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ブラッターがFIFA会長に再選したんで、FIFAの話をするよ

さて、本日はFIFAの話である。


ちょっと前から、



www.47news.jp



こんな具合のFIFAの汚職関連のニュースがサッカー論壇では話題になりまくっており、そろそろ僕も一つエントリ書いておこうと思った次第である。ざーっと、話題になった記事を読んだ感じ、FIFAの内部の政治について、詳しく書いてる記事がそんななかったので、今回の記事は、そっちに焦点あてて書こうと思う次第である。



www3.nhk.or.jp



ちなみに、ブラッターなんだが、UEFAのプラティニに「辞任したら?」とか言われつつ、あっさり当選をキメてしまった。ブラッターの政治力マジ半端ない。



今回のFIFAの汚職話なんだけど、その前にFIFAの組織の話


まず、この話から始めよう。



今回のFIFAのスキャンダルが出た時、FIFAの組織の話が全然話題になっていなかったので、まずココから入る。これを理解しないと、今回の話は理解できないからだ。


FIFA(国際サッカー連盟)には6つの大陸連盟が存在し、その内訳は

  • アジアサッカー連盟(AFC) 46 members
  • アフリカサッカー連盟(CAF)54 members
  • 欧州サッカー連盟(UEFA) 53 members
  • オセアニアサッカー連盟(OFC)11 members
  • 北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)41 members
  • 南米サッカー連盟(CONMEBOL) 10 members


こうなっている。今回、のFIFA会長選は、この6つ大陸連盟に存在する215の協会の投票によって決定される事になった訳だ。会長選については、各協会一票が原則であり、一つの国の中に複数の協会をもつことが許されているイングランド以外、複数票をもっている国ってのは原則存在しない。


ブラッターの権力を支えているのは、この中で、アジア、アフリカ、北中米カリブになる。基本的に第三世界でブラッターは受けが良い。なんでかというと、W杯で得た莫大な放映権料をアジア、アフリカ、北中米カリブなどに特に手厚く配分してくれる上に、アジアやアフリカにW杯をもってきてくれた功労者と見られているからだ。


このFIFAの全加盟国が参加し、意志決定が行われるのが「総会」になる。FIFAの意志決定機関がココだ。だが、ここでのポイントとして、総会はW杯の開催国を決定する権限をもってないってのがある。


じゃあ、一体、どこがW杯の開催国を決めているのか?


ここで、FIFAの最大の仕事の話に移る。FIFAの存在意義とは、「FIFAワールドカップの主催」、これに尽きるんだが、ココにちょっとしたカラクリが存在する。開催国を決める権限をもっている場所、それがFIFA理事会だ。理事会の内訳は

FIFA理事会

会長   1名
副会長  8名
理事  15名  

計24名

となっている。この24名がワールドカップの開催国を選ぶ権限をもっている、いわばキーマンとなる。ここでポイントになるのが、各大陸連盟が送り込める理事の数である。普通に考えれば、大陸連盟に所属する協会数で決まりそうなもんだが、実はそうなっていない。各大陸連盟から出せる理事の数をまとめると、


  • アジアサッカー連盟(AFC) 理事4名
  • アフリカサッカー連盟(CAF)理事4名
  • 欧州サッカー連盟(UEFA)  理事8名
  • オセアニアサッカー連盟(OFC)理事1名
  • 北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)理事3名
  • 南米サッカー連盟(CONMEBOL) 理事3名

となっている。これら理事23名+FIFA会長がW杯開催国を決める投票権を持っている訳だ。ちなみに、開催国になりたい場合、理事会の多数決で過半数を取れば良い。


これが何を意味するのかというと、欧州の8票は絶対的な票田となるって事である。欧州は、自分の所と会長、それにアジアかアフリカを抱き込んでしまえば、過半数の13票を抑えることができてしまうのだ。 つまり、その気になれば欧州は延々と、てめえの地域でW杯を開催しつづける事ができなくもない。


これははっきりさせておきたい事なんだけれど、W杯で一番美味い汁吸ってる地域は欧州だって事。過去20大会中、10回の大会は欧州で行われており、W杯開催については、欧州が圧倒的に有利になるようにシステムが出来ているのだ。これがFIFAの一番糞なシステムだと僕は思っている。欧州に有利すぎるのだ。


