撃の続きです。あの後、ドイツは、どうやってフィニッシュにもっていったのか?


ここからはキャプでやります。先のキャプの続きでございます。













流れ的にはこうなりました。このシーンなんですけど、まさに華麗という表現がふさわしい攻撃です。まず、最初にポイントになるのがエジルのSBとCBに生じたスペースへのカットでした。この動きで、相手のボランチを最終ラインに吸収させています。その結果、シュバインタイガーのマークが外れ、あそこで彼がフリーになれました。そして、シュバインタイガーがフリーになったんで、たまらずギリシャのアンカーが前に出てきてます。


そして、その瞬間を狙って、アンカーが開けたスペースに降りてくるのがクローゼ。あそこでボールを受ける動きを見せます。これにはギリシャのCBがたまらず食いつきます。あそこで潰さないと前を向かれてしまうので、これもしょうがない。


そして、その瞬間に、最終ラインの裏に走り込むのがロイスです。この動きにはSBがついていったので、ギリシャはクローゼがボールをシュバイニーに落とした時にラインを上げることができませんでした。ロイスにスルーパスは出ませんでしたが、この後のロイスの判断が素晴らしい。


シュバインタイガーが引いてきたエジルにパスを出した後、アンカーが前にでているのを見逃さず、即座にバイタルにフラッシュします。あそこに突然、ロイスが出てきたので、ロイスがあそこでフリーに。そしてその後は、ロイスに2ライン間でフリーでボールを受けられて、ギリシャはそこから一気に崩されました。


レーブのドイツの攻撃は、こういった流れで相手のゾーンディフェンスを崩してくることに特徴があります。サイドに張りっぱなしのWGを使う4231としては、非常に完成度が高いチームでして、得意技は以下のような流れで行います。

1、繋げるCB(フンメルス、バドシュトバー)からWGへ展開し、相手のSBをサイドに引っ張り出し、SBとCBの間にスペースを作る。
2、SBとCBの間にギャップが広がったら、そこにボランチかトップ下がカットする。
3,この動きには大概、相手のボランチを一枚ついてくる。なので、相手ボランチを最終ラインに吸収させ、一時的に相手を5バックに変形させる。
4、相手を5バックに変形させれば中盤にスペースが出来る。そのスペースに他のアタッカーがフラッシュしボールを受ける。
5,フィニッシュでは、たとえばエジルが開けた中央のスペースにロイスがフラッシュし、そこでボールを受ける事に成功したケースでは、エジルはロイスが開けたスペースに走り込み、フィニッシュを担う。このようなバスケットばりのロール&リプレースが頻繁に行われる。


という形です。カット、フラッシュ、ロール&リプレースと、非常にバスケットボールにおける「スプリット」と似た構造の攻撃をするチームでして、完成度が非常に高い攻撃が出来るんです。レーブはアシスタントコーチ時代を含めると8年にわたってドイツ代表をみてきており、8年間かけて、本当に良いチームを作り上げました。以前のドイツとは比較にならないほど洗練されたチームになっているんですね。

何故、CFがあんなに動くようになってきたのかという話と、何でユーロで攻撃がちぐはぐなチームが多数存在したのかって話

さて、ここまで、ドイツの攻撃について説明してきた訳ですけど、ここで、何で、あんなに最近のCFが動くようになってきたのかという話に移ります。ロッシも述べていますが、ユーロ2012では、明確にその傾向がでています。ステーショナリーポストにあたるようなCFのほうが数が少ない大会でして、多くのチームがフラッシュポストを使うチームでした。


基本的な狙いは、ロッシがWSD最新号で述べているので引用しますが、

前方の選手が作り出したスペースにオフザボールで進入し、崩しからフィニッシュを狙う。そんな攻撃のコンセプトを体現していたのはスペインだけではない。ドイツとイタリアもそうだった。


イタリアが最後の30メートルでなかなか縦のダイナミズムを作り出せなかったのは、中盤の構成が適当でなかったからだ。アンドレア・ピルロダニエレ・デ・ロッシチアゴ・モッタは、いずれも前方のスペースにボールを送り込むプレーメーカーで、この三人を4−3−1−2の中盤に配したアイルランド戦は内容がもっとも悪かった。同じ4−3−1−2でも、T・モッタに代わるトップ下にリカルド・モトリーボを入れたイングランド戦は、その点が少なからず改善されていた。


というものです。


ただし、この問題を抱えていたのは、イタリアだけではありません。スペインも少なからず、この問題を抱えていましたし、一番重傷だったのはフランスでした。CFのベンゼマが作ったスペースに進入してフィニッシュを狙う選手が大会を通じていない状況が続き、外でサイドアタッカーがボールもっても、中に誰もいないなんて状況が当たり前のように生まれてました。


