ドルトムント対ハンブルガーSVのレビュー
えー、本日もサッカーのレビューです。
試合は、ドルトムント対ハンブルガーSV。
香川のハイライトはこちらで見れます。
えー、この試合は5−1でドルトムントがHSVをもうフルボッコにしちゃったんですが、見返してみると、このHSVってチーム、面白い事やってました。なんで、今日は、そっち方面の事を含めてレビューしようかと。
HSVの監督トルステン・フィンクについて
年配のサッカーファンなら、聞き覚えのある方が多いかもしれません。現在、HSVの監督は、かつて、バイエルンで活躍したフィンクがやってます。ちなみに、フィンクは、この間、CLグループリーグを突破して世界を驚かせたバーゼルの監督やってました。で、そうした実績から、開幕から不振にあえいでいたHSVの監督になったんですね。
で、なんですが、フィンクの就任以来、HSVは、実は一度も負けてませんでした。2勝4分で、その前に2勝2分6敗であった事を考えれば、短期間での再建に成功してます。
HSVは、開幕でドルトムントにフルボッコにされてたイメージが強くて迷走してると思ってたんで、今回のチームみて驚きました。というのも、内容的にはドルトムントの完勝でしたが、ドルトムントが頻繁に崩されてたからです。普段の試合だと、ドルトムントの守備は非常に堅く、滅多な事だと崩されません。それが、しょっちゅうやられてたんで、驚いたんです。
そのあたりも含めて、見返しながら、チェックしてたんですけど、このフィンク監督さん、結構な切れ者だなと。バーゼルで2010,2011年とリーグを連覇しただけあるし、スイス代表監督のヒッツフェルトが「彼は最高の監督だ。いずれはバイエルンを率いることになるだろう」って言ってただけあるなーと思ったんです。
今回は、ドルトムントにボロ負けしちゃったけど、彼がチームを率いていれば、来年には、ドルトムントにとって、手強い相手になれると思った次第です。実際、バーゼルを凄く強いチームに仕上げてるし。
スコアは5−1だったけど、あれだけ選手の実力差があるにも関わらず、ドルの守備を崩せる攻撃をしてたのは凄いなと思いました。
今回のマッチアップ
さて、今回のマッチアップですが
こうなってました。HSVの方は、アオゴとゲレーロは、有名ですよね。ドルはいつもの布陣です。香川はトップ下に入ってます。ただ、ゲッツェが怪我しているので、右ウィングにはクバが入ってます。
さて、この布陣なんですが、HSVは、4231バリアントとでも言うべきスタイルで、ポゼッション時には、こんな感じに変形します。
まず、ビルドアップの時は、ボランチのリンコンが最終ラインに下がってCBがサイドに開き、3バックを形成します。それに伴って、SBは高い位置を取ります。
そして、両SHは中央に絞ってきます。両SBが高い位置を取るため、SHは、かなり自由に動けます。なんで、中央には4人がいました。
このスタイルは、Jリーグでは、セレッソや柏レイソルが使うのでお馴染みですね。
このスタイルの場合、まず、ポゼッション時には、3バックを形成して、相手の2トップのプレスを回避します。このケースでは、香川とレバンドフスキーのプレスを3バックで回避します。もっとも、3バックにならず、GKを使うこともありました。こんな感じです。
で、ファーストプレスを外したら、サイドに開いたCBからSBにボールを入れるか、中央のボランチの所にボールを入れて行きます。あるいは、FWにロングボールを入れて、それを中央の選手に落とすやり方を取ります。
ドルトムントは、442でプレスをかけてくるので、こういう形で、ポジションチェンジを行い、プレス回避を試みたわけです。
この形は、442のプレス回避策としては、オーソドックスですが強力です。
ただ、このスタイルは、セレッソや柏レイソルにおいてもそうですが、SBが高い位置を取るため、カウンターに弱いです。SBの裏のスペースがガラ空きなんで、そこを使われるとカウンターに脆くなります。
ちなみに、そのケアの為でしょうが、バーゼルも柏レイソルと同じように、ボランチは基本、攻撃参加をしません。CBの前に二人が居座って、カウンターに備えています。
ドルトムントのHSV対策。サイドバックは捨てるぜ。
さて、ですが、ドルトムントのほうですが、このHSVのやり方については、事前にスカウティングで分析していたようです。
・フンメルス、守備の重要性を語る
Derwesten紙のインタビューから。試合後の話から
(1-5と大勝でした)
「前もって我々の予想した試合運びをハンブルガーはしてきた。彼らはビルドアップしようとしたがボールを失って、それを利用することができた。それが90分間素晴らしくプレーできたし作戦がうまくいったなと思う」
