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書評「知られざるペップ・グアルディオラ」

さて、皆さん、こんにちは。本日は、書評の方をやりたいと思います。今回扱う本ですが、先日発売された、


知られざるペップ・グアルディオラ サッカーを進化させた若き名将の肖像

知られざるペップ・グアルディオラ サッカーを進化させた若き名将の肖像


こっちの本になります。



本の内容なんですが、現・バイエルン監督のグアルディオラの半生を追った本でして、グアルディオラの生まれからバイエルンと契約するまでの彼の軌跡を追った本となっています。

【目次】

サー・アレックス・ファーガソンによるまえがき

[序章]ローマとニヨンでのハイライト/ローマでの欧州制覇/サー・アレックス・ファーガソンへの返答

[1章]なぜバルサを去らなければならなかったのか?/いくつかの理由 他

[2章]村の広場からカンプ・ノウの監督室へ/北スタンド7列目からバルサの象徴へ/バルセロナから外の世界へ 他

[3章]バルセロナの監督として/伝説の始まり方/2つのきっかけ/選手たちとの愛憎劇/赤い悪魔との2度の欧州頂上決戦/モウリーニョとの関係――抱擁から確執へ 他

[4章]なぜバイエルンを選択したのか?/充電期間と、様々な噂/故郷を遠く離れ、ミュンヘン

[補章]ペップとバルサ原風景と功績

バルサ関連の書籍は沢山出ているので、内容的には、結構知っている事も多かったのです。特に、バルサのトレーニング内容とか、その歴史なんかは、ネットで読める記事でも十分補える時代ですからね。



でもって、この本の中で、グアルディオラという選手・監督がどうやって形作られたかってのは、本の中で、ヨハン・クライフが簡単にまとめてくれているので、そっちを引用しときます。

クライフは言う。「グアルディオラは賢くならなければいけなかった。あの頃の彼には、それ以外に選択肢が残されていなかった。彼は少し私に似ていたかもしれない。相手の選手と身体がぶつかり合うのを避けるためにはテクニックを磨き、ボールを素早く動かさなければならない。周囲を見極める力も必要になる。ドミノ効果だよ。そういう努力をしているうちに、細部が鮮明に見えてくるようになるんだ。これは選手にも、そして監督にも当てはまる。グアルディオラは細身の体格のおかげで、こういう考え方を学ぶことができた。同じことを経験した監督に出会えたことも、運がよかったかもしれない。」

グアルディオラは選手として、又監督として、ヨハン・クライフとカルロス・レシャックの二人に強く影響を受けたと言ってますし、監督になってからは、特にフアン・マヌエル・リージョから多くを学んでいます。リージョは監督として、タイトルを沢山取ってはいませんが、若い頃から監督をやっており、グアルディオラは、監督になってから、わからない事(特に守備面)がある度に彼に電話しています。もっとも、このあたりは、すでに知っていたので割愛。



この本で、僕がほとんど知らなかった為、「あー、そういう経緯だったのか」と思ったのは、何と言っても、ペップがバルセロナのBチームを率いる事になった経緯と、その間にどんな事してたかって事です。こっちは、ほとんどメディアが注目してこなかったので、内実を全然知らなかったからです。


バルサBチーム時代のペップ


これ、僕は全然知らなかったので、「へー」的エピソード満載でした。


「Bチームを頼む。テルセーラ・ディビシオン(スペインの4部相当)の」
「何だって?おかしいんじゃないか?あそこは勝ち目がない。トップチームで優勝するほうが、Bチームを昇格させるよりも簡単だよ!」


これは、本に載っているペップがバルサBに就任する前に行われたやりとりの一部です。2007年当時、バルサBは、リーグ戦で苦戦しており、4部に降格したばかりでした。ペップに対して、バルセロナのディレクターだったベギリスタインは、スポーツディレクターの職を提供して戻ってきてもらおうとしたんですが、ペップはこれを辞退し、変わりにBチームの監督職を求めます。これが、監督ペップ・グアルディオラのキャリアの始まりです。



現役引退後、グアルディオラは監督の勉強を続けており、リージョや、時にビエルサから監督としての話を聞いてまわっていました。そして、ついに、バルサBで監督職につくことになるわけです。



ペップはバルサBと、当時四部にあったバルサCのチームを一つに統合、その過程で選手の首切りという厄介な仕事もこなしつつ、チームを作っていきます。


しかし、監督として初めて挑んだバニョレスとの親善試合で負けてしまいます。


そこで、クライフにアドバイスを貰いに行くわけです。ここで、クライフのアドバイスが実に面白くて、


「チームの中に二人、僕がコントロールできる自信がない選手がいるんです。僕の言うことを聞かないし、そのせいで他の選手も同じような態度を取るようになってしまう。問題は、この二人がチームの中でリーダー的な存在であり、実力的にもトップクラスだということです。彼らがいなければ、きっと試合で負けてしまいます。」