こういったフラッシュポストを多用する攻撃は、動いてスペースを作り出すCFの他に、そしてオフザボールに優れたボランチ、トップ下、WGを必要とします。しかし、そういったプレーヤーは、現実問題として、そうそういるもんじゃないし、チームとしての連携を取る為の時間が必要になってきます。


ゾーンディフェンスを崩す方法をドイツを題材にして説明してきたのですが、ゾーンを攻略するには、ゾーンの隙間にポジショニングすること、ボールをもっていないプレーヤーのカット、そしてフラッシュといった動きを利用するのが、現在のサッカーでは定石として広まっています。クラブレベルでは、これはもう一般化しているといっても良いです。バスケでは、もう随分前から、これは普及しているんですが、ここ数年、サッカーにおいても、これが普及しはじめたといっていいと思います。


しかし、代表チームで、これを試みる場合の問題になるのは、チームとしての連携を深める為の時間を与えてもらえないという事です。


また、バスケの話になりますが、シカゴ・ブルズマイケル・ジョーダンのお話です。1987年頃のブルズは、ジョーダンさえ止めてしまえば何とかなるというチームでした。ここでブルズが突き当たったのが「ピストンズの壁」と「ジョーダン・ルール」です。

ピストンズシカゴ・ブルズは、1980年代後半に何度もプレーオフNBAファイナル進出をかけて戦った。バッド・ボーイズと呼ばれたピストンズは、ビル・レインビア、アイザイア・トーマス、リック・マホーン、ジョー・デュマース、デニス・ロッドマンを擁する屈強なディフェンス集団だった。ジョーダンのオフェンス力は高く、インサイドに切り込んだジョーダンを数人がかりで、時にはファールで抑え込むなど精神的・肉体的にジョーダンを苦しめた。なおデュマースはファウルをする汚い選手ではなく紳士的な選手だった。ブルズはオフェンスでジョーダンだけに頼らないトライアングル・オフェンスを取り入れて1991年にカンファレンス決勝でピストンズに勝利する。その年にブルズはNBAファイナルで初優勝した。1992年から1998年までの間、この戦術はニューヨーク・ニックスでも採用された。現在、コービー・ブライアントに同様の戦術が取られることがある。

ジョーダン・ルール


こいつは、wikipediaからの引用ですけど、ピストンズは「ジョーダン・ルール」と呼ばれる守備システムを使うことで、ジョーダンを封じ込め、プレーオフでは、ブルズはピストンズに1988年に続き1989年と連敗してしまいます。


そこで、アシスタントコーチからヘッドコーチに昇格したフィル・ジャクソン導入したのが、かの有名な「トライアングル・オフェンス」でした。


ここも面倒なので、wikipediaから引用しちゃいますが、

トライアングル・オフェンス(英: Triangle offense)は、バスケットボールの攻撃システムのひとつ。 NBAで黄金時代のシカゴ・ブルズ、1999年以降のロサンゼルス・レイカーズなどが使用したことで有名。コート上にいる5人の選手全員を協力させ、非常に多様なバリエーションによって相手の防御の的を絞らせず、効率的に得点するシステムである。

(中略)

このシステムの特徴は、その名の通り3人の選手が三角形を作るように位置し、コートの左右どちらかの側で1人がインサイド、他の2人がアウトサイドに位置してパスを回して攻撃するというものだが、残りの2人もただ反対側に立っているだけではなく全員があらかじめ決められた一連の動きに従って移動し、防御側の隙を作り出すことに特徴がある。一連の動きの中でパスが多用されるが、それ以外にもスクリーン、カットなど多様な技術のバリエーションがあり、それらによって防御側からフリーになる選手を作り出し、より楽に得点を狙う機会を増やすことを目的とする。

バスケットボールの通常のオフェンス・システムの多くは敵とそれぞれ一対一になり、ミスマッチなどをつく事で1箇所で相手を突破することから始まるものが多い。あるいは2人対2人でスクリーン・プレイで相手のマークを外すことから始まるパターンも多用されている。だが、このトライアングル・オフェンスは5人全員が協調して動くことを基本としており、防御側にはより負担が強く、相手の攻撃方法を読みづらくなる長所がある。また、バスケットボールの強いチームに必須と言われてきた強力なセンターやポイントガードといったポジションの選手がいない場合でも強力な攻撃力を発揮することを可能にするものである。1990年代のシカゴ・ブルズの場合がまさにそうだった。