彼らが、442のプレス外しのためのポジションチェンジをしてくるってのは、予想していたようで。
通常、こういうプレス回避のポジションチェンジをされると、問題が起こるのがこういう形です。
まず、両SHが中央に絞ってくると、そいつらを誰が見るのか、チームで混乱が起こりやすいです。また、この形は、中央やサイドで、442に対して数的優位を作りやすい。白いエリアで囲った部分ですが、ああいう形で局所的に数的優位を作られやすいんです。
ポジションチェンジでマークを混乱させる、サイドに3人集める、SHを中央に絞らせて数的優位を創り出す。ポゼッションサッカーでよく使われる手ですね。
この日、HSVはポゼッションサッカーで、ドルトムントに挑んで来ました。最終ラインから、繋いで来るサッカーです。こういう相手は、ブンデスだとあんまいないので、ちょっと新鮮でした。過激なやり方なんですね。
で、ですが、ここからが、ドルトムントが行った方法です。SB放置でした。この日のドルトムントのプレスですが、こんな事やってました。
ドルトムントのプレスですけね。フィンクもちょいとびっくりしたかもしれません。
どういう事かというと、まず、中央に絞るSHは、SBが中央に絞ってマークする。で、中央のボランチにボールが入ったら、香川、クバ、グロスクロイツ、ベンダー、ケールの5人で囲みに行くというクレージープレスです。なんでクレージーかっていうと、
こんな事になるからです。HSVは、両SBを高い位置においてましたが、ボールが中央に出たら、ドルトムントは、そのSBをほぼ放置して、クバとグロスクロイツはSBへのパスコースを切りつつ、中央のボランチに襲いかかってました。ドルのSBは、中央に絞る相手SHをマークしてるんで、結果として、両陣営、SBのポジションがガラ空きなんです。
要するに、お互いに、サイド捨ててるわけですよ。
はっきりいって、どっちの監督もクレージーです。ドルトムントのクロップは、プレスを回避されて、サイドでドフリーのSBに展開されたら、即大ピンチだって、わかってて、この作戦たてたんでしょう。ええ、プレス交わされたら大ピンチです。プレス交わされて、サイドに出されたら、SBがほぼフリーでクロス上げられるわけです。それを覚悟で、ボランチの所に人を集めた。
で、HSVのフィンクもクレージー。ドルトムントみたいに強力なハイラインプレスかけてくるチーム相手にポゼッションで対抗しようとか、冗談もほどほどに。ボランチの所でボール奪われたら、即、数的同数でのカウンター食らいます。さらに、SBの裏はガラ空きだから、これほどショートカウンターやりやすいチームはありません。
というわけで、双方の監督は、相当にクレージーでした。自分たちのサッカーするんだ!!って気概がビシビシ伝わってきます。
戦術レベルでは、どっちも攻撃的です。相当なリスクを背負って攻撃しようとしている。こういうチーム同士の対決の場合、HSVのプレス回避力と、ドルのハイラインプレスのどっちが勝つかという話です。HSVが上手くプレス回避すれば、サイドのSBは、ほぼドフリーなので、そこを起点にしてクロスで勝負を決めれます。一方、ドルは、ボランチの所でボールを奪えれば、SBの裏を使ってカウンターできます。ポゼッション対ハイラインプレス。さて、どうなるかなと。
HSVのプレス回避とドルトムントの守備の話
さて、なんですが、ここからは、両チームのキャプでやります。最初に書いておきますが、ドルトムントは、かなりアグレッシブにプレスを行うチームです。こーいうチームは、守備で、アグレッシブに数的優位を作ってボールを奪おうとします。なので、どこかを捨てないといけません。そして、その捨ててる場所に出されると、一気にピンチに陥ります。この試合では、そういうシーンが時々ありました。
まず、最初がこのシーン。この後も、時々、ドルトムントは、左サイドから右サイドに振られた時に、脆さをみせていました。ドルトムントは、ボールを奪う為、相手をサイドに追い込んだら、最終ラインも含めてアグレッシブにサイドにスライドします。そのため、逆サイドはスッカスカになります。ここは捨ててるんですね。
なので、サイドチェンジを上手く使われると、非常にきつくなります。ただ、キャプにも書き入れましたが、これはボールを高い位置で奪ってカウンターをしたい為であって、別に悪い事ではありません。そういうチームだってだけです。
さて、㌦がもう一つ、弱いのがこの形。