クライフの返事は簡潔だった。


「二人を外せばよい。一試合か二試合は負けるかもしれないが、いずれチームは勝ち始める。その頃には、二人のろくでなしをチームから追い出せるさ」

って具合です。まあ、容赦ありません。でもって、ペップはアドバイスに従って、二人を外し、監督としての威厳をみせつけます。その後、カディスからチコを獲得してから、チームの調子は上向き、ペドロの成長、シーズン後半に加わったブスケッツと共に、バルサBを昇格に導くわけですね。



で、バルサBで監督修行を積んでたペップなんですが、彼がバルサのトップチームでもやれるという確信を抱いたのが、当時、ライカールト時代末期のトップチームと行った非公開練習だったそうです。バルサBチームは、トップチームを翻弄。これによって、ペップは自分でもやれるという確信を抱きます。もっとも、当時のバルサのトップチームは、ロナウジーニョナイトライフに溺れ、デコは精細を欠き、ロッカールームが完全に分裂寸前の状況だったのですけども。



この活躍が、バルサのフロントの目にとまり、ペップはバルサの監督へと導かれていきます。


バルサ監督として

さて、バルサ監督になったペップなんですが、ここでいきなりオオナタを振るいます。ロナウジーニョとデコを放出。エトーも放出候補になりますが、ここは翌年まで持ち越されました。このあたりは、Bチームの時と一緒なんですよね。最初に前監督時代のエースから切る、という。このあたりは、バイヤンの監督になってからも変わってません。いきなりマリオ・ゴメス切りましたから。(追記:コメント欄で指摘頂きましたが、マリオ・ゴメスの移籍にはそれほどペップの意見は入っていないようです)


これ、もうなんつーか、ペップが監督に就任する時の儀式となるかもしれません。移籍先のチームのエースをまずいきなり切るって形で。監督として威厳をみせつけて、誰がボスなのかわかりやすく知らしめるには、チームのエースを最初に切るってのは確かに、わかりやすいやり方ではあります。



これね、残酷なやり方に思えるかもしれないですけど、ビエルサもペップに「選手には断固たる態度で臨まねばならない」ってアドバイスしてます。また、スペインのサッカーには「(監督に)ベッドを用意する」って隠語があります。これは「わざと負けて解任に追い込む」って意味でして、選手をコントロール出来ない監督を待つ運命はコレです。


実は、選手時代、ペップも、自身がある意味でこれをやらかしていて、ボビー・ロブソン時代のバルセロナの時、グアルディオラは、ロブソンがあまりにアレなんで、自分達でチームをマネジメントしていく事になります。(ロブソンと言えば、「戦術がない」と批判された時に、「私の戦術はロナウドだ」と言い返したのであまりに有名)


監督が選手をコントロール出来ないと、どうなるかってのは、ペップ自身が一番よくわかっている事なわけです。


これ、ペップは、バルサ監督になった時にもクライフにアドバイス貰っているので、引用しますが、

「目標となるのは、サッカーの”ABC”をそれぞれの選手に伝えていくことだ。インサイドの選手なら、インサイドの選手がやるべきことと、やらなくて良いことを伝える。それだけで良い。そしてインサイドの選手がやるべきことを理解したら、次にはバリエーションを考えさせる。それが上手くいかなかったら、また”ABC”に戻ってやり直す。最も重要なのはルールを与えることだ。選手は自分達が知っている事しか出来ない。だから、彼らのクォリティを高めることが大事になる。サッカー選手は、自分がやっていることに信念を持っていなければならない。仮に選手が自信過剰になってドリブルを仕掛け、ボールを取られてしまったとしよう。それでも、失敗を恐れすぎてミスを犯すよりマシだ。監督と選手は同じ考えを共有する必要がある。ただし監督は、威厳も保っていかなければならない。他のチームの監督のように選手と衝突したくなければ、彼らをコントロールする必要がある。バルセロナを監督として率いるためには、ピッチ上で選手が犯したミスを正すよりも、スター軍団をうまくコントロールする方法を知るほうが大切だ。チーム全体に自分の影響を及ぼし、選手を引きつけ、納得させる。選手達は監督である君に対して、アイドルのようなイメージを持っている。それを上手く利用することが必要となる。」