そして、W杯の出場枠。ここも欧州が13、アフリカは5、アジアと南米は4.5、北中米カリブ海3.5、オセアニア0.5となっており、欧州が基本的に優遇されてるんである。



この欧州の凄まじい俺様っぷりに、反感は当然でる。というか、アジアとアフリカ、南米にとって、欧州の欧州による欧州のためのFIFAワールドカップという構図は我慢できないモンだからだ。美味しい所はほとんど欧州がもっていく。地域別開催数を市場シェアとすると、欧州の市場シェアは50%であり、独占禁止法違反である。



そして、ここに目をつけたのが、前FIFA会長のアベランジェ(ブラジル人)となっている。彼は、1974年の会長選において、W杯の出場国を16から24に増やし、その増加分をアジアとアフリカと振り当てるという公約を掲げて、当選を果たした。初のヨーロッパ人以外のFIFA会長が、ここに誕生した訳だ。



その後もアベランジェは数々のスポンサーを獲得しながらFIFAの収入を増やし、それをアジアやアフリカに分配していく事でアジア・アフリカからの絶対的な支持を得ることに成功していく。そして、この路線を引き継いだのが現FIFA会長のブラッターであり、この二人がいなければ、2002年の日韓共催W杯、2010年の南アフリカW杯はなかったかもしれない。アジアでのW杯、アフリカでのW杯ってのは、この二人の権力基盤がアジアとアフリカにあったからだと言っても言いほどなのだ。


基本的に、FIFAの構図としては、欧州対その他、という構図になっており、理事会で8票の大票田をもつ欧州をどう味方につけるか、どう切り崩すかのかってのが、FIFA理事会における最大のゲームとなっている。




FIFA理事会でのゲームの歴史


こっからは、FIFA理事会で実際に行われた、面白いこぼれ話の紹介になる。



まず最初にヨーロッパの票田を抑えることが重要ってのは、1962年大会の開催国となったチリのケースが典型的となる。この大会では、アルゼンチンとチリが招致合戦を繰り広げたんだが、この時にチリのほうがヨーロッパの票田を抑えるのに成功し、アルゼンチンに大差をつけて開催権をゲットしているからだ。裏で何したのかは知らない。まあ、察しはつくけどね。



次が2000年のドイツ対南アフリカの決戦投票の際の話。理事会は真っ二つに割れており、事前の票読みでは12対12の同数だった。この場合、会長がキャスティングボードをもつんだが、ブラッターは南アフリカ開催を支持していたので、投票が行われれば、2006年のW杯は南アフリカ開催で決定するはずだった・・・・のだが。ここで、投票の直前になって、オセアニアサッカー連盟のデンプシー理事が棄権。これによって、南アフリカは1票を失い、決戦投票では12対11でドイツが勝利した。これによって、2006年のドイツ開催が決定した訳だ。ちなみに、デンプシー理事は脅迫まがいの投票依頼を受けていたとされる。オセアニアは、FIFAにおいて、一番立場が弱く、しばしば、この手の理不尽な争いに巻き込まれる。



ただ、やっぱり忘れちゃいけないのは日韓共催W杯のアレである。この話は色んな本で扱われているので、流れだけ説明しておく。

  • 1990年代に入ると、UEFAはCLの開催によって莫大な収入を得ることが出来るようになってきた。
  • 莫大な収入をえたUEFAは、その気になればFIFAにおけるアベランジェ会長の票田だったアジア・アフリカを切り崩す事も可能に。
  • アベランジェは高齢で次の会長選には出馬しないと思われていた。
  • そこに日本と韓国のWカップの招致活動が絡んでくる。
  • 日本はアベランジェ会長の後ろ盾を得ており、単独開催を狙っていた。
  • 韓国は後発だったが、アベランジェ派の切り崩しと次の会長を擁立したいUEFAの思惑を利用し、欧州の8票の確保に成功する。
  • 欧州にとっては、次の会長選でアベランジェ派を倒すため、アベランジェの政治的威信を傷つける意図があった。
  • 日本はいつの間にはFIFA理事会のグレート・ゲームに巻き込まれていた。
  • アベランジェは日本の単独開催を推していたが、UEFAが反旗を翻したことを知る。
  • 決戦投票前の票読みでは、欧州票を得た韓国がリード。
  • 韓国と欧州、アベランジェと日本の最終的な落としどころは、「共同開催」に。