これですね。HSVは、3バックを形成すれば、CBか、降りてきたボランチの一人はフリーになれます。なんで、そこから、ロングフィードを中央にいれてから、セカンドボールを拾い、サイドのSBへ展開するという形です。
ただ、これにはクロップは保険をかけてます。ドルトムントの4バックは、全員、高さがあります。CB二人は190超えです。ボランチ二人も高さがあるので、ロングボールを入れても、大概、跳ね返せるって事です。
ドルトムントのプレスの話になるのですが、ドルトムントのプレスは、ボランチへのプレスを優先してるのが特徴です。ドルのSHは、初期配置では中央に絞り気味の位置をとり、ボランチにボールが入ったら、SH、トップ下、ボランチで囲い込みに行きます。なので、SBにボールがでると、SBには時間とスペースがあります。
そこで、SBを下がり気味の位置において、そこからロングボールを入れるってチームは結構ありますが、クロップの保険が利いてて、なかなか上手くいきません。
また、日本代表みたいにSBとCBの間にボランチが降りてきてボール貰うビルドアップも、ドルの守備陣がサイドに素早くスライドしてくるので数的優位を作る事は難しいです。なんで、ドルとやる場合、サイドチェンジを有効に使えるかどうかがキーになります。ドルの守備をサイドにスライドさせてからサイドチェンジできるボランチがいたら、ドルは危ないです。
この日、HSVは、サイドチェンジを有効に使えてませんでした。時々、上手くやれることがありましたが、まだ、チームとして、その辺りの判断が上手くできていませんでした。HSVに遠藤と香川がいれば、又、違ったでしょうけどね。リンコンは、その辺り、ちょっときつそーでした。
ドルトムントのカウンター。
さて、ドルトムントの方ですが、この日、狙いは、ボランチの所でした。ボランチの所に入ったら、中盤の5人が一気にボランチに襲いかかってました。こんな形です。
はっきりいって、この場面では、ドルの中盤4人におもいっきり狙われているのに、中央にいれちゃうんですよね。普通、そこではいれませんがな。また、11分の場面でも、HSVは無理なパスをボランチにいれていて、
こんな感じで、絵に描いたようなショートカウンター食らってました。いやね、HSVの狙いもわかるんですよ。HSVは、ボランチの所にいれて、サイドでフリーになってるSBにボールを展開したい。そうすれば、SBはほぼフリーでクロスあげられます。
ただ、クロップは、そのリスクを承知で、ボランチを囲みに行かせたわけです。で、HSVは、ドルトムントのハイプレスの勢いをいなせなかった。結局、ドルのほうが長い事、このサッカーをしているわけで、チームの完成度に差がありすぎるんです。
これ、バルサが相手だったら、別ですよ。バルサなら、ドルのハイプレス交わして、サイドチェンジを入れて、ダニアウベスまでボール運べます。クロップが「バルサには勝てないね」って言ってますが、あれは自分のサッカーの弱点をよーく知ってるから言えるんです。バルサの得意の形ですけど、ピケ、プジョル、ブスケッツの3人でドルトムントの2トップのプレスを回避し、左でポゼッションしてから、右のダニ・アウベスにサイドチェンジって形をやられたら、ドルトムントは守りきれません。ブンデスには、こういう事できるチームがありません。HSVは、それをやろうとしてたけど、上手くいきませんでした。チームの完成度が低すぎたんですね。
で、ドルの先制&香川のアシストシーンです。
結局、パスカットからのショートカウンターで、HSVはやられた訳です。この日、ドルトムントのボランチ、ベンダーが絶好調で、もう効きまくってました。パスをカットし、ショートカウンターの起点として大活躍です。このベンダーって選手、ドルトムントの守備の要といって良い選手です。とにかく、危機察知能力が高く、ボール奪取能力、カバーリングと、とにかく質が高い。
ちょっと寄り道的な話ですが、ベンダーがいなくなると、ドルトムントはラインを上げて守るのがきつくなります。
実は、ドルトムントのCBのフンメルスは、たった一つだけ弱点があって、若干スピードに欠けています。ブンデス公式みればわかりますが、フンメルスのトップスピードは、30キロくらいで、これ、あまりスピードがある選手だとは言えない数値です。トップクラスの選手だと、32キロくらい出せるので、フンメルスは、そういう選手相手にはきつい。マリオ・ゴメスとかは、でかい癖に32キロ以上だすので、プレスが緩むと、フンメルスは、ライン上げて守るのはきつい為、ラインを下げてしまう事があります。そういう事情があるので、ベンダーの能力は、ドルにとって極めて重要なんです。アーセナル戦で、彼が負傷退場してから、ドルトムントは、プレスを上手くかけれなくなりましたが、彼一人いるかいないかで、ドルのラインの高さに影響がでます。