反面、そのシステムは複雑であり、理解して一連の動きを修得し、適切にパスやカット、スクリーンといった技術をこなせないと効果が発揮されない。各選手の一連の動きもあらかじめ全て決まっているものではなく、相手の動きによって変化させるのが当然であるから臨機応変な判断力も必要とされる。また、ある選手が攻撃ができないと判断するとすぐに他の選手にボールを渡さないと他の選手の動きと合わなくなるため、特定の得点力のある選手に長くボールを持たせておけないという短所もある。レイカーズ時代初期のコービー・ブライアントは玉離れが悪く、フィル・ジャクソンによく注意されていた。

こうした一連のシステムを相手に対して有効に働かせるためには極めて多様なバリエーションが必要で、シカゴ・ブルズの時代にはオフェンスのパターンを記載した書類は電話帳くらいの厚さになったという。このためトライアングル・オフェンスを採用したチームはシステムが機能するまでかなりの時間を要し、また新たに加入した選手がシステムに戸惑ってなかなか活躍できないという欠点も合わせて抱えるようになった。


トライアングル・オフェンス


こういうものです。ちなみに、バスケットにおけるトライアングル・オフェンスと酷似した攻撃をするチームがスペインなんですけど、これはスペインの話の時に、詳しく説明します。


なんですけど、「トライアングル・オフェンス」にしろ、最初に説明した「スプリット」にしても、基本的にコート内にいるプレーヤー全員が協調して動くことが求められます。このような「トライアングル・オフェンス」にしろ、「スプリット」にしろ、特徴的なのは、コート内にいるプレーヤー全員がショットを打てるようにデザインされているって所です。だから、DFは守備の的を絞りにくい。ブルズの場合、ジョーダン以外のプレーヤーもショットを打てるようなデザインが行われている為、ジョーダンだけ潰せば勝てるって状況じゃなくなるんです。


これはサッカーにおいてもそうですが、ドイツみたいなチームの場合、CFのクローゼだけ抑えておけばオッケーではありません。エジル、ロイス、シュールレケディラ、ラームあたりにもシュートが打てるようなチームデザインのため、「どこからでも点が取れる」ってチームになってるからです。


反面、こういったチームは、システムが複雑になり、プレーヤーの相互理解が求められる上に、ボランチやSBにまで得点力が求められるようなデザインのため、新しく入ってきた選手がなじみにくく、完成までに時間がかかるという問題を必然的に抱えてしまいます。


ドイツはレーブが長いことチームを見ているので、なんとか完成に近いところまでこぎ着けましたし、スペインも長いことデルボスケが見ているので、どうにかって所まで来てます。ですが、イタリア、フランスは、まだ馴染んでおらず、他の多くのチームも同様でした。


日本代表もそうなんですが、香川なんて、典型的な「フラッシュ」タイプの選手です。ゾーンディフェンスを崩すのに、あれほど役に立つプレースタイルの選手は、実はそうそういません。ある意味、典型的なゾーンディフェンスに滅法強いタイプの選手なんです。ただ、ああいうタイプのプレーヤーは周囲との相互理解が欠かせません。というより、スペインとかドイツみたいに、「どこからでも点がとれる」チームデザインは、練習時間が限られている代表に向いてるのかなあ、というのは当然のように残る疑問なんですよね。機能してない時のイタリアとかフランスとか酷いもんでしたし。


クラブレベルでなら時間がありますから、まだいいんですけど、代表レベルでああいうサッカーをして大丈夫なのかな、というのは当然のようにあるわけなんです。


完成すれば滅法強い反面、チーム作りの時間が限られている代表とかでは、バルサが母体のスペインとか、バイエルンが母体のドイツならともかく、代表選手がばらけている他の国の代表では難しいんじゃないかなあと。。。。


まぁ、今日は、この辺りで終わりにしようと思います。今日はドイツ代表の話でしたが、ドイツの守備の話は、次のイタリアの話の時に扱います。イタリア対ドイツの試合を題材にして、イタリアの攻撃の特徴と、ドイツの守備の問題点、なんでドイツの攻撃は機能しなかったのかみたいな話をする予定です。今回の話には、その為の伏線みたいなモンです。その次はスペイン対イタリアの話をして、スペインの攻撃とイタリアの守備の問題点の話になると思います。


もっとも、途中で書くの嫌になって放り出すかもしれませんけど、そうなったら、そっとしておいてください。途中で書くの嫌になって放り出すことが結構ある人間なので。


ではでは、みなさまごきげんよう。