ってものです。



で、これは覚えている人も多いかもしれませんが、ペップは2008ー2009年の開幕戦、昇格組のヌマンシアにいきなり0-1で負けてます。次戦のラシン戦は引き分け。ここでブスケッツが初スタメン。で、結果が出たのが3戦目のスポルティング戦で、ここで6-1で快勝し、こっからは伝説が始まるわけですわね。



バルサのここからの軌跡は、みんな知っていると思うので割愛しますが、ペップが明らかに一番苦労していたのは、ロッカールームのコントロールでして、「スター軍団をうまくコントロールする方法」ってのが一番難しい仕事の一つです。これは、ビッグクラブの監督に必須の能力といってよく、これが出来ないと「ベッドを用意される」事になります。


ビッグクラブで「ベッドを用意された」監督としては、最近だと、いっちゃん有名なのがフェリックス・マガトで、


ヘーネスは「選手があれ程走らないのは、練習で疲れているか、それとも監督に敵対心を抱いているかのどっちか」と、ヴォルフスブルクの監督と選手の関係を疑問視した。

マガトはかつてバイエルンの監督として2シーズン連続の2冠を果たしたが、2007年に解任された。その頃のマガトについて「2タイトルを獲りながら選手の8割を敵に回すとは、何かがおかしい。恐らくヴォルフスブルクでも同じ問題が起きている」と語った。


ヘーネスがマガト監督を批判

こんな記事もありましたよね?マガトは、監督としてみると、タイトル幾つも取ってる訳で、優秀な部類なんですけど、如何せん、選手に反乱起こされてサボタージュ食らうか、ロッカールームで造反が起こりフロントが介入せざるを得ず、解任て形で地位を追われてるんです。


最近だと、モウリーニョとレアルの選手の不和の話は有名ですけど、


モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」 明かされなかったロッカールームの証言

モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」 明かされなかったロッカールームの証言



こっちの本、先日買って読んだんですが、内容的には、モウリーニョとレアルの選手の確執、レアルの選手がどうしてモウリーニョに反旗を翻すことになったのかってがまとめられた本で、凄く黒い内容です。結果的にはモウリーニョは、レアルの選手に追い出されたようなモンです。(こっちの書評は今度やりますね)これ、読んでみて、イグアインエジルが売られて、カシージャスが干されてる理由がやっとわかりました。



実は、ペップ自身も監督として、イブラヒモビッチエトーボージャンヤヤ・トゥレなんかをコントロールしきれてませんでした。それぞれの選手と反目した理由がそれぞれあるわけなんですが、知りたい人は本書を読んでみてください。



スター軍団のコントロールってのは本当に難しい仕事で、これを長期間やり続ける事に成功した監督なんて、ユナイテッド前監督のファーガソン以外に知りません。そのファーガソンですらコントロールが効かなくなった選手は売ってしまってますし・・・・



ペップ時代のバルサは、その最後の一年になると、ピケやメッシのコントロールに苦労するようになってきてまして、特にメッシとの関係が難しくなっていました。当たり前ですが、10代の「神童」メッシならともかく、バロンドールを3回とった「伝説の」選手をコントロールするなんて、ほとんど不可能です。最近はアンタッチャブルになってるし・・・



ペップは選手に対して、ロッカールーム、最後のスピーチ(本書の第一章に載っている)で、「このまま監督を続けていくのは危険だった。君たちとお互いに傷つけ合ってしまうことになるからね。」って述べているんですけど、これねえ、思う事が色々あるわけです。



イングランドの名監督にブライアン・クラフがいるわけですが、彼は、これから契約しようとする選手に必ずこういっていたそうです。



きみより上手い選手を見つけたら、我々は迷うことなく君を替える。われわれはそのために給料をもらっている。最高のチームを作り、出来る限り勝たなくてはならない。きみよりいい選手がいるのに、その選手を獲得しなかったら、われわれはペテン師になってしまう。しかし、われわれはペテン師ではない。



と。


サッカー選手ってのは、どんな選手であれ(メッシでさえも)、いずれ、クラブから「お前はもういらない」と言われる日がやってきます。クラフやマネーボールビリー・ビーン並に冷酷非情にビジネスライクに選手を売り買いできる監督なら、それも出来るんですけど、グアルディオラは、ちょっと繊細すぎる所があるんで、それがどうにも出来ないっぽい。買うほうは出来ても、売る方は・・・って感じです。実際、選手売るの下手だったし。特にカンテラーノに対しては。



まあ、これ以上、詳しく書くと、本書を買う意味なくなるので、このあたりにしときます。


興味をもった方は、是非とも本書を手にとってみてください。上記のような興味深いバルサのエピソードがちりばめられています。章としては、2章と3章がいい感じでした。



ではでは。