そして、もう一つ、なんでクロップがスボティッチを使うかって話なんですが、スボティッチって選手、でかい癖に速いんですわ。スボティッチは、トップスピードで32キロくらい出せる。スボティッチとフンメルスは、言ってみれば補完関係にあるんですね。
ちなみに、ドイツ代表でフンメルスを使うなら、速いCBと組ませないと危ないです。フンメルスの唯一といっていい欠点は、スピードがさほど無い所で(時速32キロ出せるようなFWやトップ下、セカンドトップ相手はきつい)、そこを補完できる選手を使うべきなんです。ただ、ドイツ代表のCBは、軒並み、そんなスピードがないのが欠点で、ここはしばしば指摘される欠点だったりします。対人には強いが、スピードはそんなに無いというのは、プジョルにちょっと似てますね。
ちなみに、香川は、大体トップスピードでは29〜31キロくらいです。
HSVは引けば守りきれたかって話
それで、なんですけど、この試合、大差になったのは、HSVのポゼッションが拙く、ドルトムントのハイプレスに絡め取られてショートカウンターを食らいまくった事なんですが、それと、もう一つ、見逃せないのが、この日のドルトムントの攻守の切り替えの速度が異常に速かった事です。これに全く、HSVがついていけませんでした。
ドルトムントは、ボールを奪うと、ボランチが即、レバンドフスキと香川に展開し、両翼が押し上げてました。このスピードに全く、HSVはついていけなかった。ボランチやSBの切り替えが遅くて、これじゃ、きついなと。SBは高い位置とってるからしょうがないとしても・・・・
このシーンですけどね。SBは高い位置とってるから、しょうがないという言い訳はできますが、その後がよくない。ボランチ二人も、あっさり香川に振り切られて、クバにボールが出た時に、最終ラインで数的不利じゃんっていう。
攻守が切り替わったとき、ボランチがあんなんじゃ、守りきれるわけありませんわ。
ただ、引けば守り切れたというと、これが又、話が別でして。ドルトムントが遅攻したシーンは数えるほどしかないんですけど、そこでもあっさり崩されてるんですよね。
このシーンですけど、典型的なブンデス守備って、僕が呼んでる奴です。SBとCBの間がスッカスカ。しかも、このケースだと、香川の動きだしをボランチのどっちかが捕まえないといけないのに、簡単にマーク外されて裏に飛び出されてます。これ、もう一つ、同じようなシーンがあって、
これですね。53分のシーンで、香川にあっさりと右SBと右CBの間から抜け出された事もあり、4バックの間隔を詰めようとしたんでしょうが、その動きに、左CBと左SBが連動しないんです。ブンデスの4バックって、どうにもマンマーク気味でやってるようで、人についてればOKって考えなんでしょうかね。あれだと、2列目、3列目からの飛び出しに対応しきれないでしょっていう。なんで、あそこに飛び出して来られるとCBが対応仕切れるわけがない。もっとも、ベンダーの動き出しの速さは褒められるべきですけどね。香川に出せば、SBが出てくるってのを読んで、4バックの隙間に走り込み、香川からのパスを引き出したわけですから。
HSV監督を責めるのは簡単だけど・・・・
ドルトムント相手にポゼッションサッカーで挑んだ事を無謀として、監督を責めるのは簡単です。
ただ、はっきりいって、こういったシーンを見れば、ドルトムント相手に引いて守れるチームじゃあ、ありません。なんで、フィンクが攻撃的にいこうと思ったのも無理ないなと僕は思うわけです。引いて守っても、4バックとボランチがあんな調子じゃ、守りきれる訳がない。
去年のボルシアMGもそうでしたが、この手のブンデス守備から、切り替えるのは時間かかります。ただ、時間はかかるけど、きちんと整備すれば出来ない事はないんです。今じゃ、ボルシアMG、ブンデスで一番堅いチームだし。
最初にも述べましたが、HSVに関しては、結構見込みがあるチームです。監督さん、面白い事やってます。なんで、これから、定期的にチェックしてみようかと思ったチームです。ドルトムントの欠点は見抜いてるんです。ただ、チームに彼のプランを実行するだけの力がまだなかったし、引いて守るにも、守備の約束事がチームで徹底できてない。攻守の切り替えは遅いし、2列目、3列目の飛び出しにだれがついていくかも曖昧っていうね。
今回は、ドルトムントにボロ負けしてましたが、あと1年も、じっくりチームを率いれば、かなりのチームに仕上げれるんではないかと。
今日はそんな所で。