という流れだった。基本的に、欧州票をもっていかれてしまうと厳しいのは。チリ対アルヘンの招致合戦の時と同じである。



ちなみにドイツW杯の場合、AFCはドイツ支持に回ったが、その事でアフリカ連盟を敵に回してしまい、それ以降、交流戦やめます宣言をされてしまった。開催投票で、どっちにつくかは、その後の諸々に関係してくるので、勝ち馬に乗らないと偉い事になる。このあたりも政治と同じ。



最後に、カタールW杯の票読みをやってみよう。



2022 FIFAワールドカップ - Wikipedia



↑にあるけど、カタールW杯の時の開催国選定の経緯はかなり面白い。



まず、理事会の前に、英国紙のおとり取材にひっかかって買収疑惑が発覚し、2人の理事がいなくなった。つまり22名での投票となった。この時、最初の投票結果が、



カタール11票
アメリカ3票
韓国4票
日本3票
オーストラリア1票



となった。この時、面白いんはカタールの票数である。11票。買収疑惑発覚で職務停止された理事がカタールに入れてれば、13票となり、最初の投票で過半数を取れていたことになる。


ぶっちゃけ、このおとり取材、絶対に政治的な意図があったよね、という奴である。カタールにいれるはずだった理事を狙いうちにしてるあたり、すっごいアレな香りがぷんぷんする。カタールとしては、最初の投票で決めてしまえるように、13票確保していたはずである。おもに買収で。



もっともイングランドはW杯の招致活動で毎回負けてるので、単なる逆恨みかもしんないが。つーか、プレミアは金もってるんだから、W杯開きたいなら、少しはばらまけよ。



で、2回目の投票は、


カタール10票
アメリカ5票
韓国5票
日本2票



となった。この時のカタールの心の内を想像するだけで笑えてくる。事前にプラティニとサルコジに多大な支払いを約束して欧州票のとりまとめまで頼んだはずなのに10票である。どこかがカタールを裏切ったのだ。こうなったら、カタールはさらに札束積むしかない。他所の理事の皆さんは笑いが止まらない。カタールから最後の一滴まで搾り取るチャンス到来である。この投票後なら、どんな賄賂だって要求できるぜ兄弟。



そして、3回目は


カタール11票
アメリカ6票
韓国5票



こうなった。カタールはブラッターを取り込んでるから、同数になればカタールの勝ちである。11票確保した時点で、カタールの勝ちはほぼ確定した。



最後の決戦投票は、



カタール14票
アメリカ8票



となってカタールの大勝利。3回目の投票でカタールの勝利はほぼ確定していたので、決戦投票にはあまり意味がない。




となっている。この手のFIFA理事会の票読みは、中々面白い。



最後に今回の一件のアレ

さて、最後に今回の一件で逮捕された連中のリストはってーと、


www.footballchannel.jp



こっちで見られるが、見事なまでに北中米カリブ、南米の理事狙いうちである。ここはブラッターの支持母体の一つだから、会長選での切り崩しとしかいいようがない。実際、南米票は割れたみたいだし。


こういってはなんだが、FIFA会長選、FIFAW杯開催地決定投票の前には、大概、この手のスキャンダルが出てくるようになってる。ブラッター陣営にダメージを与える為に、メディアを使うってのがもはや恒例行事となっており、明らかに反ブラッター陣営がメディアに情報をリークしてるよね、という奴である。もうドロドロのグチョグチョの権力闘争である。2002年の会長選の時も、ブラッターとアベランジェの買収疑惑が出ていたし、その前のアメリカW杯、メキシコW杯はアベランジェの権力できめたよーなモンだし。



ただ、それでもなお、ブラッターが支持される理由ってのが、結局、「アジアとアフリカにW杯もってきてくれるから」というのが最大の理由なんである。これによって、アジアとアフリカの票を取り込んでいるので、ブラッターは結局勝つわけだ。それが面白くないのが欧州の連中だ。



今回も会長選で、反ブラッターによる凄まじいアレが行われたけど、結局ブラッターは勝ってしまった。



今回、これほどスキャンダルまみれになったのに、なんでブラッターが勝ったの?と不思議に思う人がいるかもしれないけれど、それにはこんな背景があるんですよ、とまあ、そういうお話なのでしたとさ。





眠くなってきたし、今日はこの辺で。ではでは。